表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
120/356

120 十六階層到達実績

「ようこそ冒険者ギルド出張所へ。えっと…………御一人ですか?」

「はい」

「え、あの、仲間がいないんですか? ここまで一人?」

「はい」


 十六階層、エルフの里に存在する冒険者ギルドの出張所。そこにネーデが訪れた。

 そうして聞かれることとして仲間の有無である。

 基本的に十六階層まで来れる冒険者というのは数が少ない。

 何故かというと十五階層の難易度があるからである。

 もともと竜生迷宮自体冒険者が挑戦するのに難易度が高い迷宮である。

 それをたった一人、しかもネーデ程に幼い子供の冒険者である。

 通常であればそんな子供一人が十六階層まで来れると言うことがあり得ない。

 あるとしても、仲間がいてその仲間が途中で死んだなどの例となるだろう。

 そもそもソロの冒険者という存在自体、数が少ないのである。


「えっと、途中で仲間の人が死んだとか、そういうのでは……」

「ないです」

「……わかりました。冒険者カードの方を見せてくれますか?」

「わかりました」


 そうしてネーデは己の冒険者カードを出張所の受付に渡す。

 そのカードを見てまた驚く。一つはレベル、一つはスキル。

 十六階層に到達できる冒険者なのだからレベル四十程になるのはおかしくはない。

 しかし、本当にそこまでレベルが上がっている冒険者はいない。

 そのうえネーデの場合四十五レベルに至っており、熟練と言えるくらいの強さである。

 実のところ人間のレベルはある一定からは上がりにくくなる傾向がある。

 これは種族差があるので何とも言えないが、人間は早熟傾向であるらしい。

 その代わりスキルの覚えやすさがある。そもそも高レベル帯になるとどの種族も上がりにくい。

 そしてもう一つの驚く点としてスキルの豊富さである。

 それも個人で覚えるには少々様々な傾向にある種類の豊富さ。

 ネーデのように一人である場合、普通は思考の方向性が固まるのである。

 剣士ならば剣に特化したスキルを、魔法使いなら魔法系統に特化したスキルを。

 個人の性質、個人の強みを伸ばす方が強いのは当然である。

 そのためスキルの空きを失ったり、また迷宮の様々な傾向に対応できなくなることも多い。

 それらに対しネーデのスキルは個人戦闘に特化しているが、様々な傾向のあるスキルと言える。


「…………はい、お返しします」

「どうも」


 受付はネーデの頭の上のスライムにちらりと視線を向ける。そしてすぐに視線を外す。

 ネーデの存在も謎が多いが、その頭の上にいるスライムについても謎が多い。

 受付の感じる限り、スライムは少なくともまともなスライムよりも強い。

 そもそもスライムが十六階層までついてくる時点で異常である。

 そのうえネーデのスキルにはスライムを従えるスキルがない。この時点でおかしい話だ。

 しかし、スライムがネーデに対して従順であると言うのならば。手を出さない方が得策である。

 刺激して無用な争いを生む方が面倒ごとが多い。

 ネーデとスライムがどこであったかは知らないがここまで無事な以上問題はないのだろう。

 そう判断し受付は次の話を進める。


「ようこそ、竜生迷宮の十六階層へ。この階層に来た時点で十階層攻略の実績は更新されます。冒険者カードの実績の欄をご覧下さい」

「……あ。変わってる」


『ネーデ Lv45

 称号

  契約・アズラット

 スキル

  <剣術> <危機感知>

  <身体強化> <跳躍>

  <振動感知> <防御>

  <治癒>   <投擲>

  <保温>   <隠形>


 実績

  竜生迷宮十五階層突破』


 実績に存在した仮の十階層突破、およびギルドに行かず更新されていない各階層突破。

 その全てが消え、竜生迷宮十五階層突破のみが残っている。

 相変わらず称号は変わらないし、レベルもスキルも大差はないが。


「ここ冒険者ギルドの出張所は出張所という名目になっておりますが、通常のギルドと同じ作業ができます。もちろん素材に関しても持ってきていただければ買取も致します。お金に関しては後で支払うように冒険者カードに明記する形となりますが迷宮の外で通常のギルドに見せることで支払われます。ここではその明記された金額を元に様々な商品を取引することとなりますので少し変わった形式ですがよろしくおねがいします」

「はい」

「一応冒険者の仲間に関しても募集などは取り扱えますが……」

「それはいりません」

「そうですか……」


 ネーデは受付相手でもそうだがどこか対応が硬い。これにはネーデ自身の色々な理由がある。

 そもそもネーデが最初に受けた不信が今もあるということ、そしてアズラットの存在である。

 はっきり言ってここまでアズラットがいればそれで十分だった。

 下手な冒険者よりもアズラットの方が頼りになると言う点が一つ。

 そして他の冒険者が誰の管理にもないアズラットの存在を許容してくれるかどうか。

 ネーデとそれなりに長い付き合いとなればネーデに<従魔>などのスキルがないことを知る。

 そのうえネーデが持つ称号に存在する契約に関しても疑問に思うだろう。

 そしてその契約相手はアズラットと記されており、それがスライムの名前と一致する。

 さらに言えばネーデに<契約>のスキルがない。<契約>を行った主は誰か? そう思うはずだ。

 そこまでネーデは理解していないが、アズラットの存在を知らせない方がいいのはわかっている。

 ゆえにネーデは他の冒険者と一緒に探索をするつもりはない。


「えっと、武器とか防具は買えますか?」

「今のところ取引に使えるお金はありません。それには……十五階層か、十七階層から素材を回収することが必要になります」

「うええ……」


 流石にワイバーン相手に素材を回収、というのは難しい。

 十四階層でならばいくらか倒しているが十五階層でというのは無理だろう。

 と、そこまで考え。


「あ。鱗とか牙とか角とかならいくつかあります」

「はい、それなら提出をお願いします。査定をしてここで使える金銭記録にしますね」


 ネーデが出したあまり多くはないワイバーンの素材。

 もっともこの場所において十四階層で手に入れる事自体してくるものは珍しい。 

 そのうえ十四階層と十六階層の往復には十五階層がある。

 ワイバーンの群れの正面突破は十七階層を攻略するよりも場合によっては難しい。

 なのでかなり珍しいことなのでそれなりの金額になるだろう。


「あ。そういえば、この先の階層へはどうやって進めばいいですか?」

「それに関してはいくつかの手段がありますが、冒険者の皆様方に提案する手段は二つ。このエルフの里から奥へと通じる道の先を進むか……十六階層の各人型魔物の集落に繋がらない中央洞窟の先を進む、その二つが先に進むための内容となります」

「……どう違うの?」

「十七階層は十六階層からそれぞれつながる階層で最終的に一ヵ所に通じるそうですが、その前に強力で強大な魔物が控えていると言う話です。そして各集落から通じる魔物はそれぞれの環境に合わせたものであり、それを倒してから複数の場所と合流しそこにさらに強大な魔物がいる、その先が最終合流地点で十八階層に通じる道となっています。ですが、十六階層の中央洞窟から進む場合、倒す魔物は強力な一体で済みます。面倒な相手ですが、この先を進むことを考えるのであればこの中央洞窟を攻略できないといけませんので基本的にはこの中央洞窟を進むことをお勧めします」

「……はあ」

「百聞は一見に如かず、一度覗いてみるのもいいでしょう。中に入ったところで強大な魔物にすぐに襲われるわけでもありませんし、彼らはその場所から大きくは動きませんので逃げることも可能です。まあ、かなり強い相手ですのでいきなり殺されると言うこともあり得ますから存分に注意した上で進むことをお勧めします」

「わかりました」

「はい。査定が終わりましたから冒険者カードをお願いします」


 受付に言われネーデが冒険者カードを渡す。それに受付が金額を記載し返してきた。


「これはここで使えるお金ですが、先ほども言った通り外で見せれば支払ってくれます。その逆でまたここにくるつもりであれば、外でお金を支払い記載してもらうことも可能です。この場所でお金を使う場合は冒険者カードを提出し、そこに記されている金額からお金が引かれます。それでは頑張って下さい。あ、武器や防具を置いている店はこのギルドから出て右に進んだ剣と盾が描かれた看板のお店ですよ」

「はい、ありがとうございます」

「一番大きな建物は宿屋ですので。たいして大きさに差がなくわかりづらいかもしれませんが、ここに個人邸宅はありませんし建物も少ないですからすぐにたどり着くと思います」


 最後の最後までいろいろと説明をしてくれる冒険者ギルドの受付であった。


「ふう……」

『(とりあえず、一度宿屋に行こう)』

「武器と防具は?」

『(いや、確かに必要だけどな……それよりも、本当に安全な場所で一度休んでみたくはないか? ずっと迷宮の中だったろ。俺が見張りをしていたとはいえ、安全とは言えなかっただろうしな)』

「……アズラットのことは信頼してるよ?」

『(それでも、だ)』


 ネーデがアズラットのことを信頼しているからと言って、迷宮が安全であるかどうかは別。

 ずっと、長い間、本当に危険のない安全な場所で休息をとると言うことはネーデは出来なかった。

 見えない、わからない、感じない、そんな疲れがたまっているかもしれない。

 そう思ってのアズラットの提案だ。まあ、アズラット自身もゆっくり休みたいのもある。

 一応スライムとして安全な環境で休息できる機会はあったが本当に安心して休めたことはない。

 現在はスライムだがアズラットは元人間。人間らしく、本当に安全な休息を取りたいとも思う。

 肉体的にはともかく精神的な休息は一度彼も取りたかっただろう。


「……うん。別に急ぐわけでもないし、いいけど」

『(じゃあそうしよう。武器や防具を今買うのも後で買うのも同じだ。なら宿で休むのを後で休むのも今休むのも同じ、先に休んだって問題ない)』

「そうだね……まあ、私も少し疲れはあるし、久しぶりにゆっくりするのもいいかな」


 そうして二人は宿屋に先に向かう。そして部屋を一つ取り、そこで休む。

 大きな部屋に複数のベッド。

 この迷宮では一人部屋は考慮されておらず一部屋複数人が基本である。

 まあ、代わりに値段は少しまけてもらったようだ。


「……おやすみ」


 ぼふっとベッドに横たわるネーデ。流石に鎧や武器、荷物の類は置いているが大雑把だ。


『(おやすみ。はあ、まったく、片付けくらいしろっての……)』


 雑に置かれた持ち物にネーデ自身をきちんとしてからアズラットも休み始める。 

 とはいえアズラットは眠れないので精神的に落ち着くくらいの休息であったが。




 そう言う形で二人は竜生迷宮の最終的なチェックポイントともいえる場所に到達した。

 竜生迷宮は二十階層。残り四階層、果たして最後まで二人は到達できるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ