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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
112/356

112 隠れて進むには

『で。実際にどういうスキルがあればあのワイバーンの大群の中を安全に進むことができる?』

『それに関しては難しい問題ですね。相手はワイバーンです。通常竜種と言うものは感覚的に鋭いものです。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、第六感、おおよそ全ての能力において通常の生物よりもはるかに優れています。その竜種、亜竜のワイバーンとは言え、その目を欺き進むのはかなり大変な行いと言えるでしょう』


 竜種とは基本的に他の生物よりもはるかに強い、既存の生物種では最強クラスの生物である。

 その能力は亜竜であろうとも当然ながら高い。本当の竜には劣るにしても誤魔化せるか怪しい。


『生物である以上外部からの情報収集の大部分は視覚になるでしょう。彼等の感覚的な部分は人間に近い部分がありますし。そうである以上、視覚に由来する情報を遮断することのできるスキル……<透明化>や<迷彩>みたいなスキルであればそれなりに相手に気づかれずに進むことができると思います。場所や状況によれば隠れることも不可能ではない。いないように見せかけることもできる。発見されても効果がある、というのが重要です。そういうことは<隠蔽>ではできません。ですが……これらのスキルは視覚に由来する情報を遮断するスキルです。視覚だけをどうにかすればいいのであれば全く問題はありませんが、相手はワイバーン、基礎能力の高い竜種です。当然感覚の大部分を視覚に由来しているとはいえ、他の感覚器の能力が低いわけでもない。感覚器としてどうしても外部との接触能力の低い味覚、直接触れなければ作用しにくい触覚はともかく、そこにいれば発生する臭いを追う嗅覚、動きから発生する音を取得する聴覚は視覚ほどではなくともかなり優秀な働きをするでしょう。場合によっては触覚でそこに存在する何らかの動きを察知される可能性もありますね。そこまで気にするとあれですが、聴覚と嗅覚に関してはなかなか厳しいものがあることでしょう』

『そういうのは他の動物でもあるもんな。犬とか……五感に由来するかは知らないが蛇の熱感知とか』

『そうですね。熱量の違いによる探知、例えば物質の差異を把握できるならば物質の違いから存在を察知できるでしょうし、水分量、呼吸、視線などの感覚的なもの、生命という生きているだけで探知できる場合に、隠れている状態におけるスキルの影響を探知することで察知すると言う場合もあるでしょう。まあ、さすがにワイバーン相手にそこまで細かく何で存在を察知されてしまうか、ということを考える必要はないと思いますが』


 いくら能力が高くともワイバーンの持つ感知能力は通常の生物の基準に近い。

 あくまで感知できる最大の範囲が大きい、くらいなものである。それでも十分脅威であるが。


『そんな相手に感覚情報だけを遮断したところで完全に自身の情報を隠しきることは不可能。とはいえ、それらのスキルが全く意味の無いスキルになるとは言いません。基本的な相手に対しそれらのスキルは十分効果が発揮されますから。特定情報のみなので使用頻度さえ多ければレベルの上昇も速いとは思いますし』


 そもそもスキルと言うものは万能ではない。だが、万能ではないがその効果が低いわけでもない。

 もちろん最初のうちはあまり高い効果ではないが、<透明化>も<迷彩>も十分効果がある。

 そしてそういった基本の大部分の存在に有効な情報を遮断するスキルは有用的である。

 確かに匂いなどで発見される場合もあるが、そういった察知手段を持つ相手ばかりではない。

 もちろんそれらに頼らない魔物もいるし、そういった相手には通用しないわけだが。


『……で、何かいい案はあるのか?』

『そうですね。前にも言ったかどうかは私は覚えがありませんが、<隠蔽>のスキルに近しいスキル……<隠形>や<隠密>などの移動しながら自分の情報そのものを隠すスキル、というのが有用かもしれません。いえ、こういったスキルは効果範囲が大きく相手のレベル次第ではすぐに発見されるあまり強くないスキルなのですが。ですが基本的には有効だと思います』

『そうか……どうだろう?』

『どうだろう……とは?』

『ネーデが受け入れるかなって』

『……?』


 アノーゼは意味が分からない、という感じであるが、これの問題点は<隠蔽>と被ってしまう点。

 ネーデはアズラットに依存気味の信頼がある。そしてアズラットに<隠蔽>を使ってもらっている。

 だが仮にネーデがそれに近しい似たスキルを得たならばどうなるか?

 もう自分にスキルを使ってくれない、ということになるかもしれない。

 もちろんネーデ自身アズラットに負担をかけないでいられるなら、と思う所もあるだろう。

 その点においてどう転ぶかわからないものがある。まあ、結局覚えるか覚えないかのものだが。


『しかし……それはすぐに有効になるわけじゃないんだろ?』

『そうですね。いくらかスキルのレベルが高くないと……相手の知能が高ければ、感知能力が高ければ、能力が高い程こういったスキルによる隠形というものは効果が弱くなります。アズさんの<隠蔽>もそうですが、発見されると無効化されるうえにレベルが低ければ発見されやすく、相手の力が高ければ見つかりやすく相手との実力差が大きければ見つかりやすい、強い相手にはあまり効果を発揮しないと言うことが多い……』

『それ、有効なの?』

『自分で言っててなんですがあまり有効ではないかもしれませんね……』

『んー……やっぱり見た目だけをどうにかできるスキル、の方がいいか』

『どうでしょう。今回問題となることが一つ。彼女の頭の上にいるアズさんです。彼女がスキルを得ても彼女自身にしか作用しない。ですからアズさんにも作用するスキルの方がいいのですが……』

『<隠蔽>を俺だけにかけるのじゃダメか?』

『難しいですね。動かない、という点では適用されますが、動くものの上に乗っている場合どう作用するかは……』


 ネーデとアズラットが一緒に行く、となるとアズラットの存在が厄介な話になってくる。

 話に出ているスキルは自分にしか作用しない。アズラットの<隠蔽>とはまた違うのである。


『そうですね……一応彼女のスキルの効果は自分、その範疇は個人だけではなく別の部分にも作用はします。服とか、持ち物とか。そう考えるとアズさんを物として認識できる……服の中や鞄に入れれば問題はありません。ええ、問題はありません』

『なんか不満そうだな……そういう手か。それなら<迷彩>か<透明化>の方がいいか?』

『気になるのは音と臭いですね……そちらもカバーできるのが<隠形>や<隠密>ですからそちらをお勧めしているのですが』

『なるほど。実に面倒な話だな……』


 結局のところそれぞれのスキルにはいい点もあれば悪い点もある、ということである。

 確かに<隠形>や<隠密>は強い相手には効果を発揮しにくいが、代わりにカバー範囲が大きい。

 <透明化>や<迷彩>は自分に作用するものであり、どんな相手にも作用するが他の部分が弱い。


『そこは話し合いで決めてもいいかもしれません。どちらを選ぶのか、と』

『……こういう話はしてもわかるかな」

『わかると思いますよ。知識がないと言うだけで頭が悪いわけではなさそうです。少しアズさんに頼りまくりで期待しまくりで依存しまくりな気もしますけど。もう少し自分で考えてアズさんのためになる行動をしてほしいものです』

『……アノーゼ』

『あ、用事がありますのでこの辺で』


 そう言ってアノーゼはアナウンスを切る。少々言い過ぎであると咎められそうだったからだ。


(まったく……まあ、そこまで強く言う気はなかったが。どうせこの思考も読んでいるんだろうしここで言うが、あまり言ってやるな。助けた以上俺の方にも責任があるんだからな。まあ、言う通りちょっと頼られ過ぎている気もするけど)


 アノーゼの言う通り、もう少し頼らないで自分の考え行動してほしい所はアズラットにもある。

 とはいえ、むしろ現状を維持して甘んじているのはアズラットも一緒。

 ネーデのみをとやかく言えない。

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