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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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135 戦いの準備

『アズさん!』

『……アノーゼ? どうした?』


 十七階層を超える条件を達成し、満足していたアズラット。

 獲物を食らい、消化し、その分の経験値を獲得する。

 そうなれば当然レベルは上がるだろう。

 あの魔物に対しリベンジを果たした時、最後に確認したアズラットのレベルは五十八。

 次の進化は六十、そしてあの巨大な鳥人間のような魔物を倒し、それを吸収。

 それでどの程度レベルがあるかは不明だが進化条件である六十に達する可能性はある。

 というか、達成しているからこそ、アノーゼが声をかけてきたということでもある。


『レベル六十一、進化です!』

『あー……マジか』

『マジです。さあ、早く進化しましょう!』

『え? いや、急ぐ必要は……』

『いえ、まあ、そうかもしれませんけど、後に回しても仕方ありませんよ?』

『……それもそうか。なら進化、頼む』

『はい』


 アズラットにいつもの進化の時に来る眠気が訪れる。そのままアズラットは意識を喪失する。

 その最後の時に、微かにアノーゼの声が聞こえてきた。


『えっと……あれ? 確か、このタイミングで……カイザー、リーダー、えっと……あれ?』


 困惑したような、そんな感じの声だった。






 アズラットがレベルが上がった結果の進化を行っている間、ネーデは修行中だ。

 とはいえ、一度竜を相手に戦う姿を見せ、フォリアも直接の修行に戻っている。

 そもそも竜に挑むにはネーデの実力ではまだ早い。レベルも足りていない。

 レベルを上げるには強い魔物との戦いが必要になる。十六階層ではそれは難しい。

 ではレベルを上げるのに適切なのは何かというと十七階層の骨の蜘蛛。

 一度勝っているが骨の蜘蛛を相手に実力を試し、楽に倒せるようになってからが本番だ。

 そこから竜に挑むようになるべき……なのだが。


「たあっ!」

「ふうん、はっ!」


 ネーデの成長は速い。フォリアが経験した成長速度よりもはるかに。想像以上に。

 もともとネーデ自身はそれなりに高い資質を持っていたのだろう。

 ただ、それは師がいればの話である。もしくは師を得た結果成長できる才を開花させたか。

 そのあたりのネーデ自身の資質、本質についてはわからないところであるが。


「っ!」

「まだまだねっ!」


 とはいえ、今のネーデはフォリアよりも実力は下である。

 レベル的にも、スキル的にも、そしてそもそも下地に持っている実力としても。

 だがそれでも最初にフォリアに出会った頃よりははるかに成長していることには間違いない。


「ふう……」

「まだ、行くっ!」

「ちょっと待った!」

「っ……」


 フォリアの待ったの言葉にネーデの動きが止まる。少々不満そうだ。


「……実力はついた。まあ、まだまだ粗削りで先が楽しみって感じではあるけどね?」

「…………まだあなたに勝てない」

「はあ? 流石に私に教えを受けてる状態で私に勝つとか舐めてるのって言いたくなるんだけど?」


 フォリアの技術、感覚をネーデは継承している。

 そして強くなっていることを一応実感できている。

 それは単純にネーデの感覚でもそうであるし、フォリアとの打ち合いでもそうだ。

 だがフォリアと同じことをしていればフォリアには勝てないだろう。そもそもの経験が違う。

 ネーデとしてはフォリアには勝って当たり前、というのが目標である。

 だが、フォリアにとってはそこまでネーデを鍛えることはしない。

 確かにそれが最終的な目標ではある。自分が望むような強者が生まれることを。

 フォリアは強者と戦うのは望むところであるが、自分を超える強者を育てたいわけではない。

 強くなったネーデと戦うのはいいが、自分が育てて強くしたいというわけではない。

 あくまで彼女の行うのはネーデが育つ下地作りであり、また先に進めるだけの実力をつけること。


「ま、いいけど。技術だけならひとまずあなたは十分に育ったわ。あとは肉体、レベルのほうの実力をつけることを優先しなさい」

「…………魔物を倒せばいいの?」

「そういうこと。でも、ここの魔物じゃ大した強さでないしレベルも上がらないだろうけど。だから里に戻るわ……あなたの連れてるあの魔物、戻ってきてるといいんだけどね」

「………………」

「睨まない睨まない。あの子、かなり強いはずよね。あなただけでこの先挑むのもいいけど、どうせ一緒に先に進むんでしょう? ならあなただけで先に進めるほど強くする必要はないでしょうし、先に進むだけならあの子と一緒に戦えばいい。竜と戦う術は教えた。あの子もどうせ強くなっているでしょうし、竜に一緒に挑みなさい。私からはこれ以上はしないわ。ああ、でも、竜と挑む前に里から行ける魔物を相手に戦って少しレベルを上げてからのほうがいいわね。技術を身に着けたとはいえ、相手は竜。簡単に勝てる相手じゃないわ。それじゃあ、あとは頑張ってね」


 そう言ってあっさりとフォリアは去っていった。

 去っていくと言っても、帰る先はネーデと同じだが。


「…………」


 ネーデは唐突に終わった自身の修行に腑に落ちない表情をしている。


「……なにあれ」


 ネーデを鍛えることはフォリア自身がそうする理由があったから。

 しかしそれを唐突に終わらせた。

 正確にはフォリア自身いくつも終わらせる理由はあった。これ以上の修行は必要ないと。

 しかし、ネーデにとっては本当に唐突であり、半ば放り出された感じである。


「……………………」


 いろいろとネーデには思うところはある。とはいえ、相手がそれを聞き入れるとは思えない。

 誘ってきたのが向こうであるならば、終わらせるのもまた向こうである。

 最後まで、本当の意味で最後の最後までは教えられ鍛えることはできていないだろう。

 しかし、ネーデは十分強くなってはいる。

 そういう意味ではフォリアとの修行は意味があっただろう。

 それだけで十分、それだけで十分なはず……なのだが。どうにも納得は行かない。


「……まあ、いいや。戻ろう」


 中途半端に終わり、ネーデは納得がいかないまでも、言われたとおりにすることにした。

 そもそも当初はフォリアに頼ることなく色々考えていたはずだから。






 エルフの里に戻り、ネーデは戻っていたアズラットに合流する。


「アズラット」

『(ああ、おかえり)』

「うん、ただいま。えっと、実は……」


 今日起きたフォリアとの会話、修行の終わりの話、そしてレベル上げについての話。


『(なるほど……もう十分技術は学んだと)』

「そうみたい……でも、いきなり放り出すのは酷くない? 酷いよね?」

『(あー、確かにそれは……そうかもな)』


 終わり方が唐突なのは確かに気になるところではある。

 しかし、彼女にも彼女の事情があるだろう。

 それ以前に彼女が手を貸していたのもいろいろと彼女の個人的理由から。

 つまりすべて彼女の意思に委ねられるだろう。まあ、誘ったのは彼女なわけなのだが。


『(……まあ、気にしても仕方がない。十分なだけの実力はついたんだろ?)』

「竜を倒す光景とか見せられたし、前よりも確かに剣は使えるようになったかも。でも、力のほうはそんなに強くはなってないよ。魔物はそこまで倒してはないし……あそこの魔物も弱かったし」

『(まあ、十六階層の魔物は獣の類ばかりだからな。えっと、つまりレベル上げをしろってことだな)』

「うん、さっきも言ったけど……そうしろって言われた」

『(わかった。そういうことなら、レベルを上げる……のはいいが、当てはあるのか?)』

「エルフの里の先に行ってこいって。それからアズラットと一緒に竜に挑め、だって」

『(……そうか。あの骨の蜘蛛相手に、か。まあ、それはいいな。今のネーデの実力はわからないが、一応もう倒せる相手だろう。しかし、竜を相手に参加しろ、か)』

「……嫌なら私だけで挑むよ?」

『(大丈夫だ。ネーデが修行している間に俺も修行したからな。改めて今の自分がどの程度強くなったかも確認したいしちょうどいいかもしれない。ま、今は先にネーデのレベル上げが優先だけどな)』

「……うん」


 ひとまず方針は決定する。ネーデのレベル上げをしてから竜に挑む。

 そうしてしばらくエルフの里から十七階層に行きそこに出てくる骨の蜘蛛を狩り続けたのである。

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