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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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164 スライムの無敵性能

(…………水の中にいると<隠蔽>をしてなくても基本的には気づかれない感じか? それとも、単に水の中にいる魔物には興味がないとか……あり得るな。そもそも水の中にいる魔物と積極的に戦いたいとは思わないだろう。特にこの川酷いもんな)


 今アズラットのいる場所は川の中である。

 川はそこそこ広く、アズラットが中にいても分かりづらい。

 そもそもスライムは水の中にいるとあまりはっきりと確認することは難しい。

 そのうえここの川は汚水で汚れ濁り、その中を見通すことなどできないだろう。

 アズラットがそこにいることに気づいても入って倒すということまですることはないと思われる。

 しかし、なぜそこにアズラットが入ったのか。

 それに関しては、川辺で人に見つかりそうになった緊急手段として、だ。

 アズラットは場合によっては戦う危険があるため出来る限り接触しないようにしている。

 まあ、並の冒険者でアズラットを倒せることはない。

 だが、それゆえに危険視される危険もあるだろう。

 ゆえに見つからないように、遭遇しないように、戦わないようにと動いている。

 その手段の一つとして水の中に逃げ込んだ。


(……しかし、本当に酷いな。いくらなんでも酷すぎない? こういう世界ならもうちょっと自然的でましな環境であるべきでは……と、知識から考えると思うところだが。まあ、人間が住んでいる以上仕方ないのかもしれないが……)


 川の汚れを見てアズラットは思う。もうちょっとなんとかならないのか、と。

 いくらなんでも汚れすぎではないかと中に入って思う。実際アズラットの体に触れる汚れは多い。


(……ふむ。ちょっと、取り込んでみるか。ま、あんまり取り込みたいとは思わないものだけど)


 アズラットは川の中にある汚れを取り込む。

 本当はあまり好みではないものだが、今更である。

 さんざん迷宮で死体やら埃やらなにやら、様々な物を殺して食らってきたわけである。

 汚れを気にしても仕方がない。

 そもそも味覚があるわけでもなし、精神的に気になる程度だ。

 体に付着した汚れも吸収して消え去るのだから。

 そうしてアズラットは川の汚れを取り込む。

 とはいえ、アズラットの通常の大きさではあまり変わらないが。


(おー、綺麗になったなあ……ちょっとだけ。ま、自分に触れている部分だけ取り込んでも川の汚れがどうにかなるわけじゃないよな…………ふむ、今の俺の大きさなら特に見つからないが。元の大きさで水の中は……流石に不安だな。だけど、夜なら多少はなんとかなるか?)


 そういうことで、アズラットは街の人通りが少なくなる夜を待つことにした。

 アズラットにとって街で過ごすのは初めてで、街で一日を経過するのも初めてである。

 一応迷宮の外に出て移動する過程で昼夜の経験はしているが、それでも街でのそれは初めてだ。

 そもそも迷宮生活において、迷宮内における昼夜と言うのは基本的に体験しづらい。

 迷宮内では日が昇ったり落ちたりすることを示す機構が存在しない。

 まあ、ある場所もないわけではないが。

 そういうこともあって、なかなか昼夜と言うものを経験しづらい。

 特にアズラットは経験した覚えがない。

 まあ、そういうことで初めて経験した街での夜。

 街において夜でもある程度は明かりや人通りはある。

 とはいえ、深夜になるとそれはほとんどなくなるだろう。

 まあ、夜に行動する生物や人間もいるわけだが。


(……人の気配はなくなってるな。まあ、ないとは言わないが……大半は家の中、寝てる感じか)


 水から上がり、外の様子を己の振動感知能力で調べ、基本的に人通りがないのを確認する。

 まあ、深夜に街の中をウロチョロする怪しい奴が多いと困るという話だ。


(さーて、今のうちに……)


 アズラットは己の体にかけている<圧縮>を解除する。

 それにより体は大きく水の中に広がる。

 アズラットの体の大きさは普通に川幅のかなりを埋めている。

 流石に川を超えるくらいには広がらない。

 いや、仮に川を超えるくらいに広がれるとしてもそこまで広がるつもりはアズラットにはない。

 広がり水の中にいるアズラットだが、振れている汚れをすべて飲み込む。

 アズラットとしてはその程度の汚れは一時の食事程度で経験値や身体の補完の意味合いでも大したものではない。

 しかし、アズラットにはそうであっても……川にとってはかなりいい影響だろう。

 なお、アズラットに吸収されたのは汚れだけではなく、川の中にいた生物もまた吸収されている。

 そのため、水はとても綺麗である……汚れも、そこにいる生物もなく。

 疫病の発生元もだいぶ飲まれた。

 ちなみに、アズラットのようなスライムに、ちょっとした毒やウイルスの危険は特にない。

 そもそもスライムはその手のものに対する耐性は極めて高い。

 生存に重要なものが核であるためだろう。

 周りの液状部の被害は特に問題でなく核に影響が出る前に吸収できれば何も問題にならない。

 まあ、そもそも核に影響が出るようなことはよほどの事態でなければ起きえないだろう。

 特にアズラットの場合はかなりの体が圧縮されていることもありほぼ影響は出ないと思われる。


(ふう…………水の中だとなんというか、変な感じなんだよな……身体を素通りするし)


 アズラットの体は水の中では微妙な感じになる。増えた体により水嵩が増えるということもない。

 そして、その身体が水に浮かぶということもまたなく。

 まあこの川くらいならば水底で<跳躍>を使えば移動は容易いし流れも緩いので移動もしやすいが。


(…………うーん? 綺麗にしたはいいが……これって、見つかったらやばくないか?)


 考えなしにアズラットは川を綺麗にしたわけだが、これが見つかった場合どうなるか?

 単純に川が綺麗になった、というだけで済むはずはないだろう。

 川を綺麗にした原因に関して調査される可能性がある。

 まあ、アズラットに行きつくとは思えない。

 この川を綺麗にすることが夜に行われたため、何がどうしてこうなったのか、というのがわかるはずがない。

 アズラット自身も基本的には隠れて過ごしていたのでその存在を知られていない。

 仮にアズラットのことを知られていてもスライムが原因とは思われないだろう……恐らく。


(……よし、逃げよう。とはいってもどこに行けばいいのやら)


 基本的にアズラットは大きな目標、大雑把な目的こそあるものの、細かく考えずに動いている。

 その結果がどうなるか、に関してはあまり深く気にしない。

 まあ、アズラットがいなくなれば消える影響ではあるが。

 だが、今のアズラットの状況はいろいろと危険が多い。

 ネーデもいないし、アノーゼとの会話もできない。

 相談相手がいない、ストッパーの役割がある存在もなく、何がどうなるかを考慮していない。

 それが悪いとは言わないのだが、もう少し考えて行動するべきではないだろうか。

 まあ、言っても仕方がないことである。

 今のアズラットにそう言ったことを指摘できる存在がいない。

 ともかく、そんな感じにアズラットは行動しフィフニルにあった問題の一つが一時的に解決した。

 その一時的な解決をどう利用するかはアルガンドの国主の判断次第だろう。


(……やっぱり移動するなら馬車かね。<隠蔽>あるし、たぶん大丈夫だよな?)


 そういうことで、フィフニルで妙なことを起こしたアズラットは馬車に隠れ潜む。

 そして次の日その街から旅立つのであった。

 フィフニルの川が綺麗になったことは不思議な事件として後に語られる。

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