04
新しく渡されたカギが合ったのは、銀色のプレートが付けられた部屋であった。
「やっぱり見たことない言語だ」
プレートに書かれた文字を睨み付けてヴァージルは思う。
最近多くなってきた異世界からの旅行者だろうか、と。
エルフの森の番人である親友は、ここのところよく愚痴を言うのだ。
けしからん目的でエルフの森に入ろうとしている人間が多い。
そのほとんどがテンセイシャやショウカンシャだと。
だが、彼らと書斎の中の人ではノリが少し違う気がした。
だいたい、親友の言う不届きものとは言葉が通じるのに、ここの主人ときたらそれがまったくない。
そんなことを考えながら扉を開けて、ヴァージルは深く後悔した。
「げっ」
むせかえるような血の匂い。それもたった今出来上がったかのような新鮮な。
吸血行為をしないヴァージルにとって、ここは地獄とまでは言わないものの、あまり良い環境とは言えなかった。
「もー、ここも掃除してないの?」
突っ込むべきところはそこじゃない。
ヴァージルが手をかざすと、普通の血液も球体になった。床は綺麗になる。
ヴァージルはまたもやぶつくさ言いながら、床や壁に飛び散った血を綺麗にしていく。
別にやる必要がないと言ったらそうなのだが、彼は意外と拘るタイプなのだ。
「見せびらかしたいのは分かるけど、ちょっと自己顕示欲高すぎるぞ」
温厚そうな中の人の性格を勝手に決めつけて、掃除を進める。
壁や床、金属の机、ホワイトボード。
こびりついた液体をさっきの小瓶に入れていく。
やがて小瓶から溢れそうになったころ、掃除は終わり、真新しい実験室の中で、青い煌めきを見つけたのだった。
「あった。これで最後かな」
欠片に手を伸ばすヴァージル。それと同時に灯りが一斉に落ちた。
「えっ停電!? こんなときに?」
こういうときは慌てないヴァージルである。
真っ暗で何も見えないはずだが、ヴァージルはいとも易く扉までたどり着き、何事もなく外に出た。
ヴァンパイアは夜の王とも呼ばれる種族である。
月明かりなしでも夜の散歩を楽しんだり空を飛んだりする。
よく効く夜目がヴァージルの命を救った。
「なんで途中で真っ暗になったんだか」
訳が分からないと、首を振るヴァージル。
ただのホラー要素だと気付く日は永遠に来ない。