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元将軍のアンデッドナイト 作者:猫子

第二章 都市バライラの英雄譚

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第二十八話 伯爵邸の襲撃③

『任せろよ坊主、俺達が仇を取ってやる』

 鮮やかな緑の眩しい服に身を包む青年は、泣いている子供の頭を撫でながら、あっさりと難題を引き受ける。

『正気ですかな、ギルドマスター殿。失敗すれば、我々は犯罪者ですぞ。最悪の場合、オーガの群れが散って都市へと入り込むことになる。成功しても、モンド伯爵から目を付けられることになりましょう』

 身なりの整った老剣士が呆れ顔で言いつつも腰を上げ、準備を始める。

 老剣士は、都市バライラにおいても歴代最強を噂される冒険者ギルド、『蒼穹の大弓』のギルドマスター補佐であった。
 彼は、かつては貴族に仕えていた騎士であった。
 隠居してからは穏やかに過ごすつもりであったのだが、青年の求心力、意志の強さに惹かれ、一冒険者として復帰したのである。
 今では『蒼穹の大弓』の主力冒険者であると共に、無鉄砲な節の強い青年を諫めたり、貴族絡みの依頼人との交渉役を買って出ることが多い。

『問題あるまい。どっちにしろ、もう俺達は、伯爵様からしてみれば、無視できない存在になってるだろうよ。それに、他の奴らが尻込みする案件だからこそ、挑む価値がある。それが英雄ってもんだろ? 嫌だって言うんなら、巻き込まれない様にこのギルドを離れてたっていいんだぜ?』

『……まったく、しょうがないお人ですな。確かに私も、判断を鈍らせているモンド伯爵に、思うところがないわけではありません。少し育ち過ぎたというだけの人食い鬼と、安定主義気取りの伯爵に、私達の強さをしっかりと認識させてやりましょう。今回は、私も剣を抜きますよ』

 ギルドマスター補佐の許可が降りたところで、ギルド内の冒険者達が立ち上がり、歓声を上げる。

『さっすがロビンフッドさまぁー! 子供と困ってる人と、アタシみたいに可愛い女の子には優しいですもんねぇー! だって、美談になるから!』

 ギルドマスターの青年は、抱き着いて来る少女を身体を揺らして最小限の動きで躱す。

『人聞きの悪いことを言うなよ、シャルナ』

 青年は笑いながら言う。

 シャルナと呼ばれた少女は、部下の一人である。
 戦闘においては、鉤爪による接近戦を得意としていた。
 死角から飛び掛かったにも拘らず、得意の飛びつきをギルドマスターに軽々と避けられたことを残念そうにしながらも、少し誇らしげでもあった。
 そこには自身の頭目への崇拝があった。

 ――この数日後、『蒼穹の大弓』の冒険者全員に処刑が宣告されることとなる。
 理由は、功績に目が眩んだという自分勝手な理由で、領主のお触れによって手出しを禁じられていたオーガの群れへと挑んで討伐に失敗し、都市バライラへとオーガ、オーガキングを呼び込び、多数の死者を出したためである。



「苦労したぜ、俺に恨みを持ってる冒険者やら、犯罪者落ちした仕事を選べない冒険者ばかりを集めて、俺達の妨害を指揮していた奴を暴くのによ。まさか、ここまで徹底して正体を隠していたとはな。おかげで、無関係な奴も随分と殺したよ」

 ロビンフッドが、怨恨と狂気の込められた眼差しをユノスへと向ける。

「目的のためには殺しも厭わない、か。お前は私と似ているのかもしれないな。英雄、ロビンフッドよ」

 ユノスが挑発気味に言う。

「否定はしない。俺も、ロクな死に方ができるとは思っちゃいない。お前も覚悟しておいた方がいい」

「悪行の対価を求めるのは、弱い人間だ。だが現実には、悪い奴より、弱い奴の方が悲惨な死に様を選ぶのが世の道理というものだ。悪行に報いあれと願う者は、自らの価値観の根底が、安い願望と無意味な思い込み、空虚な自己肯定でしかないと悟るべきだ」

 ユノスが口端を歪めながら言い、剣を横に構える。
 刃越しにロビンフッドの顔を見て、鼻で笑う。

「私は貧民街の生まれでね。私がパンを奪った子供は、数日後には、骨と皮だけになった悲惨な姿で、生きたまま野犬に喰われていたよ。だが、私は生きている。貧民街の外は綺麗だったが、本質はどこでも変わらないと知るのに時間はいらなかったよ!」

 ユノスがロビンフッドへと距離を詰める。

 ロビンフッドが指に三本の矢を引っ掛け、ユノスを目掛けて次々にと弓に掛けて放つ。
 ロビンフッドの神業により、同一に放たれたとしか思えない三連射がユノスを襲う。
 ユノスはその内の二本を回避し、残る一本を剣で打ち砕く。

 間髪開けずに再び放たれた四矢も、ユノスを傷つけることはできなかった。
 長身の刃の前に叩き斬られ、矢がへし折れて床へと落ちる。
 ついに、ユノスの剣の間合いにロビンフッドが入る。

「『蒼穹の大弓』も、私にとってはパンを奪われた貧民街の子供だ。お前も等しくな」

 ユノスは刃先を自身に傾けていた剣を、手首の返しでロビンフッドへと突き出す。

 ロビンフッドはそれを身体の捌きだけで回避。
 手に掴んでいた弓を落とし、空いた手で自身の服に隠していたナイフを取り出し、自然な動きで手へと構える。

 刃の先が奇妙な形状になっていたり、刀身自体が反る様に曲がっていたりと、やや風変わりなナイフであった。
 当然だが、ナイフはユノスの長剣には遥かに及ばぬ短さである。

 ユノスは勝利を確信していた。
 弓士の間合いを楽々と突破できた時点で、ユノスの勝ちはほとんど決まった様なものであった。
 おまけに片や熟練の剣士、片や破れかぶれでナイフを出した弓士である。

 ユノスは自身の剣がギリギリで当たる位置に立ち、長い刀身を活かして一方的な攻撃に出ていた。

 対するロビンフッドは、ナイフを防御には使わない。
 ひたすらに身体を動かし、ユノスの剣を避ける。避け続ける。

「ならば、これはどうだ」

 ユノスが一時的に自身の間合いから離れ、背を屈める。

「風よ、我を運べ」

 ユノスの剣先に魔法陣が浮かぶ。ユノスが地面を蹴った。
 吹き荒れた風が、ユノスの後押しする。ユノスは変則的な高速移動の中、剣を伸ばして的確にロビンフッドを狙う。
 舞遊剣のユノスの本領、風魔法での移動と剣術を組み合わせた、予測困難、回避困難の一撃である。

 ユノスが風に包まれて飛翔する中、ユノスはしっかりとロビンフッドと目が合った。
 ユノスは自身に、そんなはずはないと言い聞かせる。

 ユノスとて、この技を完全にものにするのには数年の年月を要した。
 高速移動する風の内側から、周囲の動きを見切る必要があるのだ。言葉にするほど簡単なことではない。
 それを、ロビンフッドはあっさりと、ユノスの変則的な動きを目で追っていたのだ。到底受け入れられることではない。

 弓の利点を十全に活かすため、ロビンフッドは動体視力を幼少より徹底して鍛えていた。
 ユノスが振るう剣も、彼には止まって見えていた。
 風魔法の高速移動も例外ではない。

「チッ!」

 ユノスは風魔法での高速移動によってロビンフッドの真横を潜り抜け、二人の影が交差したところで剣を振るおうと考えていた。
 しかし、ユノスは伸ばそうとした腕を曲げて、ロビンフッドから放たれた一撃を防ぐ側へと回る羽目になっていた。

 空中で予想だにしていなかった防御に回ることになったユノスは、不格好に着地する羽目になった。
 ユノスは慌てて地面を蹴って、ロビンフッドから距離を取る。

(あんなナイフで、俺を追い詰めるとは……。弓以外も、扱えたのか。しかし、あのリーチでは、これだけ距離を取れば問題ない。ロビンフッドは、得意の弓を地面へ投げ捨てたところだ。弓での追撃もできな……)

 そこまで考えていたユノスの腹部を、矢が貫いた。
 ユノスの地面を蹴って後退していた足取りが崩れ、その場に崩れ落ちる。

(そ、そんな……矢は、構えていなかったはず……)

 ユノスが顔を上げると、ロビンフッドは依然、先ほどのナイフを構えているばかりであった。
 ユノスは目を細めてナイフを凝視し、妙なことに気が付いた。
 奇妙な形状のナイフは、よくよく見れば側部に糸が張られている。
 あのナイフもまた弓の役割を持っていたのだと、ユノスは遅れて知る。

「甘く、見ていたか。クソッ……この、私が……」

 ユノスが身体を起こそうとしたとき、手の甲をロビンフッドに踏み抜かれた。
 ユノスは短い悲鳴を上げる。

「ユノス、お前は善悪と死に方の因果関係が薄いと言ったな。お前の哲学は知ったことではないが、今この場においては明確に誤りだ」

「ま、待てロビンフッド! 交渉しよう!」

「何故なら、お前の死に方を決めるのは運命の神様じゃない。俺だ」

 ロビンフッドはナイフを仕舞い、床に落とした通常の弓を手に取る。
 大きく矢を引きながら、その先端をユノスの背、心臓の反対側へと押し当てる。

「やめろ! 私は、私はまだ、死ぬわけにはいかない! 私には、大いなる才能がある! こんな一都市の、冒険者ギルドのギルドマスタ―程度ではなく……もっと、もっと大きなことを成す器がある! 今はその通過点だ! 私が、こんなところで……!」

 ユノスは這って逃げようとする。
 ロビンフッドが矢を放つ。バルコニーに鮮血が舞った。
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