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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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155 スライムは眠らないし疲れない

「………………」


 ネーデは二十階層の扉を開ける。扉の向こうには変わらず巨竜が存在する。

 しかし、その巨竜はこれまで通り大きく動いていた。それと同時に飛び交う小さな者も。


「まだやってる…………本当に凄いなあ」


 扉の中を見て思うのはそんな単純な感想。しかし、そうとしかいえないくらいだろう。

 なぜならアズラットが戦いを初めてもう数日も経っている。

 戦いを始めた日から今までずっと、戦っているのだから。


「…………いつ終わるんだろう」


 今までずっと戦えている、それはまあ問題ない。

 ネーデが気にしているのはアズラットがいつ戻ってくるか。

 勝つか、負けるかはわからない。それでもアズラットは死なないで戻ってくることだろう。

 今まで戦っていられるくらいの強さがあるのだから、退き際を間違えることはないはずだ。

 そう、ネーデは考えている。






 スキルとは何か? この世界のスキルを覚えている多くの者もそれを正確には理解していない。

 スキルは神からの賜りもの、あるいは世界の法則に則った特殊な形で与えられる異能。

 例えば<魔法>のスキルがある。

 ではこの世界に魔力というものは存在しているのか? いや、していない。

 例えば<気>のスキルがある。

 ではこの世界に生命力を気として扱う技術はあるか? いや、存在しない。

 こういったスキルとして存在していることであるのにスキル以外ではできないことは珍しくない。

 <剣術>などはスキルがなくとも扱えるが、<魔法剣>はスキルがなければ扱えない。

 <魔法>のスキルと<剣術>のスキルを持っていれば少し話は違うが。

 さて、ではそもそもスキルを扱うために使う力というものは何だろう。

 スキルというものは原則無制限に扱えるものではない。

 覚えることにも、扱うことにもいくらか制限がある。

 しかし、パッシブなスキルもある。ネーデの持つ<剣術>はパッシブのスキルだ。

 アズラットの持つ<圧縮>はパッシブな使い方をしているがアクティブにも使えるスキルである。

 パッシブなもの以外に<跳躍>のようなアクティブにしか使われないスキルもある。

 基本的にこういったスキルに必要な力の消費というものは存在しないと言われている、

 でなければパッシブなスキルを持っているだけですぐにスキルが使えなくなってしまう。

 だが<防御>のように時間制限のあるスキルもあるし、<魔法>のスキルは使えば消耗がある。

 そういったことは感覚的にもわかることだ。

 竜とて炎を吐く能力を無限に使えることもなく、ガス欠がある。

 そういったスキルを扱うための力というものは何なのか。

 それを理解している者はこの世界にほぼいないだろう。

 神格の部類ならばまだ話は違ってくるのだが少なくとも普通にこの世界に生きる存在にはいない。

 スキルを使うための力というもののはその生物の格、大きさに依存する。

 具体的にはレベルや体格とサイズである。

 大きなものは膨大なエネルギーを有し、レベルの高い者もまたエネルギーを多く所有する。

 さて……このエネルギーだが、アズラットはいくらほどのエネルギーを有するだろうか?

 アズラットのレベルは七十に迫るほどであり、その元々の大きさは相当巨大なもの。

 それこそヒュドラに匹敵する大きさまで成長している……かはわからないが、かなりのものだ。

 カイザースライムはその存在一つだけで災害に匹敵するくらいだ。かなり大きいのは間違いない。

 つまり、アズラットの持久能力は極めて高いといえる。

 スキルを使うのに必要なエネルギーはそもそも消費が少なく、ずっと使い続けても問題ない。

 体を動かすのに体力は存在しない。スライムは体というものがなく、肉体的な限界がない。

 スキルとその行動を行うための精神力、アズラットにとって大きな消耗となるのはそこだろう。

 生死のかかった戦いをずっと続けていれば、その精神的消耗はかなりのものとなる。

 終わりのないマラソンを続けているかのように、相手を倒すための持久戦、削りあい。

 それを行うアズラットの精神的な消耗は大きなものとなるだろう……ともすればミスを招きかねないくらいに。

 だが、アズラットは今回ミスすることなく戦えている……いや、むしろいつもよりも戦えている。

 徹夜明けのテンション、と言われるようなものがある。

 精神的につらい状況というものがあるが、それがある一点を超えた時、どこかぶち抜けてしまうのである。


(ふ、ふふふ! まだ、まだ!)


 <跳躍>と<加速>を駆使し飛び交うアズラット。戦いの最初のほうは焦りや恐怖が大きかった。

 だが今のアズラットはどこか戦うことを楽しんでいる。

 スキルを扱い、それを活用し、巨竜を翻弄する。

 それを存分に楽しんでいるのが今のアズラットだ。戦いを楽しむ、というのとはまた少し違うが。

 ずっと戦い、精神的に疲労し、それでもまだ戦い……ぷちん、とどこか精神がブチ切れた。

 そこからはアズラットのハイテンションモードとでもいう状態になり、スキルを使う精神疲労がなくなった。

 肉体を動かすことにも意思を多く伴わず、本能と反射を活用できるようになった。

 アズラットはスライムであり、それゆえに体力的疲労はない。精神的な疲労も消えた。

 ここまでくると、あとはアズラットがミスした時や意識が逸れた時、またはこのハイテンションの状態が消えた時が問題だろう。

 しかし、今のアズラットがハイテンションの状態から落ちることはなく、何かあるとすればミスくらい。

 そのミスもここぞという部分でミスしなければ大丈夫なくらいだ。


(頭を一度、二度、三度、四度、何度潰したかなあ! 一度でダメなら二度、とやってみたが、それでも回復しやがるぜこいつ! だけど、いつまで回復できる? 無限にできる……わけはないよな? 限度がある。切り落とすとかできないし、ある程度溶かしたりくらいしかできないし、潰して取り込んでもそれでもまだ取り余る量だ。それに潰したとしてもすぐに別の首が動いてくるし。ああ、もう、厄介! でかくて生命力高くて傷もすぐ回復する厨性能め! だけど、その回復能力にも限度ってものがあるはずだ! いいだろう! 死ぬまで、倒れるまで! いくらでもやったらあ! どっちが先に倒れるか、嫌になるか、根比べだっ!)


 相手のヒュドラに明瞭な意思はない。ヒュドラの役割はアズラットの排除である。

 迷宮の最奥に向かう道を守るボスとして、それが己が仕事として、ヒュドラは戦いを行っている。

 嫌になるということはない。そんな意思はない。自身が倒れるか、相手が倒れるか。


(っと! やっているうちに侵入も楽になったな!)


 <穿孔>。相手の体に穴を開け、その中に入るスキル。

 しかし、そのスキルは竜相手には効果は低い。竜の鱗はかなりの強度を持つ。

 そして相手はその中でも脅威の巨体を持つ特殊な竜。その強度は並大抵ではない。

 簡単に内に入り込むこともできない。サイズが大きいのが逆に厄介で鱗の隙間に入りづらい。

 ゆえに、本来ならば<穿孔>はほとんど通用しない……のだが。

 ここでアズラットはずっと、スキルを使い続けて戦っていることを思い出すべきだろう。

 スキルは使えば使うほどレベルが上がる。

 つまり……アズラットのスキルのレベルは大きく上昇しているということである。

 流石にあまり使わないスキルは話が違ってくるが、<跳躍>あたりはかなり上がっているに違いない。


(<圧縮>解除! っ、さすがに簡単に吹き飛ばせないのよなあ。<変化>も合わせるけど、作用するのが表面じゃな。でも、ダメージがないわけではないし、回復するにしても消耗はある。本当は首を落とせるレベルでやれるのがいいんだが、やはりなかなか首一つ持っていくのは難しいな!)


 戦い方そのものは大きく変化していない。己の肉体、スライムの液状の体を使用した戦い方。

 <変化>を合わせるようになり、<加速>も併用しているが大きくは変わらない。




 そしてアズラットはひたすら戦い続けた。

 ヒュドラの生命力をひたすら削り続けた。

 ヒュドラは無限の存在ではなく、無敵の存在でもない。

 他の存在がここに入ってこない限り動かないくらいである。

 その生命力に限度がある。だからこそ、こうしている。

 生命力をアズラットが戦い続け消耗させている。

 生存するだけでもエネルギーの消費は大きい。

 それをさらに身体を削り再生させることでさらに削っている。

 一方でアズラットはヒュドラの体を戦闘で削りつつ吸収する。

 それはアズラットの体となり経験値となる。

 流石に簡単にレベルは上がらないが、戦闘中に少しずつ失われる体の補填となるのは大きい。

 アズラットとヒュドラの戦いはアズラットが相手を攻撃すると回復していき、ヒュドラはそこにいるだけで大きく消耗する形になっている。

 すなわち、ひたすらアズラット有利で進んでいるということ。

 最終的に、ヒュドラの回復力が大幅に落ち、首が失われても回復しなくなっていった。

 それを見たアズラットが首を一つずつ落とし、ヒュドラの首がすべて失われ、その巨体は地に臥すこととなった。

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