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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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150 最下層の攻略を

 二十階層。それまでの階層とは違い真っ直ぐの通路しか存在せず、先に強大な魔物の控える階層。

 その階層の通路には魔物の類が全く出ない。もしかしたらスライムくらいは出るかもしれないが。

 ともかくその通路であれば問題なくゆっくりとできる。

 その場所でアズラットとネーデは休んでいた。


「……それで、どうするの?」

『(どうする、と言われても困るんだが……)』

「うーん……そうだよね。私も……どうしよう……?」


 思えばネーデもアズラットもこの迷宮の最奥に向かう理由は特別存在していない。

 ネーデは最初は生きるために強くなることが目的だった。

 それゆえにアズラットに従いここまでついてきた。他に頼る者がいなかったゆえに。

 同胞を誰も頼ることができず、この迷宮で出会ったアズラットを生きるために頼ることになった。

 その結果は十分な成果を出したと言えるが、何故かここまでついてきてしまった。

 先を進む理由が特になく、既に十分な強さなのに理由もなくアズラットについてきたようなもの。

 はっきり言えばアズラットと一緒に先に進む必要性はないと言える。

 ここから先に進む必要がなく、階層を戻ってもいいくらいである。

 当初の目的通り生きるだけならば十七階層で竜狩りをするだけで十分お金を稼げるのだから。

 アズラットの場合、階層を進むうえでの目的は強くなることだった。

 もっともそれは最終的な目的ではなく過程に等しい物である。

 アズラットの根本的な目的、目標は生存が十分可能な実力を得ること。

 さらに言えば外に出ても生きられるくらいの力を得て世界を見て回りたいという欲求もあるが。

 今のアズラットならば既にそれだけの力を得ているともいえるだろう。

 竜生迷宮において二十階層までこれる人間は今の所いない。

 唯一ネーデが該当するといえばするくらいだ。

 つまりある意味では二人の目的は既に達成しているといえる。後は自由に生きるのみだ。

 だが、アズラットとしては……ここで終わるのはどうにも不完全燃焼である。


『(せっかくここまで来たんだから、一応ここも攻略しておきたい、とは思うんだが……)』

「そう? アズラットがそういうなら私はいいけど……」


 ネーデとしてはアズラットがこの階層を攻略したいと言うのならそれは構わないと思っている。

 彼女は元々自分の意見はそれほどなく、アズラットに従ってきている。

 信頼し、自分を育ててくれる、傍にいてくれる仲間に近い存在としと考えている。

 今の彼女はあとは冒険者として普通にお金を稼ぎ生活して生きるくらいでしかない。

 目的がない、そんな寂しい現状ゆえにアズラットに従いついていく。

 その目的が何であれ、彼女はアズラットとともに行動していこうとしている。


「でも……攻略、って言っても、あれを倒すんだよ?」

『(それなんだよなあ……)』


 恐らく最下層である二十階層、その先に存在する超巨大な竜。ヒュドラ。

 いくらネーデとアズラットがここまで来られる実力を持ち竜を倒せると言ってもさすがに厳しい。

 巨大な相手と戦うにしても、まだ戦えるくらいの巨体なのが基本的である。

 しかし、それが超巨大となると…………流石に勝ち筋がない。

 ネーデの<投擲>で様子を見ようとしたときも、尻尾が風圧を巻き起こし吹き飛ばされかけた。

 そして吐いてきたブレスは毒々しい危険な代物。恐らくは毒の類。

 アズラットは多少の毒は無視できるがあれは無理だろう。

 そもそも近づいて倒そうにも、大きすぎて無理だろう。アズラットでも潰される危険は高い。


『(大きすぎる。倒すにしても、まともに戦いようがないというか……)』

「あの大きさだと剣で斬ったとしてもあまり意味なさそう……」

『(大きさだけなら<圧縮>を解放して迫れなくもないとは思うが…………その場合防御能力が落ちるからな。体内に入る……と消化液が怖いか。口の中程度なら、そこで<圧縮>を解除……というのもありなのかもしれないが、それで倒せるとは思えないし、頭一つ潰したところでって話になるしなあ……)』

「何とか勝てる方法がないとどうしようもないよ」

『(そうだな……)』


 現状の二人では勝ち目がない。その手段を考えなければどうしようもない。それが現状である。


『(まあ、今のところは単純にレベルを上げてから挑む、というのもありかな。スキルも成長させていくのもありだし)』

「どうやって?」

『(十九階層はそういう意味ではちょうどいいかな、と思う。竜種がたくさんいるだろ? いい経験になると思う)』

「……うん、勝てなくはないけど」


 十九階層は竜の都。竜の数だけは多い場所だ。亜竜、恐竜、純粋な竜種。数多くの竜種がいる。

 その中の純粋な竜種を相手に戦い経験を積む。

 アズラットも竜を食せば経験、己の肉体の増大につながる。

 スキルを鍛える意味でも竜の強さならばいい経験になるだろう。

 攻撃能力への対処、防御能力への対処。

 そして一応はヒュドラもまた竜種の一種。神に近い竜種だが、竜種は竜種。

 多頭竜であるため通常の竜種と同じには扱えないが、予行演習、模擬戦闘にはなるだろう。

 もちろん想定するべき相手の強さよりは格段に落ちるのは間違いないが。

 少なくともここにいる竜種に余裕を持って勝てる程度でなければヒュドラに辛勝することすら不可能と思われる。

 ゆえにまずここの竜種を相手に戦うことにする、そうアズラットは決めた。






『(ところで……)』

「どうしたの?」

『(いや、このまま二十階層に滞在するか、それとも十六階層まで戻ってそこからここまでくる生活をするか、って話になるかと思ってな……)』

「…………どういうこと?」

『(一応ここは魔物が出ないとはいえ、安全とは限らないしそのあたりに野ざらしで過ごすのもどうなのかと思ってな。一応十六階層ならエルフの里に宿屋があるだろ。あそこでゆっくり休むほうが疲れも取れるし過ごしやすいだろうし)』


 この二十階層で休む場合、安全は確保できることには間違いない。

 しかし、地面に横になるのは精神的にどうかと思うところであるし、寝具の類もない。

 休むことはできてもゆっくりぐっすりとは行かないだろう。完全に体力が回復するものだろうか。


「でも、戻ったら多分十八階層のあれ、戻ってるよね?」

『(……十七階層と同じ仕組みなら戻ってるだろうな。少なくとも一度倒せばそれであとはもう二度と復活しない、という可能性は低いと思う)』

「そうなったらまた十九階層に来るのも面倒だし……別にいいよ」

『(そうか)』


 ネーデが十六階層から十九階層に来る場合、十七階層と十八階層を経由しなければいけない。

 休むため十六階層に戻る場合、戻ってくるまで二階層分の強敵を突破しなければならない。

 強さ的にその階層の敵を倒すのに問題がなくとも、面倒な事実には変わらない。


(……まあ、いいか。余裕で十七階層と十八階層を通り抜けられるくらいでなければヒュドラに勝てるとは思えない……と思ったけど、強さの性質的にそういう物とはまた違うしな。強い相手と戦うにしても、小さくて強い相手と戦うのと大きくて強い相手と戦うのは違うこと、十八階層を余裕で駆け抜けることのできる強さがあるからと言ってあれに勝てるとは思えない。そもそもあれはネーデではそう簡単に勝てるようにはならないだろうな……俺の場合、かなり特殊な形で勝てるようになる可能性はあると思う。だけど、それでも……今のままでは足りていないのは間違いない)


 強大な相手と戦うには今まで得てきた強さ、学んできた戦い方とは別の戦い方と強さがいる。

 それはネーデには向かないことだろう。そもそも今回のことはアズラットのわがままだ。

 ゆえに、アズラットはネーデは置いていき、自分だけで戦うつもりである。

 ネーデを置いていけるかはまだわからないが。

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