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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第三章 小型都市テトムブルクの狂気
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第六話 人攫い事件⑤

「……いや、素晴らしい。そんな巨大な剣を、軽々と振り回すとは。鎧の中は、さそ名のある剣士とお見受けいたします。私にはわかる。貴方は、剣だけでなく、人格にも優れていらっしゃる」


 白面に顔を隠すフォルベインが、上辺の言葉でランベールを褒め称える。


「だから、こうしたらどうなりますかね!?」


 フォルベインの手にした杖が、父へと震えながら抱き着くアルティーへと向けられる。


「カカカカ! 甘いんですよ! おおっと、動かないでください。その剣を捨てろ、今すぐに!」


 フォルベインがランベールへと命じる。

 ランベールは、大剣を地へと落とす。

 フォルベインが白面の奥で、一層と笑い声を上げる。


「カカカカカカッ! これで形勢逆転ですねボォッ!」


 大剣を手放し、フォルベインの気が逸れた一瞬の間に距離を詰めたランベールは、彼へと容赦ない回し蹴りを放った。

 フォルベインが綺麗にくの字にへし折れて飛んでいく。

 鎧の超重量が、フォルベインの腹部へ、勢いを付けて叩きつけられたのだ。


「フォッ、フォルベイン様っ!」

「フォルベイン様がやられた! なんだあの滅茶苦茶な化け物は!」


 私兵の二人が逃げようとする。

 だが、ランベールの豪速に敵うわけもない。

 ランベールはあっという間に二人の背後を取り、魔金(オルガン)の籠手での首へと水平打ちをかます。

 二人の私兵は意識を失い、その場に倒れた。

 延髄を圧迫し、瞬間的に血流を止めることで意識を奪ったのだ。


「よし、生きているな」


 ランベールが一人で納得した様に頷く。

 ランベールは手加減が苦手であり、加減を誤り、そのまま首の骨を折ってしまうことが過去に何度かあったのだ。


「危ないところだったな。大丈夫だったか?」


 ランベールが、呆然とするアルティーと、その父親である男へと尋ねる。

 男は呆然とその場に膝を突いて、あんぐりと口を開け、目前で起こった光景が夢なのが現実なのかをゆっくりと判断しているところだった。


 アルティーも目前で起こった凄惨な光景に呆然としている。

 幼い少女の前で真っ二つはあまりに刺激が強すぎたのだ。


「あ、ありがとうございます、騎士さま……」


 目前のショッキングな光景を視界の端に入れつつ、アルティーは途切れ途切れにランベールへと礼を言う。

 彼女の父親も気が付いたようで、はっと表情を戻し、ランベールへと何度も頭を下げる。


「本当に、本当にありがとうございます! アルティーが奴らに連れていかれていたら、どうなっていたことか……! しかし……きっとこの件が子爵様の耳に入れば、騎士様や、周辺の貧民相手に復讐を行おうとするでしょう……」


 男は力なく、呟く様に言う。

 それからランベールの視線に気が付き、顔を上げてあたふたと手を動かす。


「い、いえ! 違います! 騎士様に難癖を付けているわけではないのです! 今騎士様に助けていただかねば、この場で私の一番大切なものを失うところでしたから!」


 自分の言葉が、言いがかりの様なものに取られかねないのではと思い至った男が、必死に弁解する。

 ランベールが無言で棒立ちしていると、顔が一切見えず、仕草からも何も読み取れないため、近くにいると圧迫感を覚え、ただ横にいると、それだけで自然に恐怖を感じるのだ。


「いや、よく誤解されるが、別に俺は怒っているわけではない。それに……む?」


 ランベールは唐突に言葉を区切り、兜を傾ける。

 不意に視線を感じたのだ。


 フォルベインが震える手を上げて、指先で握る杖の先端をランベールへと向けていた。

 彼の罅の入った面の下側は口から吐いた血で汚れている。

 フォルベインは、ランベールの蹴りを受けてなお、辛うじて息があった。


「む、確かに臓器を潰した感触があったのだが……まだ動けるのか」


「ふ、ふふ……我ら、『笛吹き悪魔』の魔術師を侮ったことが敗因となる! 土よ、打ち砕け!」


 血を吐き出しながら、魔術を行使する。

 フォルベインの近くの土がせり上がって弾丸を作り、ランベールの遥か上空へと飛んだ。


 外した、のではなかった。

 辺り一帯から、不気味なぎしぎしという音が鳴る。

 次の瞬間、背後の壁に大きな亀裂が入っていく。

 土の弾丸が打ち抜いたのは、古い家屋であった。


「むっ……」


 屋根を支えきれなくなった家屋が崩れ、その瓦礫が、ランベールとアルティー、彼女の父へと降り注ぐ。

 古い、いつ崩れてもおかしくない危険な建物の並ぶ、この貧民街だからこそできる攻撃であった。


 アルティーの父が、彼女を抱きしめ、盾になる様に背を丸めて庇う。


「パ、パパ……」


 無情にも、瓦礫はランベールと親子を呑み込む。

 やがて轟音が止み、瀕死のフォルベインが、身体を痙攣させながら立ち上がる。


「カ、カカ……ざまぁ見ろ。気絶した子爵の私兵も押し潰してしまいましたが、まぁ、あんな役立たず共がいなくなっても、問題はないでしょう。しかし、臓器へのダメージが酷い。ルルック様に頼んで、テトムブルクへ向かって、また新たな人工臓器と入れ替えてもらうか……」


 元より、フォルベインは病気で一度死の縁を彷徨っており、その際に八賢者の実験品であった頑丈な人工臓器と、身体の内臓の一部を入れ替えていた。

 その甲斐あって、ランベールの蹴りを受けても、どうにか瀕死で済んでいた。


「しかし、あの男、本当に何者だったのか……王家から送り込まれてきた調査の兵にしても、あまりに出鱈目すぎる……。ここのボロ屋を利用して殺すことができてよかったが……」


 フォルベインが前へと目を向ける。

 瓦礫の山に、土煙の柱がたった。残骸を押し退けて、大鎧の男、ランベールが立っていた。


 瓦礫に押し潰されたはずの親子も、無傷でランベールの前に立っている。


「は、はぁ!?」


 ランベールは落下してくる瓦礫を受けてなお、平然と立っていた。

 その巨体で親子を守ることも、わけないことであった。

 彼の膂力は落下してくる瓦礫程度なんともなかった。

 鎧もまた、それを可能にするだけの頑強さを誇っていた。


 すぐに出てこなかったのは、親子を極力怪我させないためのものである。


「い、いくらなんでも、それはあり得ない!」


 フォルベインが泣き言を叫びながら、ランベールに背を向けて逃げようとする。

 ランベールは跳んでその後を追い掛け、空中から首の後ろ目掛けて水平打ちを放った。

 勢いの余り、フォルベインの身体が縦に回転し、額を地に打ち付けて止まった。


「気になることを言っていたな、『笛吹き悪魔』と。貴様のせいで、せっかくの捕虜が、瓦礫に押し潰された。貴様に、知っていることを全て吐いてもらうぞ」


「きっ、騎士様、その、その人は、もう……」


「むっ……」


 アルティーの父に声を掛けられ、ランベールはフォルベインの肩を握って持ち上げる。

 首が、ぶらんぶらんと上下した。骨が折れている。


 ランベールは、手加減が苦手であった。

 ましてや宙から放ったため、否応なしに重量が乗る。

 それを考慮して手加減したつもりであったが、無意味だった。


「…………」


 ランベールは無言で、フォルベインの死体をゆっくりと下ろし、丁寧に地面へと置いた。


「き、騎士様、その……」


 アルティーの父が声を掛ける。

 ランベールの沈んだ雰囲気を見て、何か声を掛けならないとは思ったものの、掛けるべき言葉が見つからないでいた。

 元より、彼にはランベールの存在は色々と理解の範疇の外にいた。

 慰めの言葉が容易に出てくるはずもなかった。


「……大丈夫だ。次の私兵は、生け捕りにする」


 ランベールが、大きく頷きながら言った。


「次ということは、また子爵様の私兵と戦うのですか!?」

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