122 剣の鬼
「初めまして」
「……初めまして」
「うん、まあ、警戒する気もわからないでもないけど。とりあえず自己紹介から。私はフォリア。この竜生迷宮に挑戦する冒険者でずーっと一人で活動している冒険者。今回一人で行動しているあなたを見かけたからちょっと話させてもらっているわけね」
「そうですか」
相手が誰であれ、冒険者であれば塩対応となるのがネーデである。
当然目の前の相手が共感性のある身長が比較的近い同じ一人で冒険している者であっても。
ネーデは基本的に周りから見れば頭にスライムを乗せた幼い奇妙なソロ冒険者。
そんなネーデに積極的に話しかけようとしてくること自体が怪しいと言ってもいい。
まあ、相手も一人である以上同じ一人で探索する冒険者を気にかけるのは変ではないだろう。
しかし、同じような立場、状況だからと言って全く同じというわけでもない。
「んー…………まあ、ちょっと見せてもらうかな」
「な」
にを、と続けようとしたネーデ。既に目の前には剣が降り抜かれていた。
「に……えっ」
「うん、遅い。実力としてはまあ差があるから仕方がない。剣の腕に関しては見ていないから不明だけど……動きは遅い。ここまでは十分やってこれてもこれから先はやっていけないかもね」
「っ!」
後ろに下がるネーデ。仮に彼女がネーデに攻撃するつもりだったらどうだろう。
<危機感知>に彼女の攻撃は反応したはずだ。しかし、今の攻撃も<振動感知>なら察知出来た。
そういう点ではネーデは警戒心が甘いともいえるが、安全なエルフの里で警戒するはずもない。
とはいえ、目の前のフォリアにはあまり関係ないようだ。彼女は常在戦場の心構えを持っている。
それを押し付けられる方には堪った物ではないだろうが。
『(今の、かなり速かったぞ。流石に相手も殺す気では来てないだろうが…………っていうか<危機感知>には反応あったか?)』
「な……」『(なかったよ)』
『(そうか……強いのは確かだが、いったい何のつもりで攻撃してきた?)』
『(そんなのわからないよ……もう、冒険者ってほんとーに嫌なのばっかりなんだから)』
ますます冒険者という存在に対する不信感の強くなるネーデ。
そんなネーデに対しフォリアは特に気にした様子もなく話を続ける。
「本当はあなたの実力を見たいところだけど……ううん、正確にはあなたたちの実力を見たいところかな?」
「……たち?」
「あなたの頭の上のそれ。多分あなたよりも強いでしょ? 私よりは……どうだろう? 強いかな? 弱いかな? ふふふ……強いスライムって初めて見るからどれくらい強いか試してみたいかな、ふふふふふ」
「アズラットに何する気……?」
ネーデの視線が鋭くなる。殺気、とまではいかないがフォリアに対して向ける気迫がある。
「いいわね、若いわそういうの。でも……本気で相手に意識させたいのなら」
「っ!?」
(っ……)
「これくらいしないと」
ぶわっと広がる小さな体から発される圧力。フォリアの持つ<気迫>のスキルである。
気の弱い相手、精神的の弱い相手、自分よりも実力の低い者ならば多くはこれで圧倒できる。
「うん、まあまあできるみたい。まあ、ちょっと見てみなさい」
ぽいっとフォリアが自分の冒険者カードをネーデに投げる。
「っ……これは?」
「私の冒険者カード。実力は確認できると思うけど」
「………………」
フォリアのネーデに対する対応は実に押しが強い。ネーデ自身あまり他者と関わらない。
しかし、ここまで押しが強く無理やり関わってくる相手だと押し負ける。
これはネーデの彼女に対する対抗心もあるのかもしれない。相手は見た目だけは同じ少女だ。
「っ!?」
『(……これはなかなか)』
『フォリア Lv58
称号
孤高
竜殺し
剣豪
戦狂い
スキル
<剣技> <剣術> <剣気> <身体強化>
<強化> <気配察知> <実力察知>
<察知> <魔法剣> <生命力> <気迫>
<気> <直感> <天恵>
実績
石路迷宮二十八階層突破
水渦迷宮九階層突破
闇骨迷宮十九階層突破
獣王迷宮十四階層突破
竜生迷宮十七階層突破 』
見せられた冒険者カードに記載された情報は簡潔なネーデの物と比べごちゃっとしている。
しかし、それを見れば彼女の実力ははっきりとわかることだろう。
竜生迷宮の先に到達している実力はもちろん、他の迷宮の攻略情報。
称号に存在する竜殺し。剣豪に戦狂い、そしてソロ特有の孤高という称号。
スキルもかなり習得しており、特に剣関連のスキルが多い。まさに戦うための存在である。
「返してー」
「……はい」
ネーデがフォリアに冒険者カードを返す。そういったところは律儀である。
「まあこれで実力はわかってくれた?」
「ええ、はい、まあ一応は」
「うん。実はあなたも同じ剣のスキルを持つらしいから実力を見たいと思ったんだけど」
「……嫌」
「ま、そうよね。今まで一人で活動……うん、独りで活動してきた冒険者がいきなり現れたどこの誰とも知らない冒険者と仲良くは出来ないか。まあそれはいいの。私はあなたたちの実力を見ることができただけで十分だし」
フォリアにとってはネーデ……とアズラットの実力が分かればそれでいい。
一度戦って本気で実力を見たい、同じような立場の相手と戦り合ってみたいという気持ちはある。
だが、それ自体は急ぐ必要性もない。今のネーデに十七階層は超えられない。
「うん、この先困ったことがあったら相談しに来なさいな。多分十七階層に挑んで負けて戻ることになるだろうから。まあ、死ななければだけどね?」
「………………なにそれ」
流石にその言い分にはネーデもイラっと来る。
「んー……そうね。あなたの正確な実力は知らないけど」
とん、と軽く体を動かし、フォリアは一瞬でネーデの目の前にいた。
「っ!?」
「反応できないでしょう? まだまだ実力が足りていない。今の私でも十八階層を突破できていない。先に進むつもりなら、あなたはもっと実力をつけなければいけない。それくらいなら私もあなたとの戦いを楽しむついでにやってあげる。そう言うことを言ってるの」
「くぅっ!」
ネーデが咄嗟に剣を振るう。流石に剣を振るうとなると相手にも危害が及ぶ危ない一手だ。
しかし、あっさりとその剣は彼女の持つ剣に止められ、するりと跳ね上げられる。
「剣でやってみる? こっちの方が強いけど」
「…………っ」
流石に相手の実力が自分より上なのは少し関わるだけで分かる。
「じゃあね」
「あ……」
手をひらひらとふって、あっさりとフォリアはいなくなった。
「……なんだったの?」
『(パフォーマンス……かなあ。あれでネーデの事を気にかけている…………感じ? なのかな?)』
「それ私に訊かれてもわからないよ……」
『(まあ、あんまり気にするな。熊に追っかけられたようなものだと思えば)』
「熊なら倒せるよ?」
『(……竜に追いかけられた感じかな)』
フォリアは強さ的には竜以上とみていいだろう。仮にも竜殺しの称号を持っているのだから。
まあ、そんな感じでフォリアとネーデの初遭遇が行われたわけである。
いきなり出会った所で相手のことを何も知らないのでネーデとしては単に迷惑だっただけだ。
『(えっと、とりあえず予定通り十七階層に進んでみるぞ)』
「うん……なんか先に進む前に疲れちゃった感じ」
出会ったフォリアについてはともかく、ネーデは予定していた通り十七階層に向かう。
最初はエルフの里からいける場所へ。その場所自体は先に話を聞いてわかっているので。




