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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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116 迷宮で出会った謎の人

 十五階層を死に物狂いで駆け抜けなんとか十六階層にたどり着いたネーデとアズラット。

 流石に十五階層でワイバーンから受けた火傷もありそのまま活動するには至らず。

 十六階層にて休息をとることになり、その見張りをアズラットが請け負っていた。


(……ふむ。十六階層は十四階層と近いように思える。今のところは……この付近は)


 現在アズラットのいる付近は森だ。十五階層とつながる境界は洞窟だがその周りは森である。

 しかし、周囲にあるのは森だけではない。周囲が森で木が遮るがそれ以外のものも見える。

 周りには崖のような雰囲気や滝のような場所が見える。高所が存在する場所だ。

 今までの階層よりもずっと高い所に天井が存在している。


(……人? 遠目だからわからないな。流石に振動感知での把握も少し遠すぎる。スライムの視界に関しては色々謎だが、直接的な視力はそこまで高くないみたいだからな。振動感知の範囲に入ればはっきりわかるが……まあ、それは森の方にある幾らかの気配の方が気になるところでもある。森には基本的に獣がいる様子だが……人型の何かもいるな。こちらに気づいているのかどうか知らないが基本的には近づいて来ないようだ)


 森の中には多くの獣、動物の姿が見える。ネーデは格好の獲物だが今のところ近づいて来ない。

 そしてそれとは別に人型の生物の存在もアズラットは感知している。

 先ほど空を飛んでいる人のような何かも見えたが、それ以外の人のような何者かが森にいる。

 それは空にいた人のような何かとは恐らく別物であるだろう。

 アズラットが感知したそれは獣の姿に近い人型の何者かである。


(人間じゃなさそうだ。ここは迷宮、それならば恐らく人型の魔物である可能性はあるだろう。ただ……向こうはこちらに気づいているような感じだが、しかし近づいてくる様子はない。ゴブリンとかとは違うのか? 相応に知能があるのか……それともこの世界には人間以外の人種が存在するか。亜人とか存在するとしてどういう扱いなのかは知らないしな。仮に魔物だとして。人間に対して敵対的かどうか。ゴブリンとかは普通に敵対してくるが、人間を利用していたりもした。そういう考えができるのであれば場合によっては人間と敵対しない道を選ぶ場合もあるかもしれない。まあここは迷宮だからどこまで相手を信用できるかはわからないな……そもそも相手が魔物か亜人かもわからないから考えたところで仕方がないが。判断するには一度相対するしかない。戦う危険もあることを考慮しないといけないか?)


 ネーデも起きていない状態でアズラットのみが何らかの行動をとるということはできない。

 それはネーデの安全もあるし、いざという時ネーデ自身も戦力となるからである。

 アズラットにとっては不慮の危険もネーデならば<危機感知>での探知ができる。

 基本的にネーデはアズラットに頼り従い教えを受ける立場だが、決して弱いわけではない。

 今や十六階層に居られる程度には戦闘能力は高い。もっともあくまで単独で考えれば。

 通常冒険者は複数人で組むのが当たり前なので冒険者としての総合的な実力は比較的低い。

 まあ、彼女にはアズラットがいるので決して総合戦力が弱いとは言えないが。


(……十四階層に近い十六階層。ただ空を飛んでいる人型に、滝や高所にある何か……どこかに繋がる道、穴のような場所。あそこ以外にあるのか? 高所にあるのには手が届きそうにない。ただ、蔦や階段が道として繋がっている。一応どちらもいける道のりではあるようだが……どちらが正解か? いや、場合によってはどちらも正解って可能性もあるか。ルートによる迷宮構造の分岐。どれも正解の扉だがルートで出てくる魔物や罠、戦闘傾向が変わるとかそういうパターンとか? 今まではずっと階層で傾向が決まってたが、そういうことももしかしたらあるのか。結局のところ調べてみるまではわからん。深読みしすぎは危ないかもしれないな……ネーデが起きてから探索をしっかりする。それでいいだろう)


 ひとまずアズラットにできることはネーデが回復し起きるまで待つだけだ。






「ん…………おはよ」

『(おはよう。もう体は大丈夫か?)』

「ん…………っ、まだちょっと痛い所はあるけど……ほとんどもう治ってるかな?」

『(そうか。もう少し休んだ方がいいか?)』

「ううん。動いている方が元気出るし、先に進まないとダメなんでしょ?」

『(別にそういうわけじゃないぞ。必要なら休むのも考慮に入れる。まあ……ここで休むと言っても難しいかもしれないが。森の中だ。魔物もいるし獣もいる。今のところ近くを通っても近づいては来ないが……)』

「そうなんだ……十四階層と同じかな?」

『(そうとは限らないな。あちこち見回してみると分かるが……色々とあるみたいだぞ)』

「…………ほんとだ」


 アズラットはネーデが休んでいる間に周囲の確認をしたがネーデは今が初めてだ。

 とはいえ、迷宮の様相そのものは他の階層と比べ大幅に違うということはない。

 しかし高所にある穴や滝、よくよくみれば段差のようになっている場所などもある。

 それまでとは違い様々な光景の組み合わせ、少なくとも十四階層とは違う。

 その光景を物珍しくネーデは見回した。


「えっと、次はどこに行けばいいのかな?」

『(わからないが……とりあえず幾らか森とその周辺を探してみるのもありだな。あの高い所にある穴が次に繋がるのか、それとも滝の方がそうなのかもわからないのが現状だ。それにもしかしたら似たようなところが他にもあるかもしれない)』

「どれかが正解?」

『(どれも正解ってこともある。どの道も奥に通じているかもしれない)』

「ならどこから行ってもいいってことだよね」

『(出てくる魔物が違ってくるということもあるから一概には言えないぞ。だからどこに何がどうあるのか、ちゃんと調べてから行った方がいい。その方が安全だからな)』

「へー。うん、わかった。とりあえず色々と見て回ればいいんだよね?」

『(ああ)』


 色々と今までとは違い一本道ではない所に迷う部分がある。しかし、結局は変わらない。

 今までもどこに次の階層へつながる道があるかわからず彷徨い探していたのである。

 それと同じ、どれが正解か、どれも正解なのか、それを調べるために彷徨い探すだけだ。

 ネーデは休息から復帰し、アズラットと共に十六階層の森へと入り込む。

 十六階層の森は十四階層と大差はない。基本的に獣や魔物が闊歩しているだけだ。

 もっともネーデが十四階層へと来たときほどの危険はない。どの魔物も近づかない。

 むしろ避ける傾向がある。こちらから襲えばわからないが向こうからは何もしない。


「……襲ってこないね」

『(警戒している感じだな……)』


 何故かこの階層にいる魔物や獣は人間に対し警戒している様子が見られる。

 確かに冒険者などが魔物や動物を狩り食らうことを考えれば彼らが警戒するのはおかしくない。

 だがそこまでここに冒険者がいるだろうか? 十五階層をどれほどの数が越えられるだろうか。


「まあその分森の中を進むには楽だけどね」

『(そうだな…………)』

「……アズラット?」


 どこかアズラットは周囲に対し警戒する様子を見せている。


「何かいるの?」

『(……獣や魔物、いや、魔物でないとは断言できないが……様子を見てる感じだな)』

「……何が?」

『(あっちに真っ直ぐ。行ってみろ)』

「うん」


 アズラットがネーデに体で道を指し示し、そちらへとネーデは歩を進めた。

 森の中の一角、その場所でネーデに対し警戒するように観察していた何者か。

 その相手の下にネーデが訪れる。その姿にネーデは目を丸くして驚いた。


「え? 人……? 人じゃない? え、なに、誰?」


 そこにいた人のような姿をした何者か。人間か、魔物か、それすらもわからない不明者。

 普通ならば魔物として断じるだろう。これまでの階層でもそれに近しい狼男のような魔物もいた。

 すなわち獣の様相を人の体に取り入れた何者か、それがネーデの前にいる存在である。

 より人に近く、理性のある目を持ち、冷静にネーデを観察している。


『(……警戒はすること。相手が敵か味方か、人に近いものか魔物に近いものか。少なくとも向こうからは襲ってこないが、かといって危険じゃないとも限らない)』

「……うん」


 その存在を前に、ネーデは同じように相手を観察する。

 相手が何者か、敵であるのか、それとももっと別の何かか。それを判別するために。

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