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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第一章 蘇った英雄
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第七話 盗賊団③

 少し歩いたところでやがて森を抜け、建物の並んでいる様子が見え始めてきた。


「ふむ、あそこか」


「き、騎士様……あの、本当に……大丈夫……ですか?」


「任せておけ……と答えてやりたいところだが、しかし、少しわからなくなってきたな」


 ランベールは弱気なわけではない。

 ただこの盗賊団は、少しばかり妙なところが目立つ。

 ランベールはそのことについて、何か裏があるのではないかと考えたのである。


「盗賊が、一か所の村に長く留まるなど……リターンとリスクが、あまりに見合っていない。先ほどの盗賊が弱すぎるのも違和感がある」


「そ、それはどういう……」


 ランベールが足を止める。

 少女も釣られて足を止め、彼を振り返る。

 ランベールは、少女の顔をじっと見ていた。


「騎士様?」


「……まぁ、今は考えなくともよいだろう。終わってから、ゆっくりと調べればよいことだ。枝が腐っていれば、そこにつく葉も腐るというもの。それが木へと広がる前に、断たねばならん」


「そ、それは……村のことですか?」


「気にせずともよい、俺にすべて任せておけ」


 少女の疑問には答えず、ランベールは村への足を速めた。


 村は酷い惨状であった。

 瘦せ衰えた村人達が、盗賊らしき男達にあちらこちらでこき使われている。

 盗賊達は鞭や鎌を手に、遊び半分に村人達を脅しながら働かせているようだった。

 動きに難癖をつけては、鞭で打ったり指を鎌で潰したり、酷ければそのまま殺してしまったりと、好き放題である。


 村の隅では、村人の死体が五人ほど、乱雑に束ねられていた。

 死体の層に特に偏りはなく、老若男女様々である。


 これはここ数日の餓死した者や反抗的だった者、うっかり盗賊がやりすぎて殺してしまった者である。

 盗賊に占拠されてからの人数で数えると、この十倍近い数になる。

 数が溜まれば村人に大穴を掘らせて、まとめて穴の中に捨てさせるのである。

 盗賊団のリーダーは、村人が村人の死体を雑に穴の中へ投げ捨てるのを見るのが大好きであり、わざと近しかったものを集めてはその作業をやらせていた。


 ランベールは村へと足を踏み入れて首を回し、これらの光景を目に留めた。


「なるほど、酷い有様だな……」


 言いながら、大剣を抜くこともせずに村の中へと降りていく。


 盗賊の一人が、頭を抱えて震えている半裸の村人の背へと、嬉々として鞭を打ち込んいる。


「へっへ、おら、おめぇがトロトロやってっからだよおおう? わざと俺を苛立たせてるんじゃないだろうなぁ? なぁ! 次はお前の娘をぶっ殺してやろうかぁ? ああ?」


 ランベールはこれ以上打たせるわけには行かないと思い、盗賊へと殺気を向けた。

 盗賊は悪寒を感じたかのようにぴくりと顔を上げ、ランベールと、その少し離れた後に立つ少女を目に入れた。


「なんだぁ、お前は! おい、変な奴が村に来てんぞ! 誰か加勢に来い!」


 盗賊は村の方へと叫んだ。


「仲間を呼んでくれるのならば、結構だ。探す手間が省けていい」


「はっ、何を……」


 ランベールは一瞬で間合いを詰め、盗賊の目前へと移動した。


「……は? わ、うわぁぁっ!」


 盗賊はでたらめに鞭を振るった。

 ランベールは盗賊の前を陣取ったまま、独特の足捌きでそれをすべて躱しきった。

 鞭を振った本人でさえ把握していない鞭の軌道をすべて完全に読み切ったのである。

 盗賊からしてみれば、ランベールの姿がぶれ、鞭を通り抜けたようにしか思えなかった。

 別に避けなくともよかったのだが、脅しを掛けるために力差を見せつけておきたかったのである。


「な、なにが……」


 そのままランベールは、盗賊の身体へと軽くタックルを掛けて弾き飛ばした。

 盗賊は圧倒的重量差と衝突した時点で意識が薄らいでおり、受け身を取る余裕などなかった。

 肩から地面を叩き付け、無防備に地面についた手には体重と衝撃が圧し掛かり、奇怪な方向へと捻れ曲がった。

 ランベールは屈んで盗賊の肩を掴み、無理矢理上体を起こさせる。


「全部で、何人だ? お前を除いてだ」


「あ、あが……あ……」


 地面に叩き付けられた衝撃で顎が外れたらしく、まともに喋れないようだった。


「受け身くらいは取ってくれると思っていたのだが……ここまで脆いとはな」


 ランベールは立ち上がって大剣を抜き、盗賊の首を刎ねた。

 人間のマナが五人分近づいてくるのを感じ、ランベールは鞘へと収めかけた大剣をそのまま構え直し、マナを感じる先へと目を向ける。


「ラ、ラチス!」

「この化け物野郎が! ぶっ殺してやる!」


 ランベールは先頭に立っている盗賊へと接近し、大剣を下段に構える。


「は、速っ……!」


「うおらぁっ!」


 盗賊の股から頭の先まで斬り上げる。

 綺麗に二つに分かれた身体からは、内臓と血飛沫がばっくりと飛び出る。

 即死である。

 驚愕が恐怖に代わるよりも先に、盗賊は息絶えていた。


「なっ……!」


 後ろに控える四人の盗賊達の顔が、恐怖に染まる。

 ランベールは死体が完全に左右に倒れるよりも先に、死体を迂回して他の盗賊達へと迫った。


 ランベールが三度大剣を振って踏み込むだけで、三人が真っ二つになった。

 後回しにされた最後の一人が、悲鳴を上げながら石が結びつけられた木の棍棒を振るった。


「うわああああっ!」


「遅すぎるわぁっ!」


 ランベールは、盗賊が前に突き出した二の腕を大剣で切断し、そのまま腹部へと突き立て、真上へと持ち上げた。


「おろじで……おろじでぇ……」


 大剣が突き刺さっているところからぽたぽたと、血と内臓の一部がランベールへと零れ落ちていく。


「お前達五人を引いて、残りは何人いる?」


「いじゅう……にじゅうはち、にじゅうはちにんです……」


 言いながら、盗賊は片方だけになった手で弱々しくぺちぺちと大剣の側面を叩く。


「そうか、助かった」


 ランベールは後方へと大剣を振り下ろした。

 盗賊の男が、肉塊へと変わる。

 ランベールは腹部付近に足を掛けてから大剣を引き抜いた。


(逃げられては、厄介だからな……。人数は把握しておきたい)


 ランベールは村中を駆け回り、盗賊を殺して回った。

 頭の中で数字を数えながら、淡々と処分していく。


「お前は……なんなんだよぉっ!」


 盗賊の一人が、喚きながら剣で斬りかかってくる。

 ランベールは盗賊の剣を腕の鎧で弾き飛ばし、そのまま首を掴んで地面へと力いっぱい叩き付けた。

 盗賊の頭部が割れ、顔の穴という穴から血が漏れる。


(これで、残りは十人……剣を抜くまでもないな。こいつらもこいつらだが……この程度の輩も撃退できないとは、この村は大丈夫なのだろうか)


 腕を振って血を払いながら、相変わらず自分の時代基準で物事を考えては首を捻っていた。

 すぐにまた複数のマナが近づいてくるのを感じ、気を入れ替える。

 ただし、そのマナの気配から察するに、十人よりも多い。

 盗賊の数を誤認していたのかと考えたが、その内の半数近くのマナが弱々しいのに気が付いた。


(ふむ……人質と来たか)


 ランベールの予想通り、盗賊達は明らかに仲間ではない様子の女子供を連れて現れた。

 人質達は手を縄で縛られて、首に結ばれた縄で引っ張られている。

 口には、布の詰め物がされていた。人質は三人おり、一人に付き一人の盗賊がついている。


(盗賊の数は十人……これで全員と考えてもよさそうだな)


 一番後ろには、細身の狡猾そうな男と、禿げ頭で唇の分厚い大男が並んで立っていた。

 大男は無感情な、硝子玉のような目をしていた。

 手には、頭頂部が切り取られてぽっかりと空いた髑髏を鷲掴みにしていた。

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