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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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153 行きつく結論

『で、どうしたらいい?』

『いきなり質問されても、主語も内容も言われないで何を答えていいのか困りますよ?』


 <アナウンス>を通じていきなり話しかけてきたアズラットに苦笑しながらアノーゼは答える。

 普通はいきなり内容もなく質問されても困るだろう。もっともアノーゼはあまり困らない。

 アノーゼはずっとアズラットのこれまでの行動や思考をずっとストーカーのごとく見続けている。

 ゆえに、何を聞きたいのか、どうしたいのかはおおよそわかる。


『…………何度か竜を相手に戦って、どうでした?』

『竜相手、か。まあ十分戦うことができるってところだな。強さ的に倒す分には問題がない……まあ、炎とか吐いてこられるとちょっとまだ不安は大きいけどな。<防御>で一時的に防げるし、表面が少し焼かれるくらいでどうとでもなるが、それでも物理攻撃よりもダメージは大きいからなあ』

『そうですね……でも、炎の熱の影響を防げる<保温>を覚えるつもりはないと』

『まあ、さすがに炎を防ぐだけだとなあ……って、あのスキルで炎の熱を防げるの知ってたのか』

『一応は、ですね。あのスキルはそもそも温度を一定に保つスキルであり、自身の温度状態を自分の最も適切な状態に保つ……当然炎などの熱量攻撃の影響を防げるのは当たり前ですよ? もっとも炎そのものをどうにかできるわけではないのであくまで温度の影響を受けないだけですけど』

『……まあ、そうだな』


 <保温>のスキルの能力は温度を保つこと。

 名前の通りだが、通常は熱い地域や寒い地域での活動をしやすくするもの。

 しかし、その内容を考慮すればそのスキルは当然熱量による攻撃、温度変化による影響を防げる。

 アノーゼはその性質を知っていた……とは言うが、よく考えればわかるものである。

 また、アノーゼの言う通り温度の影響を受けないだけ。例えば炎による酸素の消費は防げない。

 つまり温度変化に対応できるというだけでそれ以外は防げず、スキルを持っていれば安全というわけではない。

 まあ、アズラットの場合は温度変化に対応できればそれでいいのかもしれない。

 さて、話で重要なのはそこではない。


『話がずれてきてるぞ』

『あ、そうですね、はい。えっと、竜を相手にアズさんは十分に戦えています。ですが……今のアズさんの打倒目標は……』

『二十階層、あの巨大な竜のヒュドラだな。いくら竜に勝てるとしても、さすがにあれにはちょっとな……大きさが竜と全然違いすぎる』

『竜を相手に使える戦法は使うのが難しい。アズさんの攻撃手段は基本的にそのスライムの体を用いてのもの。相手の体の全部か急所、頭を包みこんで体の圧縮に巻き込み潰す。または包み込みスライムの万能な消化能力で溶解させダメージを与える。もしくは頭部を包み込み酸素を取り入れなくさせ窒息させる、ですね。こういった攻撃手段は普通の相手には有効です……普通の相手には』

『ヒュドラは……』

『普通じゃありませんよね。巨大で多頭、アズさんでも圧縮している体を解放し、その体全部で包み込もうとしても相手のほうが恐らくは大きい。頭部だけ潰してなんとかしようとしても、相手は多頭で一つ潰したところでどうしようもない。多頭竜の再生能力を考慮するとさらに難しくなりますし、相手にはブレスもあります。一本の頭を攻撃している間に他の頭からブレス、自分のブレスで傷つくほど竜は柔ではありません』

『やっぱり再生能力あるのか……』

『十八階層のケルベロスくらいならまだアズさんでもどうとでもなる相手でしょう。ですがあれほど巨大な相手だと……アズさんでもどうしようもありませんよね』

『そうだな………………はっきり言われるときついが、しかしよくこっちのこと把握してるな』

『アズさんのことですから。おはようからおはようまでずっと見ているのですから、当然弱点の類も分かりますよ?』

『それって見てない時がないって意味合いに聞こえるんですけど?』


 アノーゼは四六時中アズラットのことを見ている。そしていつでもアズラットの要請に応える。

 基本的にはスキルに関しての話が主だが、もちろん彼女はそれ以外にも対応する。

 何か相談事があればその相談に応えられるよう、何がいいか、どうしたらいいか、それを考えなければならない。

 アズラットのすべてを見て、そのすべてを把握し、得意なこと、苦手なこと、弱点、それらを知らなければ必要な内容を答えることはできないだろう。


『アズさんの弱点は攻撃手段の少なさです。アズさんの攻撃手段は唯一無二、スライムの体を利用しての攻撃のみです! あまりにもスライム的すぎるんです!』

『そりゃあスライムだし』

『…………まあ、そうなんですけど』


 スライムという生物は基本的に攻撃手段が少ない……厳密にいえば、ないとすら言える。

 相手に近づき、その身体でのしかかり、圧で潰す、身体を相手の顔に押しつけ呼吸を封じる、取り込み消化し溶解する。

 亜種であれば酸や毒の性質を持つかもしれないが、それでも攻撃手段自体はあまり変わらない。

 あるいは体当たりのような攻撃手段もあるかもしれないが、それもまた体での攻撃だ。

 体の一部を伸ばして触手のようにして攻撃する、などは基本的にはできない。

 できなくもないが、その操作精度は甘い。

 長さが本当に盛り上がる程度であったり、自在に動かせるレベルではなかったり。


『それなりに使っている圧縮した体の圧縮を部分的に解除して体を伸ばす圧縮解除、ああいうのを使うのも一つの手段だと思うのですが』

『限度があるだろ。あれで出せる威力、体をぶつけて出せるダメージ。当然竜には通用しない……』

『そうですね。なら、通用できるようにすればいいんです。例えば<硬化>や<斬撃>、<貫通>など、それ単体では単なる衝撃にしかならなくとも、スキルを追加すればできることはありますよ』

『……いや、それスライムで覚えられるのか?』

『<貫通>は覚えるのは無理ではないですが……<穿孔>がありますからあまり重要視する必要はないですね。<斬撃>は無理、<硬化>は……どちらかというと攻撃手段にはなりますがアズさんのメリットが消えるのでお勧めできません』

『あまり参考にならない内容だな……しかし、<穿孔>を合わせるか。悪い手ではないのかもしれないが……』


 <硬化>はアズラットのスライムの体の防御能力を著しく低下させるためアノーゼはお勧めしない。

 <貫通>は<穿孔>があるため必要なく、<斬撃>は前提からして覚えることができない。


『ええ、もちろんおすすめできないものばかり言うつもりはありません。アズさんのことですからやはり万能性が高いスキルを欲しているでしょう! 私からのおすすめは<変化>です!』

『……<変化>?』

『はい。粘性、毒性、酸性、己の肉体の性質を<変化>させるスキル……その中には硬質化もあります。斬撃性能を持つように<変化>させることもできます!』

『それは万能だな! 凄いじゃないか! ………………で、落とし穴は? 万能性が高いスキルがあるのはいいが、そんなスキルがあるなら他のスキルはいらないよな?』

『…………ええ、まあ。当然ながら性能はその専門スキルよりははるかに落ちます。また、その<変化>の内容に関して、毒ならある程度の毒性、通常の毒素にしかできないなど、<変化>できる限度があります。広く浅く、ということになりますね』


 特化したスキルと万能性のスキルはつまりそこが大きな違いだ。

 特化したスキルは狭く深く。

 一点特化であるため性能は高くなるが、その内容以外への応用が難しい。

 万能なスキルは広く浅く。

 様々な内容の物事を扱えるが、その波は大きくならずある程度までしか使えない。

 どちらがいいとは言えないが、基本的に自分にない部分を補えるほうがいい。

 アズラットの場合、スライムであるためその能力はどうにもピーキー。

 ならばやはり万能性の高いスキルのほうが有用性は高いということになるだろう。


『……………………うーん』

『……おすすめですよ?』

『いや、うん、まあ、考えとく』

『…………はい』


 今すぐ覚えるかどうかは保留するアズラットだった。

 とはいえ、今後ヒュドラに挑む場合、何もなしで挑むわけにもいかない。

 そういうことで結局アズラットは<変化>のスキルを覚えることとなったのであった。

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