163 冒険者が多い弊害
アルガンドの首都、フィフニルに存在する冒険者の街。
フィフニルは四つの迷宮に通じるため、必然的に冒険者の数が多い。
この冒険者の数が多いというのはとても厄介である。冒険者には荒くれ者が多い。
そうでなくともアルガンドの人間でない多くのよそ者が来ることになる。
同じ国、同じ文化に生まれた人間でない者ばかりが増えるのはいろいろと問題が多いだろう。
そのため、フィフニルには冒険者たちが住むための街、というものが存在する。
しかし、この街は後付けに近い街であり、また増える冒険者に合わせて広げている。
そのせいで色々と問題も多い。建物とか、施設とか。
また、食糧問題、水の問題、住居の問題、様々な問題がある。
冒険者であるので迷宮からの食糧確保もできるので極端な問題はないが。
ともかく、冒険者の住む街にはいろいろと問題が多い。
彼らは彼ら自身で物事を解決できる。彼ら自身で物事を解決する。
場合によっては荒事になることもあるし、力こそすべてとすることもある。
様々な形で冒険者が冒険者たちで問題を解決する……そういう事態になっている。
実際冒険者たちの住む街における冒険者はかなり自由に生きることができている。
まあ、だからこそ問題が起きるわけであるが。
(死体が転がっているとは……世紀末の街かなここは?)
その問題の一つが街中における死体。そしてそれを食らう魔物や動物。
街中でそんな状態であるというのもまたかなりの問題と言えるだろう。
(…………スライムが引っ付いてるな。いいのかね、これ。まあここ冒険者ばかりだからそこまで問題にはならないのかも?)
基本的に街の中にも魔物はいる。まあ、基本的にはスライムや大鼠程度の雑魚魔物。
それらがこの荒れた街の分解者的な役割を担っている。
そして、この町に来る冒険者たちが倒し肉を得たり経験値にしたり。
まあ、低レベル過ぎるため経験値にはならないし、人を食った生き物の肉を食いたい者も少ないだろう。
いない、とは言わない。それくらいにアルガンドは底辺の冒険者も集まる場所である。
(しかし……なんというか、この場所、普通の街じゃないよな、冒険者ばかりだし。あっちの方はたぶん普通なんだろうが)
冒険者たちの街ではない街、城のような建物が存在する方向を見ると明らかにこちらよりもいい街並みである。
そしてそちらの方面には恐らく冒険者は少ない。さすがに全くいないとは言わないだろう。
基本的にこの冒険者の街が冒険者たちの住む場所だが、この国出身の者もいる。
あくまでこの冒険者の街は外から来た冒険者を受け入れるための場所だ。
元々フィフニルに住んでいる人間が冒険者となった場合は彼らの住んでいる場所はそのまま同じ場所だろう。
(……街並みはともかく、これはちょっと酷いんじゃないか?)
アズラットは街の中を流れる川をみる。基本的に川は街において重要な水源である。
一応井戸などもないわけではないが、人数が人数だ。フィフニルには冒険者の数が多いゆえに。
人の存在が多く、迷宮から肉を確保することはできても野菜、植物の類は別。
そもそも迷宮からフィフニルに食料を持ってくるだけでもまた面倒で大変である。
なのでフィフニルにも畑の類はある。そういう意味合いでも川は重要な水源だ。
しかしこの川だが、上流は普通に綺麗な川でいいのだが下流になると酷い状態になっている。
フィフニルには人の数が多い。
それゆえに、ある程度多くの人間がいても問題がないようにしなければならない。
糞便の処理がなされなければ疫病の蔓延が起きるくらいに酷いことになり得る。
そのため、それらを川へと流れ込ませるように街は設計されている。
さて、この川だが。これは重要な水源である。
井戸があるが、井戸で賄えるような人間の数ではない。
そのため川の水を飲み水として使うのだが……街の排泄物や汚水が川に流れ込んでいるわけで。
下流のほうはひどく、そして下流のほうは冒険者の街である。
つまり、冒険者の街に住む冒険者が使う水は相当ひどいものばかり、という状況だ。
冒険者の街が色々と酷い状態になっているのはそういった部分が影響しているのかもしれない。
(まあ、俺が気にしても仕方ないんだろうけど……)
そんな川をアズラットは見ていた。
迷宮国家アルガンド、その首都フィフニル。
当然ながら国であるので国家元首がその場所に住んでいる。
フィフニルにある城は国主の城、ということである。
その城で国主は悩んでいた。フィフニルにおけるいろいろな問題を。
フィフニルの冒険者の街はアルガンドに集まる冒険者をなんとか住まわせる苦肉の策に近い。
そして、その後冒険者の街で起きた様々な問題に関してもまた大雑把な対処となっている。
そもそも、冒険者はアルガンドにおいて重要な人的資産である。
迷宮における魔物を撃破し、それらから得られる資源の回収、迷宮の攻略など。
アルガンドは迷宮と言う重要なものを抱えているが、これらに対する対処はとても重要なものだ。
だから冒険者が必要になるのだが、アルガンドは迷宮国家と言われるほどに迷宮が多い。
それが原因で冒険者が集まりすぎている。その対処が厄介で面倒で大変なのである。
一応現状では対処できているが、しかし現状のままで良いとは思えないわけである。
「どうしたものか……」
国主は己の仕事机で仕事をしつつ、どう対処したらいいかを考えている。
とはいっても簡単に妙案が思い浮かぶのならば苦労はしない。
既に何らかの対策をしていてもおかしくはないのだから。
大きな問題は二つ。冒険者の街における治安とその影響。そして、川の汚れとその危険に関して。
特にこの二つには冒険者の街と自分たちの住む元々のフィフニルの街両方に影響をもたらす。
冒険者の街の治安の悪化の影響はその冒険者の街に接するフィフニルの街に響いてくるからだ。
一応貴族街などには基本的にそこまで問題にはならないのだが、貴族や偉い人間だけが無事でいればいいわけでもない。
冒険者の街に接する多くのフィフニルの住人にとっては冒険者と言う力で抵抗できない荒くれ者は恐ろしい相手だ。
彼らが荒れ、フィフニルの住人に牙を向くようになる可能性がある。
そうならないよう、いろいろと手を尽くしてはいるし、いざという時の対策は講じているが、やはり問題はある。
まあ、そちらは徐々に何とか対処していくしかないわけであるが……もう一つ、川はもっと大きな問題である。
一応川の汚れが問題となるのは現状下流側で問題となるのは冒険者の街が主であるのだが。
それでも放置しておいていい問題ではない。
フィフニルは比較的高所にある街であり、川はそのさらに下流へと続く。
そうでなくとも冒険者の街から流れ込む汚れの影響はいろいろと被害が大きい。
臭いもあるし、地下水への影響、虫の発生、魔物が住み付く、様々な問題があり得る。
特に衛生面的な問題も大きく、徐々に病気の発生件数も上がって行っているという話もある。
そのため、どうにか対処をしたいわけであるが、対策を講じるのも難しい。
また、川の汚れをどうにかするのに対処療法的なやり方をするのも難しいわけで。
それゆえに困っている、というのが現状である。
「し、失礼いたします!」
「……突然どうした?」
唐突に部屋に入ってきた部下。その報告を聞き国主は驚く。
「なにっ!? 川が綺麗になっているだとっ!?」
フィフニルの川、とんでもなく汚れていた川だが、その川はかなり綺麗になっていた。
まあ、完璧に綺麗になるということはあり得ない。
一時的にすべての汚れがなくなっても、また流入してくるのだから。
しかし、一時的に綺麗になったことで幾らか余裕はできる。
その間に手を尽くさなければならないだろう……できるかはともかく。




