109 亜竜との戦い後
「あ。えっと、アズラットー! どこー!?」
翼竜を退治し、ようやく戦いが終わり、ネーデは冷静に戻る。
流石に翼竜を相手している間はどうにも精神的に他の事を考えられない。
仮にも竜、翼を壊され飛行が難しい状態でも、亜竜であっても強力である。
そんな竜相手に他の事を考えたり油断したりはできるはずもない。
なので、戦いが終わりようやく意識が通常に戻り、いつもの感覚がないことを思い出す。
いつも頭の上に乗っているスライム、その存在。
『(ここだ)』
「あ。もうこっちに来てたんだ」
『(むしろ最初からそれなりに近くにはいたぞ? まあ、気づくほどの余裕はなかっただろうし、いざという時のために待機していたから気づかれることもなかったとは思うが……)』
「そうなんだ……」
『(ああ。それより……頑張ったな。飛べない状態とは言え、ワイバーン、翼竜を退治した。亜竜とは言え竜殺しだ。本当によくやったな)』
「あ…………う、うん! ありがとう!」
ネーデはアズラットに褒められてとても嬉しそうである。
彼女にとっては師匠であるアズラットに褒められることは値千金だ。依存気味なのが心配だが。
「ところで……この竜、どうしよう? 放っておく?」
『(いやいやいやいやいや!? 竜の体は利用価値があるからな!? 角とか、牙とか!? そもそも、今回はあっさりと倒せたけど、それは翼を俺が破壊したからだろ? ネーデが<投擲>で破壊できなかったのを俺が破壊したからだ。本来ならネーデだけでどうにかするべきだったと思うが)』
「う」
『(まあ、それができるかどうかは怪しかったから俺が動くことにしたんだが。まあ、俺もそれができるかもわからなかったが……まあ、それはいい。今までの普通の魔物や動物の爪や牙や角じゃ竜に通用しなかったかもしれない。だが、竜の体であれば話は違う。そのまま使って大丈夫か、使い方次第だろうが、竜の体の一部を使った武器なら翼を貫くことくらいならばできるかもしれない。そういうことで竜の体の一部を利用するんだ。骨も価値はあるかもしれないし。骨、角、牙、鱗も価値はあるだろうな。それに武器や防具に使わなくとも、そもそもネーデは冒険者だし、普通の竜程の価値は無くても亜竜の鱗とか角なら価値はあるだろう。その肉はおいしいと思うから幾ら確保して食べるのもありかもな。まあ調理できるかどうかが怪しいからあまり……ってところはあるか)』
「うううん!? ちょ、ちょっと、ちょっと待って! えっと……とりあえず、角とか牙とか鱗とか回収すればいいってこと?」
『(まあそうだな)』
竜の牙、竜の爪、竜の角。生物において番の取り合いなどで同種の生物は戦い合うことがある。
その戦いは当然相手を傷つけ、場合によっては殺すことがある。つまり、竜の攻撃は竜に通じる。
つまり竜の持つ武器、体の部分である牙爪角は竜に通じる可能性があると言うことだ。
もちろんそうとも限らないし、そこは竜の社会体制によるところもあるかもしれない。
通じるとしても、竜の持つ特性や力があってこそ力が発揮される可能性もある。
武器や防具に使うとしても、単に槍の先にする程度でどれほどの効果があるものか。
加工が必要であるかもしれない、固定もしっかりしたほうがいいだろう。
だが、少なくとも、素材自体の使い方に差がないのであれば、より良い素材を使う方がいい。
他の動物の骨や爪や牙や角を使うより、竜の骨や爪や牙や角を使う方が強い。そういうことだ。
『(それ以外は……俺が処理するってことでいいか?)』
「うん、いいよ。私だと放置するしかないし……どうせ他の魔物とか動物の餌になるんでしょ? ならアズラットにあげたほうがいいし……」
『(悪いな。ネーデが倒したのに)』
「気にしなくていいよ。私はアズラットがいるからここまで来れてるんだし」
ネーデにとってアズラットは神である……いや、師匠である。
本人的には神に近しい感覚かもしれない。いや、言い過ぎである。
まあ、そういう冗談はさておき。アズラットに指示されネーデは竜の素材を剥ぐ。
鱗、爪、牙、角……爪と角はない。
翼の飛膜とかも回収できるかもしれないが普通の素材は使えない。
あくまでネーデが使うのは対竜のためのもの。空を飛ぶ竜の翼の破壊が目的である。
それが目的なので基本的に武器、投擲用の武器に使える素材以外は要らない。
いや、その肉は食事用にとっておいた方がいいのでそれも少し回収するところだろうが。
「うーん……舌? 涎で汚いとかそういうのはないの?」
『(洗え……って言っても、あまり水場はないからやりにくいか。ならやめておくか。心臓、内臓系は微妙だが……心臓、ドラゴンハート、筋肉系? そもそも生物の肉のどれが上手いとか俺は詳しくないんだよなあ……)』
「とりあえず、適当に回収するけどそれでいい?」
『(そもそも今までネーデは生物のどこを食べてたとかそういうのはあるのか?)』
「適当に食べてたけど? 食べれそうなところ」
『(そんなものか……)』
アズラットはスライムであるため食事に関して気にする必要がない。今までも気にしていない。
なのでどこが食べられるのか、どこが美味しいかもわからない。
一応肉についての知識はあるが、本当の意味で何がいいのかどれがいいのかを知らない。
ネーデは基本的に食べられればそれでいいと言った感じであるため、あまり味は気にしない。
余程不味くなければそれでいい感じであり、多分ここなら大丈夫と思った部分を食べる。
幸いなことに迷宮における魔物は寄生虫やウイルス的な危険が少ないのでよかった。
まあ、生物によっては毒を持つし、食事自体を行わないわけでもなく排泄物もあるだろう。
それでも、基本的に迷宮内において食事の危険はとても少ない。
なので気にしなくてもいい。食べられるところを食べればいい。
ただし、味に関して気にするのであれば話は違ってくるだろう。
それに関してはネーデとアズラットだけではあまり気にしないと思われるが。
「っと。えっと、とりあえず……回収したよー」
『(じゃあ他の部分はこっちが貰うな。悪い)』
「いいよ、別に……」
竜の体を広がったアズラットが包んでいく。そうしてじわりじわりと喰い潰される。
生者であったころの翼竜と比べると消化は圧倒的に速いだろう。
まあ、そもそも生きている時には取り付いたが消化まではいっていなかった。
だがそれでも他の生物よりははるかに消化が遅く感じる。
基本的に弱い生物の方が消化が早く、強い生物は消化が遅い。
そういうスライムの感覚的には竜は強いと言うことになるのだろう。
(ふう……さて)
<ステータス>を用いてアズラットは自分のステータスを確認する。
『・種族:スライムキング Lv46
・名称:アズラット
・業
スキル神の寵愛(天使)
■■■
偽善の心得
契約・ネーデ
・スキル 10枠(残1)
<アナウンス> <念話>
<ステータス> <契約>
<圧縮lv68> <防御lv14>
<跳躍lv39> <穿孔lv13>
<隠蔽lv42> 』
(流石にそろそろレベルは上がりにくくなってるのかな。まあ、<圧縮>に関してはちょっと異常だが……常時使用している物だしこんなところか。っていうかよく<穿孔>が翼竜に通じたものだ。ネーデの今のレベルはわからないが、恐らく強さ的にレベル帯は四十付近なんじゃないか? スキルレベルもそれに近しい、合わせたレベルでないと通じない可能性だってあるだろうに……まあ、あの時は攻撃手段として<圧縮>の解放の併用もあったからな。何とも言えないか)
果たしてスキルのレベルや個人のレベルは何処まで意味のあるものか、とアズラットは思う。
一応進化に関わる物であるのでまるっきり意味がないと言うわけではないだろう。
(あとでネーデの分も確認するか。あの冒険者カードで確認できるのはスキルとレベルだけだが……まあ、成長しているようなら新たにスキルを覚えることも考慮だな。ワイバーン相手に勝てるとはいえ、十五階層を抜けるのは楽にはいかない。やはり対応できるスキルの入手を考慮するべきか……)
自分のステータスを見つつ、アズラットはネーデの今後の方針を考える。
先へと進むつもりならば、強さだけではどうしようもない点もある。それをどうするか。
そんなことを考えながら、アズラットは次の行動の指示をネーデに出す。
再度のワイバーン討伐。一度や二度ではない。ある程度強くなるまで、倒すべきなのである。




