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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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156 迷宮奥の竜王

(……ふう)


 ヒュドラの全体、それをアズラットは<圧縮>を解除して飲み込み消化、吸収する。

 これまでの経緯、流れとしてはヒュドラはかなりの経験値となると予測している。

 なので倒したヒュドラを全て取り込んだわけである。

 そんなことをしている間に、扉が開いてネーデが部屋の中に入ってきた。


「アズラット!」

『(ネーデか。勝ったぞ)』

「…………た、確かにいないけど…………勝ったんだ」


 ネーデはアズラットの勝利にかなり驚いた様子である。

 まあ、普通に考えれば明らかなサイズ差がある相手だ。

 勝てるとも思えないほどの差があったのだ。

 しかし、アズラットは勝った。その屍は食らいなくなっているが、討ち倒したのである。

 ネーデもアズラットが勝てば良いとは思っていたし、負けるとも思ってはいなかった。

 だが本当に勝つ、討ち果たすとも思っていなかった。負けないは勝つと同義ではない。


「あれ? 結構大きな音がしたけど……ヒュドラは?」

『(食べた。いつも通り)』

「そうなんだ……あんなに大きかったのに、食べるのは楽なの?」

『(生きている相手と死んでいる相手は消化速度が違うからな。時間はかかったが……っていうか、ネーデも音がしてすぐ入ってきたわけじゃないよな?)』

「ちょ、ちょっと覚悟を決めてたから……」


 大きな音は部屋の外にも響いたようであるが、その後の様子の確認もしていた。

 そもそも何が起きたかもわかっていない。どういう状況なのか、それを理解しなければならない。

 音が連続して響くようなら何かとんでもないことが起きているのかもしれないと思うだろう。

 しかし、特に音もなく静かだったのでそーっと扉を開けて入ってきた。

 その間にそれなりに時間の経過はあり、アズラットはヒュドラを食べつくしたのである。

 まあ、今のアズラットは<変化>の利用をして消化速度をある程度速くできるし。


「…………えっと、それで、倒したけど……どうなったの?」

『(あー、そういえばヒュドラはあくまでこの先に行くうえでの障害みたいな感じ……だったのか? 迷宮のラスボス、って感じでもあったが。でもまだ道は続いているな。二十階層でラスト……だと思うんだが)』

「そういうのはわからないけど……まだ行けるなら行こうよ」

『(そうだな。何があるか……見てみたいところだし)』


 この広間の先、道の先が存在する。ここに入ってくる時と同じように扉というわけではない。

 ヒュドラを無視すれば先に進むことはできたのだろう。

 まあ、無視できる相手ではなかったのだが。

 その続く道を二人は進む。ヒュドラの処へと続く道と同じく、まっすぐの遺跡のような通路。

 その道を二人は進み……また扉があった。ただし、この扉はヒュドラの所とも違う。

 しっかりした作りの両開きの扉。竜の装飾がされており、迷宮の名に恥じないイメージである。

 そして明らかにこの先に何かがいる、ということを表すような扉である。


「…………ねえ、アズラット。これって」

『(絶対にこの先に何かいるよなー、って感じだな……)』

「……開けてみる?」

『(まあ、開けてみるしかないだろうな)』


 両開きの扉ということもあって前に立って開けなければいけないというのがどうにも不安である。

 しかし、そうしなければ開けにくい。なのでアズラットを頭の上に載せながらネーデが前に立ち扉を開く。


「っ!」


 扉を開くと、目の前には豪華な椅子。

 大きさはさほどではない。どちらかというと人の大きさに近い。

 その椅子に、竜のような人のような存在……俗にいうリザードマンのような存在が座っていた。

 しかし、リザードマンというには……その存在は明らかに格が違っている。

 身に纏う雰囲気はそこに存在するだけでヒュドラの巨体と相対しているかのように思える。

 大きさでいえばヒュドラと比べとても小さい。

 だが同等のように感じられるということはそれだけ強いということだろう。

 そして何よりも、その存在の持つ雰囲気は鋭さが違っている。

 ヒュドラはただそこにある巨大さゆえの威容による雰囲気が凄いだけであった。

 目の前にいる竜人は明確に目の前の存在……すなわちネーデ、およびアズラットのことを見つめている。


「………………」

『(ネーデ? おい、ネーデ!?)』


 硬直した様子でそのまま立ち止まるネーデ。ぶるり、と震える様子で動かない。

 アズラットも竜人のことを恐れる気持ちはあるが、ネーデほどの恐怖はない。

 <念話>を通してどうにか言葉を届けても動きが見られない。

 そうしていると、二人の頭の中に声が響く。


『(そこの二人よ。そんなところに立たず我が前に来い)』

(っ!?)

「……っ!!!!」


 自分以外の存在からの<念話>。アズラットがネーデと通じ、<念話>を相手のほうから返してもらうことはあった。

 だが明確に自分以外の存在からの<念話>というのは初めてである。

 そして、ネーデはその声を聴いてアズラット以上の驚愕……いや、恐怖に慄いていた。


『(ネーデ? 大丈夫か)』

「…………だ、だ……いじょう、ぶ」


 言葉を出すだけで精いっぱい、という様子である。


『(早く来ないか。来ないのであれば……消すぞ?)』

「…………!!」

『(ネーデ、行くぞ……流石に抵抗は無理、じゃないかな)』


 逃げるにしても、扉を開けた状態で逃げるのは恐らく不可能に近い。

 竜と同じ強さ、同じ能力を竜人が持ち得るのなら、恐らくは炎を吐ける。

 しかも並の竜種とは桁違いの強さだろう。

 ヒュドラ規模の強さであるなら<防御>はどれほど意味を成すか。

 そして、レベルや身体能力的にも二人よりもはるかに上の強さを持ち得ることは間違いない。

 かなり緩慢ながらも、ネーデとアズラットは竜人の前に向かって動き、相対する。


『(まさかあの巨竜を倒し我がもとに来る者がいるとは……いずれは来るものと思い幾星霜も待ち続けたが……これまで終ぞこなかった。だが、ようやく来たようだな。よくぞ我が前へと来た、迷宮の踏破者よ)』

『(…………あなたは)』

『(ふむ? ほう、お前も<念話>を使うことができるのか? 我が力とは別の流れを感じるぞ。お前は……そこの娘ではないな。いや、そもそもその娘、我が気配に怯えている。あの巨竜を討ち果たしてここに来るものがそのような弱者であるはずもない。そうか、お前があの巨竜を討ち果たしたようであるな……そこな娘の頭の上にいる小さな存在よ)』

『(ああ、そうだ)』

『(ふむ……見た限りではスライムにしか見えぬが)』

『(スライムだよ。そっちこそ、リザードマン……ではないと思うが、一体何なんだ?)』


 ネーデほどではないものの、アズラットも目の前の存在はなかなかに恐ろしいものだ。

 恐らくは相手のレベルが問題なのだろう。アズラットとネーデではかなりのレベル差がある。

 そして、この竜人とアズラット、ネーデにもレベル差がある。

 アズラットのほうがレベル差は小さく、ネーデのほうが大きい。

 アズラットが動けてネーデが動けないのはつまりそういう話。

 レベル差の問題……なのかもしれない。


『(ふ、まさか我のほうが訊ねられることになろうとはな……しかし、今まで我の前に来る者はおらず、つまらぬ生活を送ってきていた。それに比べれば今の状況はとても面白いだろう。よし、その問いに答えようではないか小さきものよ。我はかつて竜人であった者。しかし、神意を受け迷宮を生むに至り、竜人から昇華した大いなる力を秘めし存在。竜神……と言うと少々大層だな。そこまでではあるまいよ。であれば……人の最上位に倣い、竜王と名乗らせてもらおうか)』

『(……竜王)』


 竜王。目の前の自分たちをはるかに超えた怪物はそう名乗ったのである。

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