表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

03


 次にヴァージルがたどり着いたのは、たぶん、物置だった。ここも妙に薄暗く、不気味な雰囲気が漂っている。

 だが、ヴァンパイアである彼にとって、暗闇はむしろ安心する場所。

 どこか心地よさすら感じながら探索を進める。

 無造作に置かれたタルや積み上げられた本を避けて、奥へ。

 奥には年期の入った机がこれまた無造作に放置されていた。


「もっと掃除しなさいよ」


 ぶつくさ言うヴァージル。

 まあ、言うほど彼の自宅もきれいではないのだが。


「ん、なんか青いものがある」


 机の溝に、きらきら光るものを見つける。

 何気なく手をかざし、それを裏返すと、彼の手の上には青い球体があった。

 サイズは直径一センチにも満たない小さな珠。


「これは……まさか」


 ヴァンパイアだけが持つ固有能力、『結晶化』が発動したのだ。

 血液を始めとする、液体状のものを、固形にしたり再び流動体に戻したりできる能力だ。

 すなわち、この青い珠はなんらかの液体であったということ。


「血液、じゃないよな。血は青くないし」


 手の上で転がる、小さな珠。

 確か、さっきの部屋にいた中の人も、同じような色をした欠片に悪戦苦闘していた。

 これを探し出して欲しかったのかな、ヴァージルはそう思う。

 もうこれ以上ここですることはない。

 ヴァージルは身を翻した。

 そのときだ。


「ひゃー!」


 何か黒いものがヴァージルに向かって突進してきたのだ。

 ビビりなヴァンパイアは、コウモリになってタルを回避する。

 コウモリの大きさは、羽根を広げても約40センチぐらい。

 高く積まれた本の上もすいすい移動できる。

 小さくなった右手に青い珠を握り締め、目の前に迫る扉を左手で開けようとする。

 が、開かない。

 テンパっている上に、利き手でない方で開けようとしているからだろう。

 急いでガチャガチャ鳴らした。しかしというか、やはりというか、追い詰められたコウモリに、なす術はなかった。

 激突の痛みをこらえようと、体を小さく丸めるヴァージル。しかし、いつまでたっても衝撃は来ない。

 恐る恐る目を開けたヴァージルに届いたのは、ワンワンという鳴き声だった。


「ワンワン?」

「ワンワン」

「犬?」

「クーン」

「あ、これシャドウウルフか。ビックリした」


 ヴァージルは人間形態に戻って、片手を黒い塊にかざした。すると、真っ黒の犬が親しげに頭を擦り付けて来るではないか。

 シャドウの名を冠するだけあって、手とふさふさの毛は決して触れ合えないが、なんとなく撫でる仕草をするだけで、犬はたいそう喜んだ。


「これ、おれにくれるの?」


 シャドウウルフは口元に小さな瓶を持っていた。

 それは、ヴァージルがよく携帯用血液を入れるものによく似ていて。

 ヴァージルはその瓶に青い珠を入れることにした。


「ありがとな」

「クーン」


 シャドウウルフと別れて中の人に会いに行く。

 中の人は、相変わらず本棚のひしめく暗い部屋で、大中小さまざまな青い欠片と奮闘していた。


「あのさ」

「※△●」

「あ、これ、物置で拾ってきたヤツ。いるよな?」

「……!」


 目の前で結晶化が行われていくのを見て、中の人は、大きく驚愕する。

 椅子を蹴飛ばして立ち上がり、ヴァージルにもう1つカギを渡した。


「ここにも欠片が?」

「●□※▼◎◇★」

「うーん、やっぱり分からん」


 意図が読めない以上、ここにいても仕方なかった。

 ヴァージルは新しいカギを手の中で転がしながら、それなりの大きさになった青い珠を男に渡す。

 中の人が喜んでいることだけはなんとなく分かった。

 大事そうに青い珠を抱える中の人を横目で見つつ、ヴァージルは書斎をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ