103 飛ぶ鳥を落とす方法
『それで、飛行している魔物を落とすためのスキルだけど……』
『まあ、わかりやすい例でいえば<重力>や<引力>になりますね。あとは<風魔法>とか? それこそ世界の法則を書き換えるほどのルール変換のようなスキルでもあれば、飛行を禁止する……<禁制>? そんなスキルあったかどうかはちょっと覚えてないです。仮にあっても、アズさんでは絶対に覚えられませんね。世界法則に関与するような事項になってくるとそれこそ神格級でないと覚えるのは不可能でしょう』
『なんというか、さっき話していた奴ばかりだなあ……』
<風魔法>、<重力>、<引力>などは先ほど空を飛ぶ内容で話していたことに関わるものだ。
極端なことを言えば、飛行できると言うことは飛行をやらないようにできるということ。
飛べる生き物はずっと飛んでいるのではなく、必要に応じて空から降りているのだから。
まあ、ずっと飛行し続ける生物……ゴースト系や特殊な生物系の例外もあるが。
『逆転の発想もありかも? 例えば<土魔法>で足場を上げるとか。相手の土俵に上がると言う点においてはそれも悪くはないのでは?』
『無茶をいうなよ……』
『いえ、例えば足場を作り駆けあがる、階段を作るとか。まあ……<空間魔法>とかそういうスキルになるような気もしますが』
『それ覚えられるの?』
『無理ですね』
ばっさりとアノーゼはアズラットの言葉を切り捨てる。
『じゃあダメだろ……』
『難しい話です。ですが……そこまで飛行を阻止するスキルを気にしすぎても仕方ないと思いますよ?』
『そういうものか?』
『はい。そもそも、竜種の飛行手段がどうなっているのかは謎でしょう? そもそもスキルでの飛行は通常の飛行手段とはまた違うものです。まあ、通常の飛行手段を行っている魔物もいますけど、スキルの性質によっても違います。そのあたりは種族によって差異が出ると言うか……まあ、あまり色々と触れると複雑で面倒な話になるのでともかく、基本的に竜はその翼がある限り飛行できると言う性質があります。つまり……』
『翼をどうにかしろと』
『はい。スキルでどうのこうの、というよりは現実的だと思いますが』
そもそもスキルで飛行を阻止する、禁止すると言うのが現実的な対処手段ではない。
結局のところスキルで影響を与えられる物には限度がある。
『まあ、そうかもしれないが……』
『別に翼を斬りおとせ、というわけではないですからね? それなりに斬り傷を与えるなり、穴を開けるなりすれば恐らくは空を飛べなくなります。まあ、一方だけではある程度ですけど。両方の翼を幾らか破壊すればどうにか……』
『それができるなら苦労しない』
アノーゼの言うことは確かに間違っていないのかもしれない。
相手の飛行するための器官、道具を破壊すれば飛行できなくなるのは道理だろう。
しかし、それが簡単にできるのならば苦労しないと言う話だ。
それが簡単にできそうでないからこそ、スキルによる飛行阻止を考えていたのである。
『まあ、そうですけど……ですが、飛行を禁じることのできるスキルを覚えられるか、すぐに有効化するかと言われると……』
『それはそれで現実的ではない、ってことか』
『そうですね。そもそもスキルは最初は弱いけれど、レベルを上げれば弱いスキルでも強くなる。そういうものですし』
結局のところ、ピンポイントで対応できるスキルというものは多くない。
なくはないが、しかし飛行を阻止できるスキルというのはかなり難しいものだろう。
『まあ……そもそも、アズさんでは覚えられるかどうかが問題になります。彼女ならば幾らでも覚えられるかもしれませんが』
『…………』
『気は進まないと。いえ、アズさんの言い分もわかりますけどね?』
アズラットもそうだがネーデもスキルはあと一つ覚えられる、という状態である。
そういう空き枠は出来る限り残しておきたい。いざという時のために。
『でも、彼女は人間です。レベルさえ上がれば覚えられるスキルは多いんですよ? アズさんと同じレベル……そうですね、アズさんのレベルが五十になった場合、十一枠。そもそもこれは私の寵愛の影響もあっての十一枠。本来は六枠です。それに対し、彼女は十三枠。今二人とも九枠を消費していますが、同レベルであれば二枠も差ができるわけです。それくらい彼女の覚えるスキルに回してもいいのでは?』
『むう……』
魔物でスライムであるアズラットと、人間であるネーデでは覚えられるスキルの数が違う。
その分生まれ持った性質から持ち得るスキル、アズラットの場合は振動感知能力があったりするが。
そういったものがあるが、結局状況に対して覚えられるスキルは人間の方が圧倒的だ。
それに覚えられるスキル、という点においても人間の覚えられるスキルは多岐にわたる。
アズラットは覚えられなくともネーデは覚えられるスキルは多い。
「アズラット! 出たよ!」
『む……』
『ではそろそろ。色々と考えるのも構いませんが、彼女と実際にいろいろと試すのも必要でしょう』
『そうだな……』『(了解。とりあえず……撃ち落とせるかどうか。地上からの攻撃を試してみるか)』
「…………うん!」
アズラットの返事が遅いことからネーデはまた考え事か、と思っている。
いや、その考え事に関してもネーデは疑問が多いわけである。
考え事、というには少々アズラットのそれは奇妙に思える。
とはいえ、<アナウンス>により神と会話している、などという発想は流石に無理だ。
なので疑問に思っても基本的にはまた考え事をしているのだろう、という思考にしかならない。
「でも、何を投げるの?」
『(……周りにある木々の枝を切って、槍のようにして投げる。できれば翼を狙うのがいいだろう。正直<跳躍>などで近づいて倒せればいいんだが……ちょっと危なすぎる。相手は自由に空を飛べるから旋回して回避もできるし、空中に跳んだネーデを迎撃もできる。まあ、その前に気づかれていなければ何とでもなる……攻撃前に<隠蔽>を合わせるのもありか?)』
「……えっと、木の枝を斬りおとして、それを加工して槍のようにすればいいんだよね?」
『(とりあえずはまあそれで。本当は岩とかの方がいいかもしれないが、ここにはないからな)』
「わかった。でも、速い……」
『(飛行速度が速いし、そもそも大きいからちょっと進むだけで一気に通り過ぎるなあ……まあ発見はしやすいし、狙いもつけやすいと考えればそれもそれで利点か。いや、飛行速度が速いと狙いをつけて攻撃を与えるのが難しい。その点がネックと言えるか……)』
森の中を駆けながら、<跳躍>を用いて高い所にある枝のところまでに跳び、斬りおとす。
そして斬りおとした枝を回収し、それを槍のように加工しながら空を飛び移動する翼竜に近づく。
よくよく考えなくともその一連の動作を一気に進めるのは難しい。
「ううん……これ、槍に加工するの、できるの?」
『(あー……別に本当に槍のようにしなくてもいい。先の方を鋭くして、ある程度真っ直ぐな棒状なら)』
「でも木の枝って、あんまりまっすぐじゃないような……」
『(できる限りまっすぐな奴を探すしかないなあ……)』
「その間にワイバーンが逃げていくんだけど……」
『(見つけてから準備をしても仕方がないってことだな。先に準備をしておくべきだった)』
「……ごめん」
『(責めてるわけじゃない。そもそも何がいるか、どうするかの方針すら決まってなかったんだ。なら今は何をするか決めて準備をする。次、追いつけたらかまた見つけたらその時こそ撃ち落とすのを試してみる……あと、逃げることも考慮するぞ? 攻撃が効かなかったり、回避されると本当に危ないからな)』
「うん……」
最初からあらゆることができるわけではなく、なんでもできるわけではない。
何をするか、どうしようと思ったか、実際に行動しようとして初めて分かることもある。
まあ、何事も挑戦と失敗の経験からだ。




