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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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142 巨狼に挑む

「やっぱりあれだけは慣れない……」

『(一応<防御>で防げるが根本的に防ぎようがないからなあ……)』


 十八階層。出て来る魔物自体は然程強くなくネーデは十分問題なく進むことができている。

 しかし、その中に出てくる脅威、石化能力持ちの魔物。

 また、それを筆頭に特殊な能力を持つ魔物たちもまた厄介な存在である。

 霧状のブレス、視線による作用、まだ体液を吐いてくるのであれば幾分か対処の使用がある。

 だが、対処のできない攻撃手段も数多く存在する。ネーデはそれらに対する防御手段が少ない。

 基本的にネーデの防御は<防御>に任せている。もしくは<危機感知>や<振動感知>による回避。

 その<防御>は基本的に万能であるが、石化には滅法弱い。

 まあ、一度は確実に防いでくれるのだが。

 その一度を受けてから、即対処、が今のネーデの石化能力持ち相手への戦闘パターン。

 まあ、一番の脅威はメドゥーサくらいであり、他はどうとでもなる。

 遠距離にいるのならば<投擲>を使い攻撃できるし、ブレスや毒液は予備動作がある。

 唯一、メドゥーサの石化の視線だけは視て睨むだけで発動するため厄介になっている。

 とはいえ、それは一度使うと再度使用するのには時間がかかるため、その間に即殺している。

 もしそれができそうにない場合は影響を受けない範囲まで即行で逃げるようにしていた。

 そんな感じで十八階層を進み、再度あの大きな広間、ケルベロスのいる広間の前へと来る。


「……気づかれてる?」

『(気づかれてるな。前に来たから匂いを覚えられたか……)』


 ネーデとアズラットが広間の近くに来た時点でケルベロスは二人に反応し既に起き上がっている。

 前は一度来たが侵入もしていない攻撃もしていないというのに、かなり警戒されている。

 このあたりは十七階層に出てきた強力な魔物と似通っており、近づく者や侵入者に警戒するのかもしれない。

 一応ネーデとアズラットは身体を少し乗り出し中を覗いているし、それが影響している可能性もある。


『(まあ、そもそも不意打ちできる相手とも思えないし……まともに挑むしかないな)』

「不安だなあ……」


 流石にフォリアもここで躓いているくらいだ。

 フォリアの強さは相当なものだが、それでも超えられない。

 それには多々いろいろと理由がある。

 フォリアは剣の技術と実力の高さはあるが、特殊能力がない。

 一応<魔法剣>や<気>などがあるが、相手の特殊攻撃を防ぐ手立てとしては弱いだろう。

 アズラットの見込みだとケルベロスは炎を吐いてくるだろうという推測である。

 竜も炎を吐くが、十七階層の竜が吐く炎は比較的対処がしやすい。

 竜の頭は一つであり、場所が狭いからだ。

 だがケルベロスのいる場所は広く、またケルベロスの頭部は三つ。

 三つの炎が同時に炎を吐いてきたり的確に狙ってきたり、また縦横無尽の移動をしながらだと辛い。

 フォリアでも辛いならばネーデでも辛いことだろう。

 ただ、ネーデには万能性の高いスキルがある。

 さらにアズラットもいる。それならば……と、少しは期待してもいいだろう。


「…………うん、行く!」

『(よし、頑張るか!)』


 二人が広間に入る。それと同時にケルベロスが吠え、戦闘が始まった。






 ケルベロスの動きは速い。

 広間の大きさがその巨体で自由に動き回っても余裕がある造りなため機動力がとても高い。

 そのためネーデは近づくことすら楽ではない。ネーデの一歩とケルベロスの一歩は段違いである。


「速くて追いつけない!!」

『(あの巨体と身体能力だからな……! 足止めは……難しそうだ)』


 そもそも単純に足止めする手段がない。二人の持つスキルには足止めできるスキルがない。

 どちらも己の能力を高めたり戦闘をするためのスキルが基本である。

 一応アズラットがその<圧縮>を解除し元の大きさに戻ればその身体自体が一種の拘束、足止めにはなり得る。

 もっともアズラットは自身の<圧縮>の解除をするつもりはないだろう。

 ケルベロスが相手の場合、身体の<圧縮>を解除したらあっさりと核のある部分が噛み砕かれることだろう。


「どうにか、追いつけないかな?」

『(<跳躍>を駆使……するには少し広すぎるな。壁蹴りの反射移動とかができればな)』

「……?」

『(近づくのが難しいなら<投擲>はどうだ?)』

「ん……やってみる!」


 竜の牙や爪、それらを<投擲>に使うためネーデは持ち歩いている。

 流石に竜の素材を<投擲>用に用いるのは少々もったいないように思えるが、ネーデには行きがけの駄賃だ。

 まあ、ちゃんと加工した素材のほうが使いやすいかもしれないが、ともかくそれを<投擲>に使う。

 ケルベロス相手に<投擲>はちゃんと効くようで、さくりと刺さる。素材が良いからかもしれない。

 だがそれが致命傷になるとは到底思えない。

 眼を狙ってもいいかもしれないが、相手は三頭の魔物。

 目を狙ったところで怒らせる程度の意味合いにしかならない可能性が高い。

 三つの頭を持つということは思考能力が多く、視野が多いということである。

 それは行動の機敏さ、反応の良さ、視野の広さにつながるのである。

 それでも<投擲>を避けられない……というわけではない。単に脅威に思っていないだけだ。

 人間でいえば腕に木の棘が刺さった程度、大したダメージがあるわけでもない。

 だが……少し程度の物でも痛みは感じる。それに怒ったように、頭の一つが吠えた。


「っ!」

『(やっぱり使えたか!)』


 吠えた頭が炎を吐いてきた。その頭だけなのは位置関係か、他の頭は怒っていないか。

 こういう場合それぞれの意識の疎通がなされている可能性は高いが、その意思自体は別物である可能性がある。

 そもそも脳が三つ、それを一つの肉体で、というのはどうにも難しいものだろう。

 それぞれの脳で別々の行動をしようとすればそれぞれの命令が肉体で競合し混乱するはず。

 それがないということはつまりある程度の意思統一が行われているはずである。

 だが、怒っている頭は三つのうちの一つのみ。どうにもよくわからない魔物である。


「距離があるから避けられるけど……!」

『(難しいな。<投擲>はダメージになってないし、相手は遠距離攻撃もできる。移動速度も速く、攻撃すること自体が難しい。<防御>があるとはいえ炎の攻撃は……)』

「防ぎきれないもんね」


 炎の攻撃は全体に対する攻撃であり<防御>による防御を一気に削る。

 ゆえに炎の攻撃には<防御>はあまり有効ではない。つまりは相性が悪いわけである。


「追いつけないし、何かスキルを覚えたほうがいいかなあ……」

『(覚えるにしても、局所的な対処になるものはやめておいたほうがいい……が、これに勝つことができるようなスキルがあれば悪くはなさそうだ。問題は何のスキルを覚えるかという点だけどな)』

「……とりあえず、いったん戻ろう!」

『(ああ……)』


 自分たちの実力が足りない、スキルの不足、相手の情報の不足、未だに挑むには早い相手だった。

 改めて必要なスキルの検討と検証をしてから戻ってくることを決め、今回は退くことにした。

 ケルベロスはこの十八階層の最奥の門、十九階層への道を守る門番である。

 逃げる相手は追ってこない。

 まあ、追って来ようとしたところで通路に侵入できる大きさではないので追ってこれないのだが。


「はあ……また戻るのかあ」

『(まあ、大変は大変だけどな……)』


 いくら二度通ったとはいえ、十八階層は十八階層で面倒である。

 ともかく、今回の戦いは二人の敵前逃亡の敗走で終わった。

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