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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第三章 小型都市テトムブルクの狂気
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第一話 三年前の密談

 ランベールがアンデッドナイトとして復活を遂げる、三年も前の事である。


 ラガール子爵の館へと、風変わりな来客があった。

 両目に涙が足された面を被り、多彩な色を用いた道化服と道化の帽子を身に纏う、異様な風貌の少女だった。


 とんでもない大物が来ると聞いて脅えていたラガール子爵とその部下達は、現れた少女の姿に顔を引き攣らせていた。

 少女を連れて来たラガール子爵の部下も、どうしたものかと眉を顰めていた。


「やー困っちゃうよ。私を連れて来るの、散々渋ってさ。この子、首刎ねたらどうかなーラガール子爵ちゃん」


 ラガール子爵は、ぶくぶくと肥えて張った顔を疑惑に歪ませ、深い皺を顔中に作っていた。


「ハハハ、冗談冗談。それより、そろそろ椅子座っても?」


 道化の少女が、真っ白な手袋の指を伸ばし、机に添えられた椅子を示す。


「なんだ、このガキは! 摘まみ出せ! なぜこんなものを連れて来た!」


 ラガール子爵は、癇癪を起こしたように手にした杖で床を打ち叩く。


「しし、しかし……体質で、昔から姿が変わらないのだと……彼女が、その……」


「とっとと本物を連れて来い! 得体の知れん連中なのだ、怒らせると何をするかわからん! この不快なガキを追い出せ!」


 ラガール子爵は立ち上がり、少女を連れて来た部下の頭を杖で打ちのめす。

 部下は頭から血を流し、その場に倒れる。


「も、申し訳ございません! すぐに、すぐに……!」


 少女は退屈そうにそれを見ていたが、ふと思いついた様に、手にしていた、真っ赤な金属棒を掲げる。


「我が声に応え、物界より来たれ、踊る断頭台ポルターシザー」


 魔法陣が展開され、両の刃にみっつ目玉の付いた巨大な鋏が、ラガール子爵の目前に浮かぶ。

 召喚魔術……精霊と呼ばれる、異界の民と契約して呼び出す魔術である。


「む……? ひ、ひぃっ!」


 ラガール子爵が驚いて後ろに飛ぶ。

 他の部下達も騒然となる。


 異界に干渉する召喚魔術は難度が高く、また精霊は気難しい。

 召喚魔術を操れるのは魔術師の中でもほんの一握りである。


「これでわかってもらえたかな? 私が、『笛吹き悪魔』八賢者が一人、ルルック・ルルックだって。ひっどいなーガキ呼ばわりして疑われた上に、得体の知れない何するかわかんない奴呼ばわりなんて。大事な交渉に、せぇっかく来てあげたのに、ちょっと拗ねちゃったかも」


「も、申し訳ございませぬ八賢者ルルック様! なにとぞ、お許しを!」


 ラガール子爵が、顔を真っ青にして頭を下げる。


「あはは、ちょっと怒る振りが過ぎちゃったかな。大丈夫、大丈夫、全然気にしてないから。大事な交渉相手だし、私も大人だしね。こんなことでいちいち目くじら立てないよ。ややこしい外見してるのは私の方だってのはわかってるからさ。悪いの私だよね、ほんと」


 ラガール子爵が安堵しながら顔を上げる。


「いえいえ、しかし、失礼があったのはこちらの方で……無作法で申し訳が……」


「もっとリラックスしなよ、あはは、固いなー。私、八賢者の中でもかなり常識人だから。だから私が、交渉に選ばれたんだけど。ボスと私除いたら、ちょっとおかしい人ばっかりだからね、アレ」


「ははは……そ、そうなのですかルルック様」


 ラガール子爵は布で部下に、脂汗を拭かせる。


「ちゃんでいいよ。まぁ、無駄話はこれくらいで……」


 道化少女ルルックが杖を捻ると、ポルターシザーがぐるりと回り、ラガール子爵が杖で殴りつけていた部下の首を斬り飛ばした。

 パァンと鮮血が舞い、首が部屋の隅まで飛んでいく。


 物界の精霊ポルターシザーは、役目を終えた様に消えて行った。


「そろそろ会談を始めましょうか」


 静まり返った部屋の中で、悠々とルルックが席に着く。


「あ、あ……何故……?」


 ラガール子爵の脂汗を拭いていた部下の男が呟く。 


「え? いやいや、子爵殿の首斬ったらまずいでしょ?」


 誰一人、ルルックの言い分が理解できなかった。

 しばし沈黙した後、ラガール子爵は「か、片付けておけ」と青い顔で部下へと命じる。


「ラガール様! しかし、しかし……!」


「構わぬ。あの貴族界の怪人オーボック伯爵も、『笛吹き悪魔』についたという。彼らは、本気で国家転覆を目論んで居るのだ。オーボック伯爵が乗ったのなら、間違いはあるまい。どの道、ここまで来て引くわけにはいかんのだ」


「は、はい……」


 ラガール子爵と部下の小声の話し合いが終わったのを見計らい、ルルックが喉から甲高い咳払い。

 身体の貧乏揺すりを止めて、嘲弄する様な瞳が真っ直ぐに定まる。


「さて、貴殿らも知っての通りだとは思うが、既にオーボック伯爵を筆頭に、レギオス王国の貴族が我々『笛吹き悪魔』への協力体制を見せている。我々の最終目的は、レギオス王国現王権の崩壊と乗っ取りにある。我々『笛吹き悪魔』はラガール子爵殿の協力に対する見返りとして、新レギオス王国樹立と共に、要職に着けることを約束する」


 ルルックは別人の様にすらすらと話しながら、いつの間にやら手にしていた書類をラガール子爵の部下へと手渡す。

 内容は、口にした内容を具体的に詰めたものである。


「また資金面等の基本的な支援に加え、ラガール子爵領の小型都市テトムブルクの管理をこの私ルルックに一任していただきたい」


「テトムブルクゥ……?」


 ラガール子爵が顔を顰める。


「不服か子爵殿?」


 面の奥から、怪物の視線を感じる。


「い、いえいえ! ただ、その……小型都市テトムブルクは、鉱山採掘のために作り、街の浮浪児共を放り込んで働かせるための鉱山に隣接した都市だったのですが……あまりに有毒ガスが多く、大した鉱石も取れないため、それでもまだ赤字でして……。当然、無理に運用する意味もないので、今ではすっかりとゴーストタウンとなっているのですよ。お恥ずかしい話ですがね」


 ラガール子爵が手をこまねき、媚びる様に言う。

 ルルックは「ふぅーん」と言いながら、足をバタバタと動かし、勢いを付けて立ち上がる。


「もちろんいいよ、それくらい。とっっくに下調べしてるしね。ただ、条件に合うちょうどいい場所がなかったってだけで。まぁ、子爵殿にも色々と、こう、ご協力願うことにはなると思いますがねぇー」


 ルルックの声の調子は、からかうような子供のものへと戻っていた。


 会談が終わり、ルルックが館を去った後、執務室でラガール子爵は部下から疑問を投げかけられていた。


「本当に、あんな連中と手を組んでよいのですか? 今からでも、告発した方が……」


「……それはできん。半年前の、ヒルニス男爵領の大火事を覚えておるか? あれは、恐らく、告発しようとして『笛吹き悪魔』の報復にあったのだ。奴らを甘く見ん方がいい」


「しかし、上層部があんな狂人では、とてもまともに組織として機能しているとは……」


「機能しておるから、ここまで国に隠れて貴族の懐柔に成功しておるのだ。レギオス王家の連中が気付くまでに、徹底的に駒を返し、染まらぬものは排除する算段であろう。恐ろしい奴らだが……だからこそ、乗る意味がある。儂らは、勝ち馬に乗って旨い汁を啜るだけでいい。要するに奴らは、事を起こした際に王家に味方してほしくないのだ。儂らの働きにさして期待してるわけではない。危険な面は、すべて奴らが勝手にやる。王家には、消えてもらうまでよ」


 ラガール子爵は、分厚い頬肉を垂らして、品性に欠ける笑みを浮かべる。

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