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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第二章 都市バライラの英雄譚
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第四十一話 都市バライラの決闘①

「何度も聞く気はないが、退く気はないのだな?」


 ランベールが大剣に手を掛け、愛馬に跨るロビンフッドに問う。

 ロビンフッドは軽く笑って答える。


「俺も、随分とこの手を血で染めて来たもんだ。今更、善人ぶる気もない」


 ロビンフッドは、キングオーガ騒動によって仲間を処刑に追い込まれて都市バライラを逃げ出して以来、自身に計略を仕掛けた黒幕捜しに手段は選ばなかった。

 その悪名高さは、決してユノスの計略のみによるわけではない。


 元来激情家で仲間想いの面が強かった彼の気質は、事件以来ずっと悪い方へと向かい続けていた。

 本人にも自覚はあり、悪人と断ぜられて斬られたとしても、構いはしなかった。

 目的も果たした今、無様に逃げる理由もない。


「それに……森でお前の剣技を見てから、ずっと昂ってたんだ。鎮めてくれよ、鎧男よ」


 ロビンフッドは、口許に僅かに笑みを浮かべながら言う。

 しばしランベールは、ロビンフッドの目を見て沈黙する。

 だが、柄に手を掛けていた大剣を一気に鞘から引き抜き、ロビンフッドへと構えた。


「よかろう、受けてやる。レギオス王国四魔将の一角にして八国統一戦争最後の裏切り者、ランベール・ドラクロワだ」


 やや自嘲めいた言い方に、ロビンフッドが表情を和らげる。

 離れたところから立ち上がろうとする首なし馬、ナイトメアへとちらりと目を向ける。


「アンデッドなんじゃないかとは思ってたが……ランベールとは、大きく出たもんだな。だが、疑う気はない。むしろ、納得がいったくらいだ。しかし、お前は裏切り者ってタマには見えないがな」


 馬上より弓を構え、ランベールへと向ける。


「都市バライラ最強の冒険者ギルド『蒼穹の大弓』がギルドマスターにして、最悪の戦闘狂、戦神ロビンフッド、ロビンフッド・ノグフォードだ。歴史に置き去りにされた亡霊騎士よ、最高の戦いにしようぜ」


 ランベールに被せた口上であった。

 ロビンフッドが言い終えると同時に、彼の蒼の愛馬セラフが動く。


「俺の本領は、騎射術こっちでね! お前の馬は使えないようだが、悪く思うな!」


 ロビンフッドはセラフを走らせながら、弓での正確な連続射撃を行う。

 ランベールとの間合いを保ちながら、彼を中心として大地に円を描くように駆ける。


(この動きは、まさか、ラブル部族の……?)


 ランベールを閉じ込める様に、円状に展開させる矢の雨が吹き荒れる。

 ロビンフッドという人間離れした精度の射手と、セラフという並外れた俊足を持つ名馬が揃ってこそ可能とする、騎射の絶技『円牢矢』であった。

 

 『円牢矢』は、八国統一戦争時代の伝説の遊狩部族、ラブルの騎射術である。


 ラブル部族は各国が国境周辺の警戒に躍起になっている時代に、平然とウォーミリア大陸の国境沿いを旅して暮らしていた、狂気の部族である。

 それ故に各国の兵と問題を起こすことも多く、彼らはそう言った場を切り抜けるべく、多対一を想定とした騎射術を編み出していた。

 ラブルの勇者は一騎が百騎を落とすと恐れられた程である。

 最終的には国につき、戦争終結前に戦いの中でその血を絶やしたはずであった。


「なるほど、お前はラブルの血の末裔か」


 ランベールが大剣を振るう。

 大剣の腹が矢を砕き、叩き落す。


「よくぞ、その名を知っていたものだな!」


「一度、戦地で出会ったことがある。確かに強敵であった。ラブルの勇者は百騎を落とすとは、よく聞いた謡い文句だ」


「はっ! そりゃ光栄だな!」


 ランベールの言葉を虚言か真実か測りかねたロビンフッドではあったが、それでも快闊に笑って応えた。


 この間合いではいくら放っても無意味と判断したロビンフッドは、矢を放つ手を止める。

 ランベールの周囲をセラフに駆け回らせながら、ゆっくりと半径を縮め、距離を詰める。

 半径が五ヘイン(約五メートル)にまで詰めたところで、再びロビンフッドの手が動く。

 放った瞬間に動き、別の全く異なった角度から矢を放つ。続けて、また素早く別の位置へと移動して矢を放つ。


「『重影射』……どうだ? まるで複数人を同時に相手取っているかのようだろう!」


「だが俺は、一度の戦場で三百を斬ったことがある」


 ランベールはただの大剣の振り上げで、三か所から放たれていた矢を的確に落とす。

 構えを見た途端、ロビンフッドは冷気に襲われた。

 動きながら、間合いを最低でも五ヘインは保っていたというのに、まるでここがランベールの間合いであるかのように感じさせられたのだ。


(あり得ない……あの大剣は、長く見積もって二ヘインだぞ? あの振り上げで、俺を狙えるわけがない。相手が動いてから対応すればいい。今は、攻撃に専念できる距離……)


 だが、愛馬セラフの方が退いた。

 横に跳び、ランベールから距離を置いたのだ。


「おい、セラフ、何故……奴に、気圧されたか!」


 次の瞬間、ロビンフッドの真横を巨大な刃が叩き、土の飛沫を上げた。

 ランベールは大剣を振り上げたまま、一瞬で距離を詰めてロビンフッドを間合いの内側に入れたのだ。

 ランベールの人外振りを散々目にしたロビンフッドでも、まだ信じられない俊敏であった。

 続く刃が、駆けるセラフの尾を掠める。


「は、はははははっ! どれだけお前は、規格外なんだよっ!」


 セラフが駆けて、再びランベールの間合いから逃れる。

 セラフは「ヒフ……」と高い声で鳴き、主へと意向を尋ねる。


「そうだな……何度も仕切り直すのも、無粋というものだ」


 彼の言葉を介する様に、セラフが首を頷かせる。

 セラフは弓の間合いを捨てて即座に身を返し、ランベールへと直進する。


「行くぞランベール!」


 正面から放たれた三連撃ちを、ランベールはこともなげに大剣で落とす。

 セラフはランベールの間合いの手前まで疾走したところで、脚を発条に大地を蹴り、高く跳び上がった。

 宙よりの矢が、ランベールへと襲う。


「見よ、『天円牢矢』!」


 斜め前、脳天、斜め後ろから、ランベールを縦の円が包む様に、矢が放たれた。


「ぬっ」


 一矢を落とし損ね、ランベールは身を捩って回避した。

 セラフが身を翻して再びランベールに向かう。


「あれだけやって、掠りもしないのはさすがにあり得ないだろう……」


 弓を構えるロビンフッドが、複雑な絶技の完全回避を容易く成し遂げたその動きに、舌を巻く。


「悪くない技の切れだった」


「あのランベールに褒めてもらえるなら光栄だな!」


 再び、ロビンフッドを乗せるセラフがランベールへと疾走し、高く跳び上がった。


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