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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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124 課題と様子見

「っ!」


 真正面から頭部へと向かったネーデの<危機感知>が反応を見せる。

 それに対しネーデは<跳躍>で地を蹴り大きく跳び上がる。

 森の中であるため多少跳び上がったところで木々やその枝を足場に使える。

 そのため空中に躍り出ることによる問題が少ないのがよかった。

 そんなネーデがいた場所は蜘蛛が吐き出した糸の塊が通り過ぎていた。


『(やっぱり口から糸を吐くのか)』

「みたいだね!」


 そのまま木々を蹴り、ネーデは上部から蜘蛛へと向かう。

 蜘蛛の体は骨のように見えるもので、またかなり硬質的である。

 逆に言えば、蜘蛛自身の本体は守りが硬いが別方向へと向きにくいものであると言うことだ。

 体が硬いため、頭を自由に動かせない、体を曲げることができない。

 防御力の高さが上に存在する者への視線の向けにくさとなっている。

 向けないわけではないが、足を使いその方向へと向けなければいけない。

 なのでそれに少し手間がかかるのである。


「はあっ!」


 その隙にネーデは頭部を狙う。とはいえ、まともに振り下ろしただけではやはり弾かれる。

 しかし、逆に頭骨の背中部分に降りてしまえば蜘蛛はネーデに対し攻撃しづらい。

 足を自分の体の背中へと向けることは出来ず、体も曲げることができず。


「ここなら、安全っ!」

『(なわけないだろっ!?)』

「わわっ!?」


 ぐらりと揺れて倒れこむからだ。<跳躍>を使い体から離れて転がるネーデ。

 そのまま倒れた蜘蛛は一回転。体が硬いため勢いよく倒れても問題はない。

 多少の衝撃はあるがその程度で駄目になるほどボス級の強力な魔物は軟ではない。


「そ、そんな手がっ……!」

『(まあ、転がって相手を振り払うくらい珍しくはないしな……とはいえ、それ以外の手段がなかったって言うのもあるだろうけど)』


 流石に蜘蛛も背中にいる相手に対する攻撃手段はなかったようだ。

 そのための体を倒れさせてという無理やりな攻撃手段だったわけである。


『(……背中側に回れればかなり有利ではある。だがネーデでは攻撃手段がない。つまり真正面からどうにかするしかないと)』

「うう……でも、糸を吐いてくるんだよね」

『(それを回避できれば問題ないわけだな。とはいえ、回避後に攻撃に回れなければ意味はないが。さっきのは来るのが分からなかったからこその<跳躍>での回避だろ。次は……問題ないよな?)』

「うん。今度<危機感知>で来るのが分かったならさっきみたいに避けたりはしないよ。<防御>で防いで<防御>を解除すればいいだけだもん」

『(……なるほど。糸が残るのが気になるところだが)』


 一度ネーデは糸に引っかかっている。その時は<防御>に糸がひっついた。

 逆に言えば<防御>を使っていれば糸はそこまで危険ではなく、<防御>を解けばそれで問題ない。

 もっともこのやり方は<防御>にくっついた吐き出された糸が残る問題がある。

 その糸も放置すれば踏んだりして危険な状況になり得るものだ。


『(まあ、やりたいようにすればいい。危ないときは手助けしてやるしな)』

「アズラットの手は借りるつもりはない、よっ!」


 再度、ネーデは蜘蛛に向かって突っ込んでいく。そして蜘蛛の行動。

 <危機感知>に反応ができ、ネーデは蜘蛛の口と自分、その射線から体をずらす。

 先ほどは<防御>で防ぐと言っていたが、別に避けないでいる必要はない。

 <跳躍>で大きく避けるつもりはないと言うだけで別に糸にまともに当たるつもりではなかった。

 ネーデのいた場所を糸が通り抜けていく。

 それなりの塊で射線から少しずれる程度では当たりそうだった。

 <危機感知>の反応は優秀で、反応がない場所まで移動すれば当たる心配はなかった。


「はっ!」


 先ほどのようにネーデは蜘蛛に対し斬りかかる。

 頭に硬質的な音が響き、当然ながら切断は出来ない。

 しかし、その硬質的な骨のような体の上を剣が滑り、それは流れ込むように眼へと突き込まれた。


「――――!!」


 蜘蛛が声なき叫びをあげ暴れ始める。

 いくら虫の魔物とは言え、眼球を奪われればきついのだろう。


「っと!」


 流石に大暴れしているところをネーデが隙をついて攻撃できるほどネーデは戦いに慣れていない。

 いや、戦いには慣れているのだが、その能力を十全に発揮できるほどの慣れがないと言うか。

 このまともに行動していない隙に攻撃できればいいのであるが、できないのが彼女である。

 決して弱いわけではないが、やはりまだ幼く戦いに慣れていない。経験はあるはずだが。


『(今のうちに攻撃できないか?)』

「うー……あれだけ動かれてるとちょっと。動きもよくわからないし」

『(……流石に暴れているだけの相手をどうにかできるほどではない、か)』


 ネーデ自身の能力は決して低くないが、本人の意識が低いからだろう。

 もっともまだ幼い彼女に戦いに向けた精神が根付くのもまた難しいのかもしれない。

 少しの間離れていた二人だが、狂乱の状態から戻った蜘蛛に再び対峙する。

 蜘蛛はネーデの姿を見つけ怒りのまま向かってくる。


「やあっ!」


 先ほどのように頭部を狙う。蜘蛛は今度は頭を大きく振って剣を受け、そして弾く。


「っ!?」


 そしてその口をネーデへと向けた。口の中には牙が見る。毒々しい黒色を添えて。

 蜘蛛の毒、麻痺の毒か、神経毒か、それとも殺害能力のある致死の毒か。

 それは不明だが、ネーデの<防御>のスキルがあれば防ぐことはできる。

 だが仮に防いでも<防御>が耐えられるかはわからず、そのまま<防御>ごと噛まれるかもしれない。


『(ここまで)』

「あっ」


 どうなるかはわからなかったものの、ここでアズラットが動いた。

 アズラットが<圧縮>を解除し、蜘蛛の頭部を飲み込む。そして、そのまま体は大きくなる。

 蜘蛛の全身を飲み込み、蜘蛛は動きを封じられ、アズラットはそのまま消化していく。


「……むー」

『(あのまま対抗できたか?)』

「…………わからないけど」

『(安全を買っておいた方がいい。まあ、こちらとしてもそろそろでかい食事が欲しかったのもあるけどな)』

「……むー!」


 ネーデとしては不満がありそうな感じではあるが、とりあえずアズラットは放置しておくことにした。






 そして完全に蜘蛛の消化を終えたアズラット。死骸が一つも残っていない。


「あれ? 死体、残してくれないの?」

『(お金に余裕はある、急いで回収する必要はない、今回は俺が参入した、ネーデも負けるかもしれない危険があった、などなど。どうせまた倒しに来るだろうし、何度も戦って経験を積むべきだと思うからな。ぶっちゃけ今手に入れる必要はないと思う。そもそも、今回のこれも絶対に倒さなければいけないわけでない様子見に近い感じでもあったしな)』

「そうだっけ?」


 様子見とは言うがもちろん倒しても構わない。

 ただ、本来はあくまで実際どういう感じなのかの確認に来たのである。

 なので今回退くことになったとしても構わなかったし、倒したものを残していても別によかった。

 ただ、あっさりと倒した扱いにするのもどうだろう。アズラットが加勢したのもある。

 そういった理由から今回は残すのは止めておこう、という考えになったようだ。

 まあ、実際に売却する以外の必要性を今のところ感じていないというのもある。

 あの骨のような体を回収しても防具にはできるかもしれないが武器にはならない。

 防具も現在新しく用意する必要があるかわからないので保留、と今は必要としない感じだ。

 まあ回収しておけばあとで使い道があれば使えた可能性があったかもしれないが。


「……まあ、いっか。えっと、戻る?」

『(次の敵を見てからの方がいいな。次の敵が倒せそうならこのルートを通りながら鍛えて、できれば竜も倒せるくらいになったほうがいいだろうし)』

「う」

『(これから先、竜とかくらいの強さの敵が出てくる可能性もあるから倒せるようにならないとやばいかもしれないぞ? 途中でワイバーンが群れで出てくるようなところだしな)』

「う……うう、確かにそうだけど……」


 竜生迷宮。竜がいるだけで竜生という名前がつくものだろうか。迷宮の名前は迷宮の特徴。

 少なくとも、途中に竜がいくらかいるだけで竜の名がつくとは思えない。

 ならばどうなのか、というとこの先に竜が出てくる可能性が高いと言うことになるだろう。

 まあ、そんなことを考えつつ、二人は先に進む道を探した。

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