06
実験室(ヴァージル命名)に着いた。
ヴァージルは恐る恐る扉を開ける。
もしまだ暗かったらどうしようと思ったのだ。
困ったときの夜目があるから一応の安心はあった。
しかし薄暗いなか目を凝らして物を探すのは非常に難しく、非常に疲れる。
ヴァージルはドキドキしながら実験室に入った。
予測とは裏腹に、実験室は明るく照らされていた。
面食らったように唖然とするヴァージル。
しばし、何もせず佇む。
「まぶし……」
しばらくして明るさの呪縛から解き放たれた彼は、実験室に来た目的を果たそうとした。
目的は、ある色をした液体だ。
色は緑、液体は何が入っていても可。
そんな条件に当てはまるものは、あった。
偶然というか奇跡というか、そう探しもしないうちに棚の中にあるのを見つけたのだ。
「これで帰れるな」
ヴァージルはウキウキしていた。
そっと実験室から出る。ヴァージルが扉を閉めた向こう側で、実験室の灯りがすっと消えた。
そうとは知らないヴァージルは、緑色の液体が入ったフラスコを片手に玄関まで舞い戻る。
そして外の景色が見えるよう、少しだけ扉を開ける。雨は小降りになっていた。
「これぐらいなら。あまり使わずに済みそうだ」
ヴァージルはフラスコを傾け、中の液体を左手の上に出す。
痛みも刺激臭もない。一応、安全な液体だったようだ。
わずかに安心して、それから意を決して魔法の言葉を唱える。
「シウボルテルテ、レアーナニキンテタシーア! 雨よ、散れ!」
ざあ。雨音がしなくなった。
ざあ。外が明るくなってきた気配がする。
ざあ。お日様の光が入ってきた!
「あぶねっ」
反射的に逃げるヴァージル。
彼はもう大人だから、陽の光に怯えなくてもいいのだが、ついこの間まで苦手だったものを急に好きになれというのは難しい。
ヴァージルも逃げた後で急に恥ずかしくなって頭をかく。
もう平気だというのに。恥ずかしい。
一歩、玄関の外に出て、引き返す。
忘れてた、忘れてたと口ずさみながら向かったのは、物置。
シャドウウルフがいた場所だ。
「いるかな?」
「クゥーン」
「うお、すごい近くにいた」
シャドウウルフはすり寄ってくるのを感じる。
よしよし、もう大丈夫だぞ、と語り掛けて、ヴァージルはシャドウウルフを伴って玄関までやってきた。
玄関の飾り棚にマスターキーの塊とフラスコを置いて、一人と一匹は謎の洋館から脱出した。