136 竜との戦い
エルフの里から十七階層に行きネーデはレベルを上げる。とはいえ、あまり過剰には上がらない。
今のネーデのレベルはすでに五十に近い。人間のレベルは高レベルになるほど上がりづらい。
まあ、それは人間に限った話ではなく高レベルなほど上がりづらいのは他も一緒だが。
ともかく、ネーデのレベルはそこまで上がらない。とはいえ、そもそもネーデのレベルは高い。
十七階層で五十台のレベルになるのは結構なレベルの高さである。
もちろん単独で十七階層に来るのであればそれくらいのレベルはいるのだが。
要は今のネーデのレベルは十分でフォリアの言うようにあげる必要性はない。
あればいい、くらいの話ではあるが、なければいけないというわけではないのである。
そういった感じなので、最終的な身体能力の確認と調整を行ったくらいで終わる。
そしてネーデとアズラットは竜への挑戦に向かうのである。
『(……覚悟はいいか?)』
「うん、大丈夫。修行の時に何度か連れられて戦うところを見せられたから、見ることには慣れてる」
『(結構な無茶をするなあ……でも、一応言っておくが、戦闘に出ず見ているだけと、直接戦闘を行っている場合では全然違うっていうのはわかってるか? 殺気とかそういうものを直接向けられる、いつ攻撃が来るか、簡単に避けられる場所にいるわけでもない緊張感とか、相手に攻撃することを意識したりとかいろいろとあるんだ。そこはわかってるか?)』
「……うーん、そういわれるとあんまり実感はないけど。でも、たぶん、大丈夫」
『(……そうか。そこまで言うのなら俺からは特に何も言わないよ)』
ネーデは十分覚悟はできているようだ。竜とは直接対面していたわけではないがよく見ている。
そして戦う中フォリアに討ち果たされている場面もよく見ているわけである。
ネーデが戦ったわけではないが、倒される姿を見てしまうとその威容も幾らか恐ろしさが薄れる。
それに、今のネーデには前よりも強くなったアズラットがるわけである。
ネーデは無意識にアズラットという存在に頼っているところがある。
そしてそのアズラットがいる。そのうえアズラットは前よりも強い。
なら負ける道理はないだろう、そう思うところだ。
『(よし、なら行くぞ)』
「うん!」
ネーデとアズラットは十七階層、竜の現れる洞穴の方へと歩を進めた。
アズラットを頭の上に乗せたネーデがいつも竜と戦う狭い空間の中に歩を進めた。
ネーデには見慣れた光景であり、アズラットには二回目の光景だが竜が出現した。
「行くっ!」
ネーデは短くアズラットにそう告げ、竜が臨戦態勢をとる前に一気に襲い掛かる。
竜はこの場にいる存在に対し攻撃を仕掛け、いなくなるまで襲ってくるが、現れた直後はその把握ができていない。
基本的にその対象を倒すべきか、というのは事前にわかっている様子である。
だがその確認に関しては竜が直に確認しないといけない。
それゆえに僅かな攻撃までの移行のタイミングがある。
とはいえ、攻撃の意思、殺気や剣気などを向ければ流石にその存在を一瞬で把握される。
そういった気配に関して竜のほうは敏感である。
だが、それはすぐにそれへの対処ができるというわけではない。
ネーデは何ともフォリアの戦いを見てそれを理解しているため、この部屋に入りいきなり竜へと挑みかかった。
「はっ!」
ネーデの剣が竜の鱗の隙間を捉える。竜の鱗といえど、万全の無敵さはない。
例えばその生え方の問題もあるだろう。隙間のすべてを覆い隠せるわけでもない。
とはいえ、竜自体の肉体の強靭さもあり、完全に通用するわけでもない。
だが隙間を捉えた一撃は鱗をいくらか剥ぎ取った。
「グオオオオオオオオオッ!!」
竜が咆哮する。体を多少斬られた程度の痛みはともかく、鱗を剥がれる痛みはなかなかきつい。
それを行ったネーデに怒りの視線を向け、そしてブレスを吐きだす。
ネーデは何度も見た光景だが、炎、黒い炎のブレス。闇の炎のブレス。
『(ブレスが来るぞ!)』
「わかってる…………!」
炎だろうと闇だろうと、ブレスの攻撃は全体への分散攻撃。<防御>では受けづらい。
ただの炎であればまだ何とでもできる可能性はあるが、闇の炎となると話は違う。
アズラットも炎で焼かれ失われるのは辛いがそれ以上に闇の属性攻撃は核に届く危険性もある。
ネーデは焦らず、その攻撃を見切る。ブレスは攻撃手段としては実にわかりやすい。
口から吐き出す炎はその顔が向いている方向でなければ届くことはない。
「はっ!」
また、止める手段も存在する。ブレスを吐きだすには単純に吐く行動が必要である。
息を吐くなら呼吸のような動作がいるわけである。
それと同じならばその炎を出すのに呼吸器官が使われる。
竜の炎がどうやって生み出されどうやって吐き出されているのか、外部にガスを出して燃焼させているのか?
そこは未だ解明されていないものであるが、結局のところ動作を中断させればいい。
人間なら息を吐いている最中に喉を叩かれた場合、そのまま息を吐いていられるだろうか?
呼吸器官を一時的に潰され息を吐き続けらるだろうか?
竜はブレスの時ブレスにのみ集中している。
つまり身体が基本的にノーガードな状態になるのである。ネーデはそこで喉を狙った。
流石にフォリアのように一撃で首を切断するという芸当はできない。ゆえに喉を突いた。
「ゲッ!」
喉を突かれ、ブレスの為に使われている呼吸器官へのダメージは唐突さもあり完全な不意打ち。
ダメージとしてはそれほどではないが驚きと痛みは中々竜も味わったことのないものだ。
まあ、そもそもここにいるこの竜は生み出されたばかりで痛みを味わったことはないのだが。
ともかく、ネーデの一撃で竜は炎を吐く攻撃が中断する。意識もネーデから完全に外れる。
「たあああああっ!!」
その時を狙い、ネーデはそのまま頭部へと跳び、目を狙う。
竜といえど、その身体のすべてが鱗に覆われているわけではない。
局部、いわゆる生殖器や排泄孔、鼻や口や耳などの感覚器。そして、当然目も。
外部に露出している、もしくは露出せざるを得ない部分というのは意外と多い。
とはいえ、その場所はあまりにも小さく狭く、またピンポイントである。
そのうえどうにも狙いづらい部分が多いだろう。その点頭部、顔にはそういった弱点部位が多い。
感覚器の多くは頭部に集中しているといってもいい。それらの情報は脳に近い部分で感知するほうが都合がいいゆえに。
まあ、そういった細かい話はともかく、ネーデは目を狙った。
突き入れるように剣を目へと振るう。
目は位置的にかなり脳に近く、運が良ければその突きで脳も貫けることだろう。
そうでなくとも視覚という多くの生物にとって重要な感覚を半分破壊できるのは大きい。
ゆえにそこを狙ったのである。
「グギャアアアアアアアアアッ!!!」
流石に脳まで貫くということはできなかったものの、ネーデの一撃は竜へと届く。
そしてその目を破壊することに成功した。
「っ!?」
だが、それゆえに苦痛により竜が暴れ無秩序な攻撃となる。これが意外と厄介だ。
秩序のある、意思のある攻撃は相手の意図があるゆえに逆に攻撃を把握しやすい。
それに対し無秩序なただ暴れるだけの攻撃はどこに何が来るかがわかり辛い。
つまり防御しにくいのである。
もちろんネーデの<防御>は常に発動している状態なためダメージにはならない。
だが、その体勢や状態は大きく変わる。
来るとわかって受けている状態なら着地も体勢の制御もしやすい。
それが来るとわかっていない状態だと、いきなり吹き飛ばされてしまうため体勢の復帰が難しい。
「くぅっ……!」
追撃できれば幸運だったのだが。そうネーデは思った。
『(よし、あとはこちらに任せてもらおう)』
「っ! アズラット!」
ただ、ネーデは一人ではない。ネーデがそのすべてを担う必要性はない。
もちろんネーデは自分一人で倒せれば、と思っている。
だが、アズラットの手助けを無碍にするつもりもない。
そもそも、気が付けばネーデの頭の上にいたアズラットがいなくなっている状態だ。
先ほどネーデが頭部に近づいたときに、<跳躍>を使いアズラットは竜の頭部に張り付いていたのである。
『(ま、ネーデも十分戦える……っていうか、状況次第だと普通に竜に勝てるよな、これ。まあ、今回は俺が最後の一撃を加えさせてもらうわけだけど)』
竜の目に空いた穴。竜の破壊された目の部分からその身体を差し入れる。
本来なら目があるため入れない場所だが、今その目はネーデにより破壊された。
まあ、アズラットには<穿孔>のスキルがあるので目を破壊して入ることも不可能ではないが。
ともかく、アズラットはその身体を竜の眼孔へと入れた。そしてそのあと彼が行うことは一つ。
(<圧縮>解除)
本来の大きさに戻ること。たとえ竜といえど、その内側まで強固であるわけではない。
また、内側から膨らむものに対抗する能力など普通の生物では中々あり得ない。
それが目のある部分で行われるというのも異常に過ぎる。
ともかく、そのアズラットの行動により、竜の頭部が吹き飛んだ。
頭部を失い生きている生物はあまりいない。一時的に生きていても、長くは生きられない。
ここにネーデとアズラットは竜への勝利を果たし、十八階層へと進めるようになったのである。




