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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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152 竜殺し

 竜。それは世界における最強の生物。

 その鱗は最大級の防御能力を持ち、その身体に秘める力は最大級の攻撃能力を持つ。

 もっともそれはあくまで基本的な部分において、生物的な部分での話。

 この世界では生きる者にはレベルというものが存在し、それが強さの一つの基準となる。

 同じ種族であれば、レベルは大きければ大きいほど強くなり、十も差があれば全然強さが違う。

 同じレベルであれば、それこそ種族の違いが強さの差となるだろう。

 では、強い種族の低レベルと弱い種族の高レベルの場合どうなるのか?

 そもそも種族の強さだけでは語れず、レベルだけでも語れず。

 場合によりけり、相性なども関係する。

 まあ、ともかく、レベルが強さの中で重要なものでもあるということだ。

 そして、レベルと同じく、この世界にはスキルというものもある。

 こちらはレベルとは違い、特に個性が強く際立つ物であり、強さと相性に対する影響力が大きい。

 同じレベルでも得ているスキル次第では一方が勝ち一方が負ける結果になることももあるだろう。

 まあ何を言いたいかというと、最強クラスの生物であっても本当の意味で最強であるというわけではないということだ。

 技術、スキル、レベル、弱点、武器、あらゆるものを駆使して戦うことで勝つことは可能、勝ち目はいくらでもある。


(よし……いくぞ!)


 十九階層。住んでいる生物がほぼ竜種で固められている階層。

 そこでアズラットは竜に挑んでいる。

 アズラットはスライムであり、竜とは本来戦いづらい生き物だが、その強さゆえに竜もまた戦いづらい。

 竜の攻撃手段は爪、牙、尻尾、角、その身体を用いての体当たり。

 物理的な攻撃手段はこれくらいか。

 これらの攻撃ではアズラットの防御能力を超えることはできない。

 しかし、竜には炎を吐くという攻撃手段があり、そちらはアズラットに対してかなり有効だ。

 また翼を用いて空を飛ぶことで基本的に地上にいるアズラットを避けることも容易である。

 飛行しながらアズラットに対し炎を吐くだけで基本的に竜はどうとでもなるのである。

 そうされると確かにアズラットしても厄介なことであるのは間違いない。


(と、おっ! くぅっ! ある程度回数をこなしたとはいえ、やはりまだこの速度にはなれないか……!)


 そんな飛行しての攻撃手段を持つ竜種。

 <跳躍>と<空中跳躍>があるとはいえ、空を飛ばれると厄介。

 そういったことへの対策……というわけで覚えたのではないが<加速>がその対応策になっている。

 <加速>。ネーデが覚えた<高速化>と近しい速度増加のスキル。違いは全体的か部分的かの差だ。

 いや、そもそもの性質も大きく違うだろう。<高速化>は言うなれば自分の時間状態の加速に近い。

 自分自身を高速の状態に置き、周りよりも速く行動できる……行動の加速というところか。

 それに対し<加速>はその名の通り、自分の速度を速くするものである。

 例えば跳躍時にその跳躍速度を加速したり、剣を振る速度を加速したり、移動速度を速くしたり。

 <高速化>との違いとしては大きくはその制御の容易さだろう。

 <高速化>は自分の状態の加速のため思考も加速し自身の加速状態の制御が楽にできる。

 一方で<加速>は自分自身の思考はそのままに、速度のみを加速させる。

 地面を蹴ったと思ったら、いきなり目の前に壁があるということになりかねないものだ。

 ゆえに全般的な強さを得るためネーデには<高速化>を覚えさせ、アズラットは己の行動速度をあげるため<加速>を覚えた。

 これは本人の強みだけでなく、リスクに対する対応策からでもある。

 ミスした場合、身体を加速した状態で固いものに打ち付けることになる、ということは珍しくない。

 ネーデの場合ぐしゃりと身体を潰してしまうかもしれないが、アズラットならばぐにょんとちょっと潰れるくらいで済む。

 アズラットの<圧縮>してある身体は実際にその大きさではなく、元の大きさがその小さい体に詰まっているため耐久力が馬鹿みたいに高いのである。

 そうしてアズラットは高速で<跳躍>や<空中跳躍>、<圧縮>の解除による反動による移動を行い戦っている。

 未だにその速度には慣れないようであるが、多少制御できずとも問題はない。


(……くっ、やっぱり問題は攻撃手段か……アノーゼの言った通り、攻撃方法が少なすぎるよな)


 アズラットの攻撃手段はその身体による攻撃が主体…………と言うよりは、それ以外の攻撃手段がない。

 相手を包み込み、窒息させたりその溶解能力による消化、はたまた己の体による圧を加えること。

 <圧縮>はその攻撃手段の一つになっている。

 あるいは<穿孔>により体内侵入とそこからの<圧縮>解除。

 また今回覚えた<加速>による体当たり。

 こちらは<加速>のレベルの低さのためまだまだ威力は出ない。

 つまりはアズラットの持ち得る攻撃手段は己の肉体を用いての攻撃しかないのである。


(まあ、竜相手なら……なんとかなるけどな?)


 改めて言う必要もないが、竜はこの世界における最強種である。

 しかし、ただの竜と今のアズラットでは強さの差がある。

 アズラットの種族、レベル、スキルのレベル。

 六度の進化をはたして成ったカイザースライム、六十を超えたそろそろ七十が見えるレベル。

 そして<圧縮>のレベルは八十に迫る。そんなアズラットが体を広げ、竜を飲み込む。

 包み込んだところで竜の身体能力であれば脱することはできるかもしれないが……その前に。

 <圧縮>による竜ごとの圧縮。流石に全体はアズラットでも辛いかもしれない。

 だが例えば頭部だけならば? 翼の部分だけならば?

 部分的にならどうとでもなるのではないだろうか。

 いや、どうとでもなるのである。竜と言えども、今のアズラットの強さには……敵わない。

 もっともそれはあくまで普通の竜であり、特殊な竜にはどうか?

 まあ、実際に今挑むことを考えているヒュドラには敵わないのであるし、簡単に行く話でもない。


(……あっさり勝てたなあ。これくらいヒュドラも楽に勝てればいいんだけど……まあ、無理だよな)


 ヒュドラとただの竜では明らかに大きさに差が存在する。

 蚊を潰すのとカナブンを潰すのは同じ難易度ではない。

 結局のところ十九階層での竜との戦いはあくまで練習と強くなる過程でしかないだろう。

 レベルを上げるため、スキルのレベルを上げるため、また戦闘に慣れることも一つ。

 ヒュドラと竜の強さは差があるといっても、竜を容易に倒せるくらいでなければ勝ち目もない。

 ゆえに、竜相手に鍛える事を考えて挑んでいるわけである。


(ネーデのほうはどういう様子かね……? まあ、勝てないことはないか。いつも俺がいても勝ててるわけだし。むしろ俺のほうが勝てるのかーって心配させてるかもな……まあ、普段戦う様子も見せないからそう思われてもしかたないか)


 ネーデとアズラットでは、戦えば確実にアズラットが勝つ。

 そもそもネーデもアズラットに勝てるとは思っていない。

 しかし、それでもネーデはアズラットが竜と戦うことが心配だ。この辺りは相性の問題もある。


(さて、何体か潰しつつ、もうちょっと戦い方を考えておくべきだな……しかし、本当にどうするべきか。攻撃手段としても何がいい?)


 アズラットは自身の攻撃手段となるスキル、それを考えつつ、次の竜との戦いに向かう。






 ところで。アズラット、ネーデもそうだが業または称号と呼ばれるものがある。

 <スキル神の寵愛(天使)>、<偽善の心得>、アズラットにはわからない黒塗りの業に、二人に<契約>の称号。

 業や称号というものはアズラットのスキル枠が増えているように、それにいくらか意味があるものもある。

 そしてこの業、称号というものには……<竜殺し>というものも存在している。

 竜種、とくに亜竜や恐竜ではない純粋な竜種を一人で倒すことで得られるそれを、二人は今回入手した。

 <竜殺し>は対竜の称号。竜の天敵を示す物であり、竜に打ち勝つ強さを示す物。

 それがどういう意味を持つのか、どういう役割を持つのか……二人は最後まで知ることはないだろう。

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