02
「どこもかしこもカギがかかってんな」
ヴァージルは自宅を思い出しながら廊下を歩く。
地下室には流石にカギをかけてあるが、その他の部屋にはカギすら付いていない。これも理解のない親友が、カギの存在を無視して扉を破壊してくるせいである。
「破壊……そういえば、カギが見つからなきゃこじ開けるって手もあったか。いや、それは最終手段だな」
思い付いて台所に戻りかけるが、なんとかとどまる。
平穏を常から望むヴァージルにとって、穏便でない方法は最後に取っておきたかったのだ。
ヴァージルは身を翻し、どこか開いてるところがないか探す旅に戻った。
「あ、開いた。――ッ!?」
驚くヴァージル。
廊下に転げるようにして出てくる。
ねんがんの なかのひと はっけん であった。
ヴァンパイアは臆病な種族である。
そうでなければ、夜、人目のない時間帯に散歩なんてするだろうか。
夜中に同族に会うと、驚きのあまり、挨拶もできない。固まった笑顔のまま、互いが通りすぎるのを待つ。行ったのを確認して、ようやく息を吐くぐらいだ。
例によって、このヴァンパイアもビビりなのだ。
だから――、人が急に現れたことによって逃げ出していた。
「…………」
廊下で息を整えるヴァージル。顔は驚愕のあまり固まっている。
「ひ、ひとがいた……」
至極当然のことを、泣きそうな声で言った。
しばらくして、気を取り直したヴァージルが、ノックをする。
数秒経って、老成した声が返ってきた。
神妙な顔で部屋に入る。
この屋敷の主人だろうか、声と同じくらい老成した男性が、椅子に座っていた。
「あの〜」
「×□○※……」
「ダメだ、言葉が通じないみたいだ」
翻訳魔法とか言う器用な魔法は一つも覚えていないから、ヴァージルは身振り手振りで説明する。
すると、分かったのかそうでないのか、何か煌めくものを放って寄越した。
カギだった。
「……ありがとう」
「…………」
相手も身振りだけで答える。もう行っていい。そんな感じだろうか。疲れた様子で右手を振っている。
ヴァージルも逆らわなかった。素直に廊下へ出ていき、決心を固める。
「とりあえず、これで開くところに行くか」