エドウィンの独白5(終)
それから10日ぐらい経っただろうか。
いつものように書斎にいたわたしは、派手なノックの音を聞いた。
あの青年はこんな風にはノックをしなかったから、別の人だろう。
そう思ってドアを開けると、そこには今まさに斧を振りかざそうとしている青年と、それを止めようとするあの青年がいた。
赤い眼に、少し伸ばした黒い髪。間違いない。あの青年だ。もう一人の青年も赤い眼をしていた。頭髪は……珍しい、緑色だ。染めているのだろうか。
扉が開いたのを確認して、緑髪の青年が粉をかけてきた。
白い粉だ。向こうの青年が緑髪の青年の胸ぐらをつかむのが見える。
緑髪の青年が何かを叫んだ。相変わらず言葉は分からない。
すると、体力回復の錬金術を使ったときのような音がして、わたしの身体はかつてないほどの元気のよさに包まれていた。
白い粉が消えていく。何かの媒体だったのだろう。
研究したい気持ちを抑えて、賢者の石を使う。
”彼らと意思疎通したい”
”翻訳を開始します”
「――え、急にラスエリかけるなよ!」
「ラスエリじゃ駄目かあ……言葉通じてないね」
「話聞けよ!」
「万能の白い粉ならワンチャンあるだろうと思ったのに」
彼らもどうにかしてわたしと意思疎通を図ろうとしていたことを嬉しく思った。
ラスエリというのがこの白い粉の正体らしい。聞いたこともないが、とりあえず回復効果があるようだ。
「おまえな……!」
「青年よ、礼を言いたい」
「!」
「あれ、言葉通じてる?」
「賢者の石を使ってこちらとそちらの言葉を翻訳しているのだ」
「もしかして、その蒼い珠?」
「そうだ、この珠を元通りにしてくれたのがそこの青年なのだ。礼を言わせてほしい」
「礼だなんて、ジルの話じゃあんたがカギをくれたから出れたらしいし。なあ?」
あの青年が緑髪の青年を下ろす。
そしてわたしの前にやってきて、人好きのする笑顔でこう言った。
「あんたのおかげで助かった。ヴァンパイアのヴァージルだ」
「そして俺はこいつの親友、ハーフエルフのアイザックさ」
このときわたしは初めて知った。この世界には人間以外の種族がいるのだと。
それから、彼の願いも分かった。ヴァンパイアと人間が分かりあえること。
ヴァンパイアがどんな種族かは分からないが、人間と友好的な種族ではないのだ。
それと同時に勘違いをしていた自分を恥じた。
なにが大それた願いか。彼は素敵なヴァンパイアじゃないか。




