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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第三章 小型都市テトムブルクの狂気
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第八話 熱球の魔術師②

「『笛吹き悪魔』の、狂戦士共め……。だが我が部下と同胞らが、貴様らの非道を見過ごしはせぬぞ……」


 男が、唇を噛みながらランベールを睨む。


「だから俺は、奴らの仲間ではないと言っておるであろ……む?」


 ランベールは、大剣を構えながら背後へ振り返る。


 ランベールの背へと向けて、赤紫に輝く、紫電を纏う光の球が迫ってきていた。

 跳んで退避する。雷球の炸裂した地面が、紫電を発して爆ぜる。


「ふむ、よくぞ避けたの。潰し合い、残った方を即座に殺す算段だったのだが」


 現われたのは、白く厚い手袋を付けた、礼服姿の、大柄な老人であった。

 手には特徴的な、黄金に輝く杖が握られている。

 

 背後には、ローブを纏い、仮面を付けた剣士が四人並んでいた。

 剣士達の仮面はそれぞれ白い簡素な面に、黒い目と口が足され、喜、怒、哀、楽をそれぞれ表現している。


「ここ数日、この街にうろつく妙な連中がいると聞いて探っておったのだが、貴殿らで間違いはなさそうであるな。我は『笛吹き悪魔』、ジルドーム。鎧の剣士よ、貴殿には死んでもらうぞ」


 四人の剣士が、ジルドームの言葉に呼応する様に、剣を抜きながら、四人別々の独特な構えを取る。


 ランベールはこの都市に来てからまだ初日である。

 恐らく、魔銀ミスリルの剣士のことだろうと、ランベールは彼へとちらりと視線を傾け、またジルドームへと視線を戻した。


「長く、暗躍していた組織だと聞くが、随分とあっさりと名乗るのだな」


「問題あるまい。我が『笛吹き悪魔』を名乗った相手は、必ず殺してきたのでな」


 老人が、握る黄金の杖をランベールへ向ける。


「熱よ、我が手に宿れ!」


 老人が杖を握るのとは逆の手に、小さな火の球を浮かべる。

 火の球から発された紫電が二つの球となり、膨れ上がる。


 ジルドームの魔術は、熱により電離気体を生成し、制御して操る。

 老練なジルドームだからこそ可能な、超緻密な高位魔術であった。


「あ、あの熱球に、ジルドームだと!? まさか本物のジルドーム・ジレイナスなのか!」


 ランベールに大敗北を期した、レイピアの剣士が叫ぶ。


「知っているのか?」


 ランベールが兜を向けて尋ねる。


 男はランベールの問いに、口許を曲げる。

 手痛く負けた先程の戦いが蘇ったのだが、『笛吹き悪魔』が襲撃を仕掛けて来た以上、ランベールが最初から言っていた様に、敵ではなかったことが裏付けられた。

 これ以上、対立する理由はない。


「……知っているも何も、ジルドームは、行方不明になっていた、国内最高級の錬金術師だ。使える者の少なさから、実質的に遺失魔術と化した熱電離魔術の、レギオス王国たった三人の使い手の一人だ。むしろ、なぜ貴様は知らぬ?」


 ジルドーム・ジレイナス。

 元々彼は名高い錬金術師であったが、従来の方法では、魔術の果てにある真理の究明に至れないと悟り、手段を選ばず魔術の奥底へ迫る八賢者の一人『真理の紡ぎ手』と称される錬金術師に魅せられて『笛吹き悪魔』に入ったのだ。


「たったの、三人だと? テスラゴズも浮かばれぬな」


 テスラゴズは、八国統一戦争時代に存在した、レギオス王国と最後まで戦ったマキュラス王国の錬金術師である。

 生涯を掛けて熱電離魔術の理論と魔術式を造り出し、実戦闘で用いられるまでに高めたばかりか、身に着けるための素養の見出し方と、細かい習得方法まで体系化した男である。

 マキュラス王国の魔術師は十人に一人が謎の魔術を操ると恐れられ、他国へと熱電離魔術の存在によって大きくリードした。


「相手が悪いぞ、鎧男よ。後衛としては無敵の性能を誇る熱電離魔術の使い手が、前衛を四人も連れてやってくるとはな。子供を連れて、逃げろ。一分……いや、三分は稼いでやる」


 男が立ち上がり、レイピアを構える自身の左腕を摩る。


「いや……」


 ランベールが何かを言い返すより先に、男は指先をランベールへと向け、言葉を止める様に手つきで命じる。


「借りは作らぬ性分なのでね。だが、一つ頼まれてくれ。この都市にいる私の部下に、一度撤退し、他の部隊と協力して確実にラガール子爵を捕える様、伝えてくれ。『不死鳥の瞳』の第二部隊長、クロイツからといえば聞く耳を持つはずだ」


 男、クロイツが不敵に笑って見せ、ランベールへと伝える。


 『笛吹き悪魔』の引き起こした都市バライラを壊滅寸前まで追い込んだ事件より、王家が本格的に警戒を強め、王国監査兵団『不死鳥の瞳』の第二部隊を動かし、不審な噂のある貴族を探らせていたのだ。


「そうか、では頼んだぞ」


 ランベールは言うなり、これ幸いと担いでいた子供をクロイツへと渡す。

 クロイツは呆然としていたが、ランベールの腕が急かす様に揺れたため、思わず受け取ってしまった。


「いや、そうではなく、だから私が足止めを……!」


 ランベールは大剣を握る力を強め、ジルドームへと駆ける。

 四人の仮面剣士が、ランベールの前へと躍り出た。

 大剣の間合い外側から囲む様に四人が動き、長短ばらばらの剣でランベールを狙う。

 その奥で、ジルドームが杖を下ろした。


「消し炭となれ!」


 紫電の雷を纏う赤い二つの球が放たれる。

 ランベールが四人の剣士を相手取り、気が取られているところを、得意の魔術で仕留める算段であった。


 四人の剣士は、薬物投与と洗脳魔術、生体魔術よって造られたバーサーカーである。

 彼らの剣技をすべて捌きながら、遠方から放たれるプラズマ球へ対応を行うのは、不可能に近い。


 多くの剣士と対峙してきたクロイツから見ても、四人の剣士は温い敵ではない。

 一見ふざけた構えだが、そのすべてが理に適っている。

 連携のない不規則な動きに見えて、乱戦になったとき、数手先で確実にランベールを仕留められる陣形を維持している。


「早まるな! 逃げろ!」


 クロイツがランベールの背へと叫ぶ。


 次の瞬間、ランベールへ斬りかかった四人の剣士が、全て異なる方向へ、首か胴を斬られた状態で跳ね飛ばされた。

 ランベールが、大剣を手に、高速で回転したのだ。

 凄まじい威力の回転斬りであった。周囲四方八方のすべてを斬り裁くその様は、まさに暴風。

 クロイツはランベールの姿に竜巻を幻視し、目を擦る。


 前衛を一瞬で壊滅させたランベールは、遅れてやってきた二つの光球を、危なげなく回避する。


 クロイツもジルドームも、目を見開いてランベールを見ていた。


「こんな、桁外れな! ……通常魔術が当たらぬとなれば、秘蔵の札、魔犬ティンダロスを使うしかあるまい」


 前衛を失った後衛魔術師のジルドームが、顔に苦渋を浮かべた。

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