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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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149 巨竜または巨龍

 二十階層。十九階層から階段を下りた先にネーデとアズラットは進んでいる。

 それまでの苛烈さ、過酷さ、様々な要素からかなりの難易度ではないか、と思われるのだが。

 実際には全くと言っていいほど難易度は高くない……というよりは、何もないのである。


「……ここ、まっすぐなの?」

『(みたいだな……この先に扉があるからその先に何かあるかとは思うが)』


 一本道。二十階層はそれまでの階層とは全く違い、魔物もいない、道も一つしかない階層である。

 全く何も出ず、遺跡構造の通路が存在するのみ。そしてその通路の先には扉。

 アズラットが現状わかる限りではそれくらいしか存在していない。


(……流石に何もないということはないと思うんだが)


 これまでの階層から考え何もないということはありえないだろう。

 一階層から三階層までの低階層で使っていた遺跡構造を使っているのも疑問だ。

 もちろんこの階層まで誰も来ないと考えてそのようにした可能性もあるだろう。

 だが、階層の内容から考え徐々に強くなり一つ前には竜種が揃い踏み。

 それなのにここだけ全く何も存在しないのはおかしい。

 わざわざ手前を最強の階層にするくらいなら最終階層を最強の階層にすればいい。

 つまり、この階層には確実に何かがあると考えていい。

 道のどこかに罠があるのか……それとも、見つけた扉の先に何かがあるのか。

 密閉と遮断の要素がこの階層の壁と扉の構造では強いのか、何があるのかわからない。


「……扉、開けていいかな?」

『(ケルベロスの時のようなことがあるからいきなり入るのはよくない。かといって開けて中を確認するだけっていうのも……って感じだが、仮に十七階層に近い状況だとするなら確実に強大な魔物がいる可能性が高いわけで。まあ、確認しないわけにもいかないんだが)』

「……扉、開けていいの?」

『(開けて確認するしかないから開けていいぞ)』


 回りくどいことを言わず、はっきりとそういえばよかっただけなのではないか。

 まあ、いちいちはっきりと結論だけを言わないのはよくあることである。


「じゃあ開けるよ」


 ぎっ、とネーデが扉を開く。ゆっくりと開き中の様子が確認できるようになる。


「っ…………」

『(これは…………)』


 扉の中。そこにはとてもとても広い部屋があった。

 ケルベロスのいた部屋よりもはるかに広い部屋だ。

 十九階層の広さの半分ほどがこの部屋にあてられているくらいの広さといったくらいだろう。

 そしてそこにいるのは魔物が一体。

 これまでと同じで竜種……もしくは龍と呼べる存在の可能性もある。

 断言できないのは、その存在を明確に判別するのが難しいからだろう。


「ねえ、あれ…………」

『(とんでもなくでかい……それに、あれは流石にいろいろとやばいな)』

「知ってるの?』

『(類推はできる……ただ、一応候補は二つ。頭の数からして恐らくはヒュドラだと思うんだが……)』


 ヒュドラ。アズラットはもう一つの存在の仮定に八岐大蛇を候補として挙げている。

 どちらもあくまで見かけ上似通っているというだけで性質としては別物だ。

 前者は神に匹敵する怪物であり、後者は自然の化身または自然霊としての神の一種のようなもの。

 まあ、どちらにしても神に匹敵するような強大な存在であるということだ。

 さて、その二種は明確に頭の数が違い、九の頭を持つのがヒュドラ、八の頭が八岐大蛇。

 アズラットの振動感知能力によりある程度大きさと頭の数を把握できるが、頭の数は九。

 ゆえにこの存在はほぼヒュドラであると確定させることができるだろう。

 まあ、重要な所はそこではなく、その大きさがどれほどか、ということなのだが。


「……ねえ、アズラット。あれって戦うことできるの?」

『(…………正直言って、無理じゃないか?)』

「だよね……」


 相手の大きさは見る限りとても広い部屋である部屋なのに部屋が狭く感じるだろう大きさである。

 その威容はまるで山のごとし。

 頭一つ、その大きさだけでケルベロスより大きいといえばその差がわかる。

 ケルベロスですらなんとか勝ちを拾えた程度のネーデでそれより大きい頭を持つ竜に勝てるはずがない。

 仮に頭の一つを何とか切り落とすことができたとして、その頭は九つ存在しているわけで。

 本体、頭部のつながる大本である胴体を狙うにしても、その胴体の大きさもまたとんでもない。

 むしろ頭部を狙うほうが楽と言えるくらいだろう。

 さらに言えば、ヒュドラの回復力も考慮しなければならない。

 アズラットの思い描くヒュドラと同じ、もしくは近しいのであればその再生力もまた同等だろう。

 食事事情に関してはどうなのかと思うところだが、そこは迷宮の謎の機能が作用して大丈夫な可能性がある。

 この場所は魔物も何もいない場所ゆえに食事しなくてもいいようになっている可能性もある。


『(…………入ってみるか?)』

「う…………」


 流石にネーデとしても自分では確実に勝てそうにない相手がいる場所に侵入するのは躊躇する。

 アズラットであれば、単純に潰されるほど……いや、さすがにこれほどの大きさが相手では潰されるかもしれない。

 ともかく、今の二人ではこの魔物を相手にするのは極めて難易度が高い、と思われる。

 少なくとも十七階層にいた巨大な鳥人よりもはるかに大きい。

 もちろん十八階層のケルベロスよりも。

 十九階層の竜たちよりもはるかに大きい。まずまともに戦えると思うほうがおかしいレベルだ。

 もちろん戦おうと思えばできなくもないが、通用するだけのスキルとその成長が必須だろう。


『(一度、様子だけでも見てみるつもりはあるか? ないならないで戻るだけだが…………)』

「それくらいなら……」


 ネーデとしてもかなり怖いものではあるが、アズラットが見てみたい、入ってみたいというなら拒みづらい。

 それに怖いもの見たさとは言えネーデ自身も興味がある。

 それゆえに、二人は部屋の中に入って行った。


「…………」

『(…………)』


 入っただけでは動かないようだ。微動だにしない。


「……もしかしてずっとここにいて動けないとか?」

『(希望的観測はやめておけ。そうだな……何か投げてみるとか?)』

「<投擲>? 効くとは思えないけど……とりあえず、やってみようかな」


 部屋に入ってきたばかりであるため逃げようと思えば逃げられるだろう。

 扉さえ閉めればその密閉能力から安全であるとも推測できる。


「えいっ!」


 竜の牙、それをヒュドラに向けてネーデが<投擲>し、次の瞬間には<投擲>したものが消えていた。


「わわわっ!?」

『(っ、風圧が……!?)』


 ごうっ、とネーデとアズラットは風に吹き飛ばされかけた。なんの風か?


『(尻尾が……)』

「尻尾? 移動して……!」


 <危機感知>に反応が生まれる。

 既にヒュドラの多頭の一つがネーデたちに対してブレスを吐いていた。

 ブレスは炎のようなエネルギー攻撃ではなく、物理的な物質を伴った物。

 物質とはいっても固体ではない。どちらかと言えば液体に近い、もしくは霧状に近いようなもの。

 禍々しい紫の色をしたブレス。


『(逃げるぞ!)』

「逃げる!」


 躊躇なく、二人は広間から全速力で逃げ出した。






「はあ……はあ……」

『(なんというか……かなり倒すのが難しそうだな)』

「もう、あんなの無理だよ!? 大きすぎるし!」

『(まあ、確かに厳しい相手ってのはわかるんだが……)』


 厳しいというレベルの話ではない。

 はたして人類が相手をして勝てるレベルなのか、それが怪しいくらいの相手だ。

 もっとも……勝てないことはない、というのがこの世界における強さのルールである。

 あれでも一応人類が勝てるレベルなのである。

 神に匹敵するとはいえ神と同格の強さではないのだから。

 そもそも、迷宮に存在する魔物はその迷宮の支配者よりは弱いはずなのである。

 つまりあれよりも強い存在が先にいるはずだ。もっともこの二人は知る由もないが。


『(ともかく、いったんどうするか決めよう。ここなら魔物が出てくることもないしな)』

「うん……」


 二十階層は魔物が出てこない。すなわち極めて安全な場所であるということだ。

 ここで二人はこの先のことを考えることにした。

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