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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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104 ワイバーンとの戦い

 ワイバーンが飛翔する。十五階から十四階に繋がる大穴を通り、その出口の壁面から。

 飛翔するワイバーンは結構な速度で飛んでいる。

 しかしその速度ながら周りの様子が見えている。

 彼等は亜とはいえ竜、その身体能力は高く反射能力感知能力神経系統も高機能である。

 その速度での移動を行いながら、森を見下ろしそこにいる獲物を探していた。

 十四階に彼らが訪れる理由は基本的に餌を探して。できれば獲物は大きいものがいい。

 小さいものは時折見かけるが、大きいものは中々その危機を理解してか隠れるのが上手い。

 しかしそんな獲物もずっと隠れていられるわけではない。逃げ切れるわけでもない。

 少し探せばすぐに見つかる。小さな獲物を襲う必要性はない。

 だが、その日、そのワイバーンは自分に向けて飛来する何かに気づく。

 風の音、風の動き、ワイバーンは特殊な感知能力を持たないが、高い能力でそれに気づく。

 当然ワイバーンはそれを回避する。

 当たったところで害はないだろう。しかし当たる意味もない。

 ゆえに避ける。一体何だったのか。飛翔するワイバーンはそんな事を思う。

 そう思っていると、また飛んでくる。一つ、二つ。先ほどよりも数を増やして。

 そのうちの一つは避けられずに当たった。しかし……害はなかった。

 害がない、とはいえそれはいったい何なのか、どこから飛んできたのか。

 そしていったい何者がそれを飛ばしてきたのか。

 ワイバーンは大きく身を翻し、その場で留まる。

 その目は森を見下ろし、そこにいる者を見つける。

 己の体に向けて投じられた刺の投擲者。

 小さな少女。人間の少女。竜に比べ、愚かでひ弱な矮小なる生き物。

 自身に敵対する、圧倒的な弱者に向け、竜は咆哮する。

 怒り。自身よりも弱い生き物が自分に対し敵対し、傷つけようとするなどどれほど愚かなことか。

 その行いにワイバーンは怒りを抱き、そしてそれを行った存在を殺そうとする。

 ワイバーンは少女に向けて飛翔した。






「き、来たっ!?」

『(逃げるぞっ!)』


 投擲した木の枝から作り出した槍がワイバーンに当たったが、全く通用していなかった。

 そして、その投擲によりワイバーンがネーデの存在に気づき、こちらに向けて飛んできた。


「槍、効かなかった!」

『(多分だが、あれ飛膜も相当防御力高いんだろうな! 木の枝を加工した槍じゃだめだったってことか!)』

「そうなの!?」

『(木の枝は結局木の枝だからな! 鋭さよりも質量、重量で勝負したほうがよかったか?)』

「今、そんなこと言っても!」

『(わかってる、あれから逃げないといけないからな!)』


 投擲した木の枝から作り出した槍が効かなかった理由はさておくとして。

 現在ネーデはワイバーンに追われながら逃げている。当然ながら命の危機だ。

 彼女も逃走のためにかなり必死で走っている。


『(森の中に逃げる!)』

「わかった!」


 ワイバーンは飛翔している。その体は森の上。視力が高くとも見えなければ問題ない。

 ゆえに彼女は森に入る。森に入り、軌道を変える。そのまま真っ直ぐは進まない。

 しかし……それでもワイバーンは変わらず彼女を追ってきた。


「ついてくるんだけど!?」

『(視力以外でも追跡できるってことかな……やっかいな!)』


 生物の追跡能力というものは様々だ。蛇などは熱で、犬などは臭いで、蝙蝠などは超音波で。

 それぞれ様々な感知能力を有する。ワイバーンもそういった能力があるのかもしれない。


「で、でも、森の中なら襲ってはこれないよね……」


 森の中に居られては攻撃できない。ワイバーンも手を出せなければ攻撃はしてこないだろう。

 ネーデはそう考え、その歩を緩める。<危機感知>が発動する。


「え」

『(っ!)』


 アズラットが圧縮を解除する。その瞬間、薙ぎ倒された木々がネーデとアズラットを襲う。

 ワイバーンが森に向けてその体を用いて体当たりを敢行したのである。

 ネーデの動きが緩んだのを感じたためだろう。そして、ネーデはそのまま動きを停止。

 上にアズラットがいると言うのもあるが、木々の下敷きで行動できないのも理由である。

 そうして竜は動かなくなったネーデを無視し、獲物を探しに行った。

 死んだかどうかまではわからないが、気は済んだのかもしれない。


(……行ったか)『(大丈夫か、ネーデ?)』

「い、一応……でも、アズラット? 上に、く、首が……」

『(少しの間待ってろ。っていうか、こっちも……できれば早めにこの上に乗っている木の処理はしたいんだが。ちょっと小さくなるから、倒れ来る危険には対処しろよ? 剣とか、上手く使え。周りの倒れてきた木もうまく使うんだぞ?)』

「う、うん……」


 アズラットは元の大きさに戻りつつ、幾らか木をずらす。

 その間にネーデ剣やずれて倒れた木々を使いつつ、上にある方の木を逸らしていく。


「っと……」

『(なんとか木の群れを抜けたか……っと、その前に。すぐにどこかに隠れておくぞ。あれに見つかるとまた襲ってくるかもしれない)』

「っ……わかった」


 流石にまたワイバーンに襲われるかもしれない、となるとネーデも少し体を震わせる。

 押し潰すような木の群れに対する恐怖がまだ残っているからだ。

 一応ワイバーンと戦うと言うことに対して恐怖があるわけではないが死の危険があった。

 少し落ち着くのには時間を有するだろう。


『(あとは隠蔽もかけておく。大丈夫なら言え)』

「うん……ごめんね」

『(気にするな。今回のことはこちらの意見の問題もあったわけだし。少し見通しが甘かったか……)』


 初めてのワイバーンとの戦いは勝てなかった。負けた。そもそも勝負にはなっていない。

 ネーデがしたことと言えば、遠くから木の枝で作った槍を投擲したのみ。

 まともに戦ったわけではないのである。そういう意味では今回は勝利でも敗北でもない。

 とはいえ、戦う前から逃げ、そのうえで追いつかれ容赦なく死にかけるような攻撃を受けた。

 そう考えると現状では実質的な敗北と言えるだろう。仮に戦ってみたならばまだわからないが。






「ふう……この辺りなら、大丈夫?」

『(多分な。もう恐らくこの階層からはいなくなってるだろうし、恐らくはまた襲ってくることもないとは思うが……まあ、念のためだな)』


 十三階層との境界付近、階段の近くまで戻って来たネーデとアズラット。

 なぜそこまで戻ったのかというと、ワイバーンにまた出会い襲われる危険を考えてである。

 流石にワイバーンも十三階層までは追ってこないだろう。そういう考えあってのものである。

 まあ、あのワイバーンは一度ネーデを倒したことで満足している。

 殺せているかどうかは関係ない。容赦ない一撃で動かなくなった、それだけでいい。

 あちらは既にネーデのことは忘れているので一応身の安全は確かである。

 もっともあのワイバーンの気持ちをネーデとアズラットが知ることができるはずもない。

 なのでここまで逃げてきた。そして反省会である。


『(さて……対ワイバーンに関してだが)』

「……ごめんなさい」

『(別にネーデは悪くない。あの攻撃で分かったが、翼の部分も十分以上に強固だってことみたいだな。飛膜の類なら通常よりも防御力が低いものかと思ったんだが……頑丈か、それとも弾性か何かか、攻撃を逸らしやすい性質でもあるのか。木の枝じゃなくて尖った石とかなら話は違うかもしれないが……まあ、木の枝じゃダメだったってことが分かったわけだ。それ自体はネーデに責任はないからな)』


 ワイバーン。亜竜とも呼ばれる本来の竜よりも弱い竜の魔物。

 とはいえ竜は竜。その強さは確かな物であり弱い翼の部分でも木の枝で貫かれるほどではない。


「……どうするの?」

『(次は石や岩を持ってくるのがいいと思うが……ないんだよなあ、そういものが。加工して、とまではいかなくとも石や岩があれば使えるが、ここは森だし十三階層は沼だし……)』

「壁はだめなの?」

『(削れるならやってみてほしい所だな……試すだけ試してもいいか)』


 とりあえずやれることから。そういう方針で彼らは動き出す。

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