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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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108 ワイバーンとの戦い(弱)

 ワイバーンはそれなりに巨体である。通常時は基本的に飛行している。

 何せ翼竜とも呼ばれる竜、その強さは飛行しているからこそ十全に発揮されるものである。

 だが、今そのワイバーンの一体は竜生迷宮の十四階層にて地上にその身を落としている。

 翼を冒険者と共にいたスライムによって穿たれ穴を開けられ、空に戻れない状態で。

 いや、空に戻ろうと思えば戻れるだろう。しかし、機敏で自由な動きは難しい。

 翼の痛みに耐え、十五階層へと戻るのであればそこまで難易度は高くないだろう。

 しかし、今目の前にいるのは自分を地上に落としたスライムの仲間。

 いや、スライムがワイバーンを地上に落としたかはワイバーン自身は理解していない。

 ただ、目の前の相手が何かをしたことで自分が地上に落ちたことは理解している。

 目の前の相手が全てを行ったわけではなく別の何者かがそれを行ったと言うことも。

 それを見つけ、己を傷つけた報復をするまでは戻るわけにはいかない。

 竜に最も求められるのは力であり実力である。弱者に舐められたままではいけないのだ。

 それゆえに、目の前の相手が自分と戦おうとしているのであれば、それを叩き潰すまで。

 たとえ飛行能力を失い地上で戦うことになるとしても。


「ガアアアアアアアアッ!!」

「っ!? とおっ!?」


 ワイバーンは自分に向かってくる人間の冒険者の少女に向けて咆哮する。

 いや、方向だけではない。口の中に一瞬明るい光が生まれ、咆哮に合わせ炎が吐き出される。

 ワイバーンも竜種。竜にはある特徴がある。それはすなわちブレスである。

 とはいっても、そのブレスの特徴は厳密な意味での竜と亜竜系統では少々違ってくるが。

 その細かい内実はともかく、ワイバーンもブレスを吐くことができる。

 ワイバーンの放つブレスは基本的に体内で生成した可燃性ガスを燃やしそれを吐き出すもの。

 竜のそれとは少々違ったものだが、はっきりとしてわかりやすいブレスである。

 日に吐き出せる回数の限度はあれども、十分な威力と速攻性がある。


「あ、危ない……」


 少女はそれを<危機感知>のスキルを用いて察知し、回避した。

 それ以前にブレスなどの危険性については竜という存在である以上あり得ることだった。

 ある程度ワイバーンの脅威については少女は師匠と話し合いをして注意していたのもある。

 だからこそ急に吐き出されたワイバーンの火炎も彼女は事前に存在を知り回避できた。

 もっとも、ワイバーンが火炎を吐けるかどうかは彼女とその師匠の知るところではない。

 まあ、注意さえしておけば火炎を吐かずとも、吐くとしても問題なかったわけである。

 実際吐いてきたのでその注意は十分と言えるものだったわけだ。


「っと、ゆっくりしている場合じゃない、ね!」


 少女は吐かれた火炎を回避し、少しびっくりして佇んでいた。

 だが、それでは意味がない。折角回避したのだからそのまま攻撃に移るべきであった。

 相手も回避されることを考慮していたはずはないだろう。そのまま攻撃するほうがよかった。

 しかし、それも今は遅い。攻撃を回避されたことを理解した竜は次の行動をとる。 

 少女の動きは相手のそれに合わせた動きとなった。


「うっ、ぐぅ……!」


 少女に向け、ワイバーンは体を捻りその尾を振るう。飛行している時によくわかるが尾は長い。

 その長い尾が少女に向けて振りぬかれる。仮に普通の竜であれば爪で攻撃していたかもしれない。

 しかし、ワイバーンは腕がない。腕の部分が翼である。だからこその翼竜である。

 現状、ワイバーンの持つ攻撃能力はその頭部による噛みつき、肉体の体当たり、後は尾だ。

 一応翼そのものを攻撃手段としても使えるが、飛行能力を考えるなら最終手段である。


「っと!」


 少女は尾を受け、それに少し押さえられたが、その尾を力づくで跳ねのける。

 彼女の持つ<身体強化>、およびそれに合わせレベルの成長もあり、それくらいはできるようになった。

 もとよりワイバーンはあまり尻尾を使った戦闘を行わないことも要因にある。

 空を飛ぶワイバーンの攻撃手段は尻尾や炎、体当たりだが、基本的に地上の獲物は弱者。

 一気に飛行して相手を追い、噛みつき殺し食らう。それが獲物を狩る態勢となっていた。

 基本的にワイバーンは地上に存在する相手と戦うことがないのである。

 彼らが行うのはせいぜい炎を吐くくらい。あまり長い間吐けるわけではないがそれだけで十分だ。

 それをするだけで多くの者は逃げまどい、また炎で焼かれ倒れることになる。

 尻尾を使うことはなく、十四階層ならば体当たりで森を破壊するだけで相手が巻き込まれ倒れる。

 それくらいのもの事だけで彼らはやってこれたゆえに、他の技術を磨くことはしてこなかった。

 その結果が地上での彼らの弱さである。いうなれば、戦い慣れていないと言うべきか。

 飛行している状態の強さに慣れ親しみ過ぎているのである。


「はっ! ……っ!?」


 少女は一気にワイバーンに近づき、その首元に剣を撃ちこんだ。しかし……それは通らなかった。

 その剣を入れた部分に確かに傷はついた。しかし、それくらいである。切断には至らない。

 斬撃でその表皮、鱗を切り裂くことはできるが、しかしその防御を抜ききれていない。

 仮にも相手は竜。ワイバーン、翼竜と呼ばれる亜竜であるが、それでも竜。

 その防御能力は竜の防御能力であり、鱗は竜の鱗。容易く抜けるほどやさしい物ではない。

 それでも、本物の竜よりははるかに防御能力は落ちている。故に傷つけることは出来ていた。


「ガアアアアアアアアッ!!」

「わっ!」


 竜が体を震わす。それにより少女が弾き飛ばされる。

 しかし、それ自体は大したダメージではない。

 少女は<防御>のスキルを持つ。多少の攻撃ならば、その<防御>の護りが防いでくれる。

 まあ、<防御>があるとはいえ積極的に攻撃を食らいたくはないだろう。

 特に炎は<防御>が防いでくれたところで一瞬で<防御>が尽きるのでできれば避けたい所。


「はあ……出来れば首とか落とせれば楽だったんだけど……うーん、でも体を狙っても意味はないよね? ってことは、鱗の無い部分、弱い部分を狙うしか……っと! 狙うなら、頭、頭部、目、口の中とか! 狙えたら楽でいいんだけど、ね!」


 竜の攻撃はぶるんぶるんと振るわれる尻尾、近くにいれば体当たりが。

 その首を伸ばし噛みつきもあるだろう。先ほど放った炎も、まだ吐くことができる。

 脅威はまったく衰えていない。とはいえ、何かあればそれは彼女にはすぐにわかる。

 彼女は<振動感知>と呼ばれるスキルを持つ。それを発揮して対応すれば、相手の動きが読める。

 まあ、完全には読めないが、それでもある程度は察知できる。ならば狙い撃つことも可能。


「…………」


 少女は竜に向けて投げるための槍、それを作るための材料を少し持っていた。

 爪、牙、骨、そういった物の一部。それを用いて目を狙う。貫かなくてもいい。

 多少当たる程度でも、目を狙った攻撃は相手の意識を大きく逸らすことができる。


「ガアアアアアアアッ!」

「はっ!」


 相手の動きに合わせ、少女は持っていた物を投げる。<振動感知>に合わせ<投擲>のスキルを使う。

 適確な狙い、相手の動きすらも読み切ったうえでの<投擲>。それは竜の目の微かに上に当たった。


「グオゥッ!?」


 痛みはさほどではない。しかし、目を狙う勢いのある攻撃は思わず竜に目を瞑らせる。

 その一瞬を狙い、ネーデは一気に竜に近づいた。


「たあああああああっ!!」


 竜の体の中でも弱い部分。その一つは目。しかし、今は目を閉じている。

 その状態でも貫通は出来るかもしれないが、それよりも狙う部分がある。

 それは口の中。口を開けていた竜の口の中は完全に無防備だ。剣が口の中、頭部へ向けて貫く。


「ッ!!!」

「ひゃっ!?」


 炎が口の中から吐かれ溢れた。少女はその余波を受け、剣を手放す。

 少女が落下し、竜がその場でのたうつ。流石に頭を貫かれて竜も余裕がない。

 いや……余裕以上に、命が消えゆくことだろう。流石に頭部を貫かれ生きられるわけもない。


「っと……あ、剣……うう」


 流石にまだ剣を回収するのは難しい。ネーデは少しワイバーンから離れ動きを見守る。

 その命が消えた所で、ネーデは剣を回収した。炎によって幾らか焦げている。


「大丈夫かなあ……」


 まだ使えるが絶対に大丈夫だと言う安全性はない。

 しかし、とりあえず彼女はワイバーンを倒せた。

 亜竜とはいえ、初めての竜殺し。

 彼女……ネーデは、少しだけ、それに興奮を持っていた。

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