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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第二章 都市バライラの英雄譚
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第四十二話 都市バライラの決闘②

「同じ技を続けて選ぶとは、失策だったな……」


 ランベールは剣を下段に構え、垂直に跳んだ。

 このまま振り上げて、セラフに騎乗するロビンフッドを斬る算段だったが、馬の上にロビンフッドの姿はなかった。


 ロビンフッドはその更に上にいたのだ。

 跳び上がったセラフの背を蹴って更なる上空へと向かっていた。


 ロビンフッドの手には、黄金の装飾のなされた、巨弓が構えられていた。

 弦とするには反発力の強すぎるドラゴンの髭が用いられた糸が、弓の両端を繋げている。


 それを歪ませる二指には血が滲んでいた。

 ロビンフッドが初対面の際にも見せた、竜王弓であった。


「素手だけでやるのは……手に悪いんだがな」


 竜王弓に耐えられる、特別製の魔銀ミスリルの矢の照準は、ランベールの胸元へと向けられていた。

 宙では、さすがのランベールでも回避できない。

 読み負けた結果、堂々と自身に矢を向けるロビンフッドに対し、無防備を晒していた。


「最初に見た時から、普通に撃っただけなら駄目だと思っていた……今なら、当たる!」


 魔銀ミスリルの矢が放たれた。

 竜王弓の一撃が、至近距離からランベールを狙い飛来する。

 胸元へ吸い込まれる様な一撃。


 ランベールの常人離れした反射神経が、矢を側部を大剣で打つことに成功。

 魔銀ミスリルの矢がへし折れた。城門さえ穿つ一撃が、ただの一振りで地へと落とされる。


 だが、竜王弓を放ってなお気を途切れさせていなかったロビンフッドは、国宝級の竜王弓を地へと投げ捨て、宙で別の弓を素早く構え直していた。

 竜王弓では構えてから放つまでに時間が掛かるため、間に合わないと判断したのだ。


 ほぼ同時に放たれた二射が、続けてランベールを襲う。

 一射目は大剣の柄が弾いたが、二射目がランベールの肩に当たった。


「ぐっ」


 支える足場もなく肩に衝撃を受けたランベールの体勢が崩れ、その姿勢のままに落下する。


 ランベールの身体が不安定な体勢で地面へと叩きつけられ、土煙が上がった。

 続いて、ロビンフッドも膝を突きながら着地する。

 息を切らしながら土煙の中を睨み、砂塵に浮かぶ巨大な人影に苦笑する。


「普通なら……鎧越しでも、衝撃で骨がいかれてるはずなんだがな」


 ランベールは、矢を受けた側の腕に大剣を握り、悠々とその場に直立していた。


「……この時代では、鎧越しにとはいえ人間相手に一撃を受けたのは、今のが初だ」


「……褒められた気がしないな。どれだけ化け物なんだ」


 ランベールからの素直な賞賛の言葉は、ロビンフッドとっては、対峙している相手が如何に化け物であったかの指標としかならならなかった。

 人生を懸けて研ぎ澄ました絶技を用いて奇策を狙い、決死の覚悟で辿り着いた一撃は、致命打には遥かに遠い。


 一秒ほど、互いに動かなかった。

 ランベールが口を開く。


「終わりか」


 愛馬セラフからは既に下りた。

 切り札の竜王弓も投げ捨てた。これ以上、ロビンフッドにランベールへと食い下がる術はない。

 ロビンフッドはしばし沈黙した後、無邪気に表情を綻ばせる。


「冗談じゃない。こんな楽しい時間は他にない。まだ楽しませてもらうぞ!」


 ロビンフッドが、常用している弓を投げ捨て、ベルトより刃渡りの長いナイフを抜き取り、構える間もなく駆け出した。

 『刃姫弓』と呼ばれる、刃に張った糸で弓としても扱えるナイフである。


 ランベールが大剣を振るうと同時に、ロビンフッドが跳び上がる。

 刃を足で蹴って跳び上がり、宙よりランベールを狙う。横薙ぎに振りかぶると同時に、矢が放たれる。

 矢とナイフの刃が、同時にランベールへ迫る。

 掬い上げる様に放たれた一振りが矢を砕き、同時にロビンフッドの身体に縦の一閃を入れた。

 切断された刃姫弓が宙を舞う。


 鮮血を噴き出しながらロビンフッドの身体が跳び、地に頭から落ちた。

 左腕が力なく開かれる。右腕は、手首で斬り落とされていた。


「剣の間合いじゃ……どうにもならないか」


 それから首をわずかに持ち上げ、自身の下腹部から逆の肩にかけて斜めに入れられた傷痕を目にし、フツと笑い、再び地に後頭部を預ける。


「ヒン……ヒン……」


 セラフが寂しげに鳴きながら、ロビンフッドへと顔を近づける。

 ロビンフッドはセラフの顔に手を触れようと左腕を持ち上げようとするが、肩が震えるばかりで、動かなかった。


「今までありがとうよ、セラフ……どこへなりと、自由に行け」


 ロビンフッドの目が、ランベールへと向けられる。


「最後に、お前みたいな剣士と手合わせできてよかった。あいつらにも、自慢できるかもしれねぇなぁ……。また、シャルナに怒られちまうか。俺はあのときから、気が急いて真っ先に一人で行くか、遅れて一番最後だったからな……」


 呟く様に言い、ロビンフッドの目が閉じられる。

 都市バライラの戦神ロビンフッドは、それきり動かなかった。

 セラフがロビンフッドへと顔を近づけ、寂しげな声で鳴く。


(……死に場所を、探していたようだな)


 ランベールは大剣を持ち上げ、鞘へと戻そうとする。


 ふと、ロビンフッドの愛馬、セラフと目が合った。

 蒼い馬は、ランベールへと何かを訴えかける様に嘶く。


「お前の主は、これからは自由にしろと言っていたが?」


 セラフは目線を動かすことなくランベールを見つめ続ける。

 ランベールは溜め息を吐き、仕舞いかけていた剣を手に握り直し、セラフへと歩み寄る。


 高速の一閃が、セラフの胸部を斬りつける。

 セラフの身体がぐらりと揺れ、血を流しながら崩れ、ロビンフッドへと寄り添うように倒れた。

 ランベールは一人と一頭の顔を確認した後に、今度こそ大剣を鞘へと戻す。


 彼らの亡骸に背を向け、歩く。

 その傍らに、首のない大馬ナイトメアがついて歩く。

 ランベールは振り返ることもなく、その場を去って行った。


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