表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
118/356

118 迷宮に住まうエルフ

 植物に覆われた壁を持つ洞窟を見つけたネーデとアズラット。

 しかし二人はその洞窟へと入ることをしない。流石に未知の洞窟、しかも植物が占めている。

 迷宮において様々な魔物がいるが中には植物の魔物もいる。

 その洞窟を覆っているものが魔物でないと言う保証がない。


「……どうしよう?」

『(<危機感知>に反応は?)』

「んー……ないんだけど、<危機感知>は襲ってこないなら反応しないから……」

『(足を踏み入れたり近づいたりして植物が動きを見せれば反応するが、それ以外の場合、つまり相手の領域に入っていないから動かない状態では反応しないか。そこは<危機感知>の欠点だな……)』


 ネーデの持つ<危機感知>は自身を襲う危機に反応する便利なスキルである。 

 しかし、それはその危機が明確に危機となる段階でなければ反応しない欠点を持つ。

 仮にこれが<危険感知>ならば、危険な物を感知するため植物が危険な物ならば反応する。

 また、感知ではなく探知のスキルや察知のスキルならば話は違ったかもしれない。

 そういった微妙な差異がスキルには存在する。

 まあ、スキルに文句を言った所で始まらない。万能なスキルなどほぼないのだから。


『(俺が近づいてもいいが)』

「それはダメ!」

『(そうか……)』


 アズラットは物理攻撃が通用しない。植物が特殊な攻撃をやってくることはないだろう。

 つまりアズラットであれば植物に近づいてもよほどのことがない限りは無傷である。

 なのでネーデに確認のために申し出たがダメであるようだ。


「私が確認するよ。私の方がアズラットより動きやすいしね」

『(ああ。そう言うなら頼む)』


 ネーデでは安全面で不安はあるが、ネーデの自主性という点においては自分からというのは悪くない。

 まあ、それがアズラットが関わろうとしたからこその提案なのであまり自主性とは言えないが。

 ともかく、ネーデは植物に覆われた森へとその身を侵入させた。


「っ!」


 植物に足を置いた、触れた途端。ネーデの持つ<危機感知>のスキルに反応があった。

 すなわち植物がネーデを襲おうとする動きである。当然ネーデは回避する。

 回避と言っても、まだ一歩植物に足を踏み入れただけだ。

 そして踏み入れてすぐにスキルで感知されたのであまり危険なことにはなっていない。


「やっぱり危なかった……?」

『(見ている限りだとネーデに植物が伸びようとしてた感じだな。早急な危険はなさそうだが、そのままだと取り込まれるとかそんな感じか?)』

「ふーん……でも、入ると襲ってくるのなら進めないよね」

『(そうだな。とりあえず外で中から出てくるか、ここに戻ってくる誰かを待つと言うのも一つの手だと思うが……まあ、さっきのあいつを信用できるというのなら、だけど。一応案内先としては正しいように思えるが、確実にここが安全とは限らないしな)』


 少なくとも同じ仲間が待っているという罠ではないのは確かである。

 しかし、足を踏み入れたらその身を伸ばし襲ってくる植物に覆われた洞窟があるだけ。

 もしかしたらその中に人間に対し友好的な人型の魔物がいるのかもしれない。

 しかし、本当に友好的ならばこのような罠を設置しておくだろうか。

 そのあたりは疑問に思う所である。人間相手には発動しない罠であるべきだろう。


「んー……一応様子を見てみる? 別にそこまで探索を急がなくてもいいし。安全な場所はあったほうがいいけど……」

『(まあそれもそうか。そこらへんの判断はネーデに任せよう)』

「う。私が決めるの……?」


 とりあえずネーデとアズラットは洞窟に戻ってくる何者か、または出てくる何者かを待つようだ。

 現状二人にとって危険と言えるようなものはない。十五階層に比べれば余程楽である。






 そうして待っていると、一人の人影が姿を見せる。出てくるのではなく戻ってくる存在だ。


「む?」

「あ」

(……ほほう)


 その人影はネーデとアズラットの存在に気づく。ネーデもその存在に気づいた。

 そしてアズラットは一人納得したかのように心の中で頷く。

 その存在は少し前に会った獣の様相をした存在よりもはるかに人型に近い。

 だがどこか肌に緑色を含み、耳が長いと言う一般的な人間にない特徴を持つ。


「エルフ?」

『(エルフは知ってるのか)』

「うん」


 ネーデもエルフという存在については知っている。迷宮の外にもその存在がいるからだ。

 基本的に迷宮に存在する魔物だけが魔物のすべてではない。迷宮の外にも魔物は存在する。

 その中の一つ、一種の亜人として存在する人型の魔物達も迷宮の外にはいる。

 物語の敵として語られる事も多いゴブリンやオーガ。森に住む麗しい見た目を持つエルフ達。

 海に住み溺れた人を助けたこともある人魚。聖なる国の敵、怖ろしい脅威の吸血鬼。

 元々彼らはこの世界に存在していた者ではなく、迷宮にいたとも噂される。

 まあネーデはそういった細かい話は知らず、御伽噺などでその存在を知っただけだ。

 一応実在していると言う話も聞いたことはあるものの、会ったことはない。

 つまりこれがネーデにとって初めて見るエルフということである。


「我らの種族の事を知っているようだな。あなたは人間、冒険者でいいか?」

「あ、はい」


 流石にそれなりに近い距離であるため言葉は聞こえていたようだ。

 結構近づかれているがネーデの方はあまり警戒心がない。代わりにアズラットが警戒している。


「ふむ……我らの拠点に入ろうとしないということは、鈴を持たないのか」

「……鈴?」

「ああ。少し待ってくれ」


 エルフが洞窟へと近づく。流石に距離を詰められると危険なことを考えネーデは離れる。

 洞窟へと近づいたエルフは懐から何かを取り出した。先ほど話していた鈴であるようだ。


「我らは冒険者に対し基本的に協力する体制をとっている。ゆえに冒険者にはこの鈴を渡している。この鈴は……こう使う」


 洞窟に鈴を向け揺らす。するとちりーん、と鈴が鳴り……その音を合図に植物が一斉に退けた。


「ふえー……え? 今の……え?」

『(魔法道具の一種か何かか? もしくは……結界的な意味合い? あの植物自体が罠でその動作にあの鈴を利用している? ともかく、あの鈴を鳴らすことであの洞窟に存在する植物たちを退かすことができるようだな……)』

「鈴凄い……」


 どう対処すればいいか迷う植物たちを鈴の一鳴りで退かしたことに感嘆を漏らす。

 とはいえ、もとよりそういう仕組みであったのならばそこまで変な話ではないだろう。

 扉の鍵と同じ、魔法の罠と同じ、起動と解除に必要な鍵さえあればどうとでも扱える。

 まあ、それが迷宮内部であるから驚くのだが。


「ついてくるといい。我らの里がこの奥にある」

『(……ネーデ。なんで罠を張っていたか聞いてくれ)』

「……えっと、何であの植物が洞窟にあったの?」

「我らとて全ての者に信を置くわけではない。外から危険な者が訪れないとは限らぬだろう。それらを堰き止め、またその存在を把握し場合によっては殲滅するために繋ぎとめる。この階層にいる人型の魔物の中には当然人間に対し敵対的な者もいる。その一部は我ら人間の味方をする物に対し敵対的な者もいる。それら敵対者が侵入せぬようにしているのだ」

「なるほど……?」

(まあ人間に対して敵対しているならその味方をする奴の敵ってのはわからないでもないが……逆に言えばエルフが人間の味方である点についても謎が多いんだけどなあ)


 確かに魔物であるのならば人間に敵対するのはおかしな話ではない。

 むしろ何故エルフが味方しているのかという点が疑問的であるだろう。


「ついてくるのならばついてこい。我らを信用できないと言うのならばそれもまた良し。ただ、この階層で我らの協力なしでは滞在は難しいだろう。我らの里には冒険者ギルドとやらの出張所もあるようだからな」

「え!? ほんとに!?」

『(……それなら行くしかないな。そろそろ武器もやばいんじゃないか?)』


 十階層で得た武器だが、これまでの戦いを行ってきた中消耗がひどいのは間違いない。

 特に十四階層で戦ったワイバーンとの戦いは確実に寿命を縮めたことだろう。

 新しい武器にそろそろ替えた方がいい。それは間違いないことである。


「……ついていきます」

「うむ。そうするならばそれでよし」


 ネーデとアズラットは植物が失せた洞窟の中、エルフの後ろをついていく。

 他に進む当てもない。不安もあるが、その道を進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ