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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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123 大きな骨の蜘蛛

 十七階層。十六階層に存在するそれぞれの集落、および手前の森から行ける次の階層。

 その特徴は極めて分かりやすく、俗にいうボス部屋とも言える階層である。

 そういう階層であるため十七階層は単純な構造をしている。


「……え? また森?」

『(エルフの里にも森があって、その手前も森で、次もまた森か。森ばっかりってのは確かに言いたくなることだが……まあ、それぞれの集落から行ける場所、ってことから行ける場所の特徴を示している可能性はあっただろうな。それぞれの場所からどこに行ったとしても同じ場所同じ相手、ならば集落に分ける意味がないし。いや、他の場所がどうなのかっていうのがわからないからなんとも言えない所だな……)』

「よくわからないけど、ここが十七階層だよね?」

『(そうだな。少なくともさっきのエルフの里とは全然違う場所だ。雰囲気で分かるだろ)』

「うん……敵がいるのは間違いないと思う」


 ネーデもこれまで様々な戦いと行動経験を伴っており、そのため中々実力はついている。

 ここ十七階層に来る前に出会った相手もあって本人は自覚が薄いのだが。

 まあ、なんだかんだで死闘死線をくぐって来ただけはあると言うことだ。

 とはいえ、あくまで感覚的な物。それもかなり曖昧な内容となっている。

 やはりこういう時にネーデが頼りにするのは自分の感覚よりもスキル、そしてアズラットである。


「……えっと、強い魔物がいるんだよね? それだけ、なんだよね?」

『(……そのはずなんだがな。だけど、相手の魔物によっては何らかの特徴を持つ可能性がある。例えば……自分で繁殖して子供のような幼体を作り出せるとかもあり得なくもないだろうな。もしくは、体の一部みたいなものを切り離してそれを行動させるとか)』

「何それ」

『(まあ、強い奴から色々作られて何か出てくることもあるってことだよ! こいつらとかな!)』


 ざわり、と森の中から蜘蛛が現れる。蜘蛛とは言うが、その大きさは大型犬ほどもある。

 もっとも今までネーデが出会ってきた魔物からすれば大した強さではないと言える。

 巨虫を相手に戦った経験を考えればこの程度の魔物ものともしないだろう。

 ただ、数が多いのは面倒で厄介であるのだが。


「はっ!」


 ネーデが一体一体斬り捨てる。いくら数が多く面倒であっても強さの格が違う。

 <身体強化>もあり、<跳躍>を合わせ森を自由自在に動き回れるネーデの能力は決して低くない。

 そんな中、体に触れるなにかにネーデが動きを止める。


「えっ?」

『(糸だ! <防御>を解け!)』

「う、うん!」


 森の中に貼られた粘つく糸。それにネーデがくっついてしまったため動きが止まった。

 幸いなことにこの糸はネーデの張っている<防御>にくっついためネーデ自身に害はなかった。


「糸……さっきみたいなの、結構あるね」

『(<振動感知>はフルで使用、一応跳ぶつもりならばその先を見て糸がないかの確認もな。こっちでも警戒は促すが……見えにくい糸もあるから難しいな。<防御>も十全にしておいた方がいい。まだ使うのに問題はないよな?)』

「うん」

『(ならいい。あの糸だが、あの小さい奴らが張ったとは思えない。確実に何かいる。でかいのが)』

「ええ!? でも……全然動きも姿も見えないけど」

『(こっちの振動感知でも引っかかってないな。全く動きを見せていないか……それとも隠匿系のスキルを持っているか。まあ、何にせよ常に警戒しておけ。まだ小さい奴らも残ってるしな)』

「わかった」


 周囲の警戒をしながら周りから襲ってくる蜘蛛たちを倒す。

 ネーデを捕らえた糸からするとこの周りの蜘蛛ですら子蜘蛛であると考えられる。

 その蜘蛛たちを倒し、倒し、倒し……結構な数を倒した頃にアズラットの振動感知に反応が出る。


『(っ! 来るぞ!)』

「っ! 下っ!?」


 ネーデも<振動感知>を持つためアズラット程の感知能力はないものの、その存在に気づく。

 地面からがっ、と細長い足が出現する。どうやらその魔物は地上にはいなかったらしい。

 活動していればその限りでもないが、静止していれば地下にいる限り見つからないだろう。

 アズラットでも地下に存在する相手の感知に関しては難しい。


「これは……蜘蛛?」

『(蜘蛛だけど……まるで骨でできた蜘蛛だな)』


 白く細長い、節々の感じもまた骨のように見える巨大な蜘蛛。これまでの巨虫に近い。


「たっ、あっ!」


 ネーデが剣を振るいその足に斬りつける。

 本当は本体を狙いたいが、向かってくる部位が優先である。

 しかし、その足に剣が硬質的な音を立てて弾き返される。


「っ!?」


 ネーデ自身は決して弱くはない。しかし、それでも超えられない相手は存在する。

 相手が強いというのもあるが、その体の硬質さが相手の強みだろう。

 骨、という印象はその通りであるが、だからといって骨と同質の防御能力ではない。

 とても硬質であり、並の物理攻撃能力では破壊は不可能。

 いや、この場合魔物の特徴であるのかもしれない。

 魔物にはそれぞれ独自の特徴があり、この蜘蛛のそれもまたその種の特徴である。

 この防御を超える手段は単純で、物理攻撃以外の攻撃手段。魔法系のスキルなど。

 だが、逆に言えばそのスキルを持たない者にとっては厄介な難敵と言える。例えばネーデとか。


「くっ! とおっ!」

『(弾かれてるな。厄介な)』

「ほんとっ! 本体狙ってもいい!?」

『(そこは好きにしろ……って言いたいところだが、本体も弱いわけじゃないだろうな、多分。見た目的に足やら何やらと一緒で硬いぞ、多分)』

「……そうだよね」


 その本体、蜘蛛の体の部分。通常の蜘蛛とは違い、その体は人間の頭骨のような形に近い。

 もっとも人間の頭骨のように穴が開いているわけではなく、そこは黒く配色されているだけだ。

 人間の頭部で言えば上の方が体、顎の方が頭部となっており、その頭骨に骨の足が配されている。

 その全体的特徴から骨っぽく見え、またその本体部分も同じ、ならば足も体も変わらないだろう。


『(斬る、よりは貫け。突け。もしくは打撃を加えるのもいいが……剣で打撃をしたところでな)』


 斬、突、打。

 アズラットの持つ知識ではよく使われる三つの属性。しかし性質としてはわかりやすい。

 また、斬、貫、壊とも表されることもある。よくわかる表し方である。

 斬って駄目ならば突いて攻撃する。線が効かなくとも点ならば効くかもしれない。

 それとは別に斬撃や貫通ではなく、打撃による衝撃を与えるのも手であるだろう。

 しかし、ただの剣で打撃は果たしてどの程度通じるか。そういった剣の技はなくはないのだが。

 少なくとも剣で行う以上は斬撃でなければ突くくらいしかできないのではないだろうか。


「はっ!」


 ネーデは言われた通り、足に剣を突き入れる。斬る時とは違い、わずかにその体に剣が入り込む。

 しかし、やはり相手の体は硬く、少し突き入れただけで終わってしまっていた。


「っ! 駄目、みたい!」

『(そうか)』


 アズラットは考える。とはいっても、まともに攻撃が通用しないのであれば通用する部分を狙うしかない。


『(なら弱い所を狙うしかない)』

「弱い所?」

『(生物である以上どれだけ肉体の防御力が高くとも防げない部分がある。口の中、耳の中、鼻の中……眼なんかもそうだ。ああいう外に露出する必要のある器官はそれ自体が弱点になる。まあ、問題は頭を狙う必要があるから攻撃範囲が狭くて狙いにくいことと……相手が蜘蛛であることを考えるとな)』


 蜘蛛という生物である以上いくらか有する生物的特徴がある。

 骨っぽい体から生物とは断言できないが。

 まずその糸。粘着性のある糸に、粘着性の無い糸、二種類の糸を使える可能性を持つ。

 そして毒。蜘蛛は種類によっては毒を持つことがある。

 それがどの性質であれ厄介なのは間違いない。

 問題はその毒がどこにあるか、また糸を何処から出してくるか。

 相手の特徴をあらためて見ればわかるが、人間の頭骨に似ている。

 そのためか臀部に糸の放出口がない。

 ならばどこから出すのか? 想定されるのは当然口。そして毒も爪や牙にある可能性がある。

 それらの特徴、すなわち蜘蛛であるうえでの厄介な要素は頭部に集中していると言える。

 頭部に狙いをつけ近づくのは同時に相手もそれらの行動をとれる可能性のある面倒ごとである。


「でも、やらないと」

『(……そうだな。何かあれば助ける。やりたいようにやるといい)』

「うん、アズラットに助けてもらわなくてもいいように頑張るよ!」


 そう言ってネーデは地面を蹴って蜘蛛の頭部に向けて向かった。

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