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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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151 戦うための強さ

 巨竜を相手にするためには力が足りない。

 二十階層の攻略の上でそれは絶対に考えなければいけない。

 アズラットもネーデも自分たちで考えることはできるのだがやはり相談相手がいたほうがいい。

 ネーデの相談相手は基本的にアズラット。ではアズラットの相談相手と言えば……?


『ついにここまで来てしまったのですね……』

『まあ、来たんだけどさ。もしかしてアノーゼは二十階層のことを知ってたのか?』

『一応は。私からできることは忠告を出したりするくらいで。そこに何がいるか、どのような脅威がいるか、というのは具体的には言えませんから。流石にそれは公平性を考慮すると……という感じです。一応アズさんに伝える情報は自由ではありますが、あまりにも依怙贔屓をするのは神様としてはいかがなものかと思いますしね』

『そうか……』

『まあ、そういうことを気にせず好きにする神様も多いですけど。神様は我がままで然るべきですからね』


 いくら神様と言っても守るべき不文律というものは存在する。

 しかし、神様というのは基本的に自由な物であり、力があるゆえに上位の立場であり。

 何を誰に語ろうとも構わない、それこそ神が話せないことは強制力により禁じられていることが多い。

 自ら話さないように律している者もいるが、好き勝手話す者もいるのでそうしなければならない。

 なので基本的には神様は話す場合割と普通に話せる。

 まあ、神様の事情を普通の人間が知ったところで特に問題ない場合が多いので気にすることもないのだが。

 アノーゼの場合、基本的には自分の意思で話す内容を選択している。

 彼女はアズラットのため、という理由で手助けはするが、それでも話せないことは話さない。

 いや、それ以上に本来アズラットが知りえない迷宮の先のことも話さない。

 一応そういう事柄は本来知りえる内容のみを話すべきだからと考えているからだ。

 この先に何があるかを知るのはズル、ルール違反であると考えている。

 ただ、それでもアノーゼにとってはアズラットの生存のほうが優先であるため、必要なことは教える。

 迷宮に関してはそれこそ本当に必要なことだけだが、スキルは別だ。

 スキルに関しては…………まあ、彼女がスキル関係の神格だから好き勝手話せるのである。

 逆に迷宮関連の神格だったなら迷宮のことを話せたかもしれないが……今は気にしてはいけない。

 ともかく、アノーゼに相談するべきことは決まってスキルのことだ。


『それで……どうするんです? 明らかにまともな手段で勝ち得る存在ではないと思いますが』

『とりあえず、<加速>のスキルを覚えたいと思うんだが……できるか?』

『種族的な問題ですね。通常なら、まあ、スライムが<加速>を覚えるのは無理でしょう。ですが、今なら<跳躍>や<圧縮>の解放によりかなりの速度を出した経験や、<高速化>の範疇にいた影響で加速状態の経験を積んだこともあって覚えることはできますよ』


 <加速>は高速を発揮するスキルである。

 ゆえに通常ゆったりのっそり移動するスライムは覚えられない。

 種族的にスライムは移動が速いタイプではなく、<高速化>や<加速>は覚えられないだろう。

 しかし、アズラットは自身の覚えたスキルにより高速の移動を経験している。

 また、ネーデの<高速化>の範疇にいたため高速での移動を経験している。

 それゆえに覚えることができる。


『スライムって不便だなあ……』

『物によりけりですけどね。スキルに関しては、確かに不便な所も多いですが……ですが、いくらかは経験で覚えられる内容を増やすことができるのですからそれほど困らないでしょう。どちらかというと種族的な問題のほうが困りものですか。手足がないことや、視力的な問題もありますし』

『そっちは別にいいんだ。物を持つことが必須ではないだろうし、スライムには振動感知能力があるし、身体の大きさを大きくする性質も結構な利点になり得るし……』

『そうですね。<圧縮>で体を圧縮して自分の防御力をあげる……そもそも体を小さくすること自体スライムでなければ不可能ですからね。振動感知能力による構造感知、生体の動きを感知する能力の高さもスライムならでは、<振動感知>とはまた種族の持つスキルは違ってきますから』

『そうだな……<加速>を覚えるのはいいんだけど、これだけだとちょっと力量的に足りない気がするが』


 巨竜を相手にするのに<加速>だけで果たして勝てるものか。アズラットはそう考えている。

 実際のところ、<加速>のスキルで得られるのはその名前の通り加速力だけだ。

 巨竜の攻撃や動きに対応することはそのスキルで出来るだろう。<跳躍>や<空中跳躍>もあるし。

 だが、問題となるのは攻撃能力になる。アズラットの攻撃能力は基本的に高くないのである。


『わかります。アズさんはどうしても単純な戦闘能力という点ではかなり弱いほうですからね』

『言ってくれるなあ……』

『言葉を飾っても仕方がありません。一応<圧縮>などで攻撃できますし、その解除による圧縮されている肉体の解放による攻撃という手段、それ以外にも取り込んだものに対する消化能力というものはありますが……基本的にアズさんの攻撃能力は自分が取り込める、自分よりも弱い相手には有効ですが、自分よりも強く、さらに大きい相手にはどうにも通用しづらいものばかりです。ゆえに、攻撃力が足りないという結論になるのは仕方がありません』


 そのあたりは元々がスライムであることも起因しているかもしれない。

 基本的にスライムは最弱なのである。

 スライムの強みはその消化、溶解、吸収による成長と増大、そして何でも消化する万能消化。

 また、大きくなった体で多くの物を取り込めるようになり、通常それは加速度的に増える。

 アズラットの場合<圧縮>を使っているのでわからないところだが、今のアズラットは本来ならとんでもない大きさだろう。

 それでもヒュドラは飲み込めないし、飲み込む前にヒュドラの攻撃で体の多くの部分を破壊され負ける。

 根本的に今のアズラットではヒュドラに届き得るだけの力はないのである。


『そこは一度諦めましょう。いきなり新しい力、スキルを複数手に入れても仕方がありません。その前に<加速>に慣れて、竜相手に十分戦えるようになってから次の手を考えましょう。そもそもすぐに成長して勝てるほどあれは甘くないでしょうから』

『ぬう……まあ、確かにそうかもしれないが……』

『今はまだ力をつける時間です。順々にやっていきましょう』

『はい……』


 そういうことで、アズラットは<加速>のスキルを覚えた。






『(と、いうことで十九階層で竜を相手に鍛えるということになった)』

「どういうことなの……? まあいいけど」


 いきなり話を振られてもネーデは困る、といったところだろう。まあ、いつものことだが。


「じゃあ、やっぱり竜を相手に修行になるんだね」

『(ああ。でも先にこれは言っておかなければならないが、俺もネーデもそれぞれ一人で修行だ)』

「えっ?」

『(二人で戦う、といっても巨竜相手にはうまくいかないだろうし、一緒に戦うにしても限度がある。別に挑むとき一人で挑むとは言わないが、俺自身ネーデの頭の上から離れて戦う必要もあるかもしれない。ネーデも……少し経験済みだろうが、俺がいない状態で戦うことにも慣れておいたほうがいいし、竜相手に一人で勝てるようになったほうがいいだろ?)』

「もう一人で勝てるよ?」

『(なら、俺がいない状態でやってても問題はないと思うぞ? 俺のほうはネーデに任せてばかりでなく、一人で戦って修行をつけたいからな)』

「ふーん……そうなんだ」


 ネーデはアズラットの言葉に納得いかない様子を見せている。

 しかし、その言葉に逆らうほどの意思はない。


「でも、あんまり離れるのはやだよ?」

『(んー……まあ、そこはな。ある程度行動範囲を先に決めておいて、やることをやったらここに戻ってくる、っていうのを決めておくか。ネーデも休む場合一人で、っていうわけにもいかないだろうし)』

「うん、お願いね」


 まだ一人になる覚悟はネーデにはない。

 一応十分な実力はあるが……それでもまだ、精神的な弱さがある。

 一人で戦い、一人で生きる、それを経験しながら己の強さを実感し成長すればいいのだが。

 そう簡単にはいかないだろうなあ、とアズラットは思いつつ、今後の修行予定を考える。

 そして、もう一つ、新しい強さ、新しいスキルのこともまた。

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