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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第二章 都市バライラの英雄譚
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第十七話 死霊の群れ②

 都市バライラの貧民街にある魔法具雑貨店の地下にて、ランベールは十二人の魔術師と対峙していた。


「残念だったな。お前は、我ら裏ギルド『闇夜の時計塔』のアジトを暴き、不意を突いて潜入した……そういうつもりだったのだろう? 違うんだよなぁ、俺が、お前をここに誘導したんだ。俺らのことを、犬みたいに嗅ぎ回ってる奴がいるって聞いてな?」


 十二人の魔術師の中で最も歳上の、四十代半ばの男がランベールへとそう声を掛けた。

 顔に彫られた入れ墨と、濁った三白眼が特徴的であった。

 口から覗く舌の先には金のピアスが付いている。

 彼の名はニドヴァール。毒蛇のニドヴァールの二つ名を持つ魔術師である。

 裏ギルド『闇夜の時計塔』のギルドマスターであり、レギオス王国内にて指名手配を受けている。


「お前に泣きついた女がいたろ? 『闇夜の時計塔』に恋人を殺された、仇を討ってくれって。残念だったな、あれ、俺の女なんだよ。なかなか美人だったろ? 面白いくらいコロっと引っ掛かってくれたぜ」


 ニドヴァールが言うと、他の魔術師達が声を上げて笑う。


「袋の鼠ってわけだよ鎧野郎」

「さっすがニドヴァール様! 追い掛け回されてると知れば、即座に攻勢に出る」

「命乞いして見ろよ? 面白かったら、ニドヴァール様が見逃してくれるかもしれねぇぜ?」


 しばらく間を置いてから、がっかりした様にランベールが零した。


「一応見に来てみたが……やはり、ただの小物だったか。時間を無駄にした」


 肩を落とし、鎧兜に手を当てて落ち込むランベール目掛けて、彼を円状に囲んでいる魔術師達が、各々に杖を構え始める。


「殺すんじゃねぇぞ。奴が誰の命令で俺らを探ってたのか、聞き出さねぇといけねぇからな!」


 その声を合図にした様に、一斉に炎の魔弾が放たれた。

 次の瞬間、顔を伏せていたはずのランベールの姿が途切れ、別の場所へ現れる。


「あ……?」


 ランベールは不規則に放たれた炎の魔弾を、まるで鎧など纏っていないかのような身軽さで掻い潜る。

 持ち前の神速に比べれば、炎の魔弾など止まっているに等しかった。

 途切れ、現れ、途切れ、現れる。視界内に収まっているはずであるのに、その動きに、ニドヴァール達の動体視力は対応することができなかった。

 円状に並んでいた魔術師の一人の前に、ランベールが姿を見せる。


「あっ……」


 魔術師がランベールの接近に気付いたその直後、振るわれた大剣が魔術師の首を刎ね、蹴飛ばされた胴体は後ろの壁に叩きつけられていた。

 すぐさま横に跳び、その隣の魔術師の首を刎ねる。

 それが終われば、また次の魔術師の元へと駆ける。


「と、止まれ! 止まれぇっ!」


 魔術師の一人が、ランベールへと杖を向ける。

 震える手で魔弾を撃ち込もうとするも、正面から向かって来るランベールのプレッシャーに負け、無意識の内に手を降ろしていた。

 結果、必然的に完全なる無抵抗でランベールに首を刎ねられることとなった。


 ランベールがぐるりと円を描くように走り、囲んでいた魔術師を次々に斬り殺す。

 最後の一人は、ニドヴァールであった。


「い、いい気になるんじゃねぇぞ! 出でよ毒蛇!」


 ニドヴァールの杖先から、三匹の真っ赤な体表を持つ蛇が、ランベールを目掛けて真っ直ぐに放たれる。


 マナの作りだしたまやかしの蛇ではあるが、そのマナが尽きるまでは、意志を持っているものと同様の動きを見せる。

 そのため空中でも不規則に蠢き、避けても追尾する、

 三匹という数もあって、近距離から放たれたそれを完全に避け切るのは困難である。

 おまけに、牙に掠っただけで対象の意識を奪う猛毒を持っている。

 牙でなくとも鱗に触れれば、その部位が麻痺して十全に戦うことができなくなる。


 厄介な飛び道具である。

 ニドヴァールの代名詞ともされる魔法であった。


 当然、ランベール相手には意味をなさない。

 ランベールは大剣をぐるりと円を描く様に回し、三匹の猛毒蛇の頭を弾いた。

 仮に放っておいたとしてもランベールの魔金オルガン鎧に弾かれて潰れていたが、ランベールは四魔将にのみ与えられるこの鎧に愛着を持っており、汚い蛇の毒で汚されるのを嫌ったのである。


「ま、待て! お、おお、俺のバックには、あの『殺戮曲馬団』が付いてるんだぞ? 俺を殺したら、お前はあいつらから一生追われることになる! そうなったら、一生あいつらの影に怯えて暮らすことになる。安心して眠れる夜は来ないと……」


「生憎だが、睡眠は不要でな」


 そもそもランベールは、『殺戮曲馬団』のサブマスターの一人をつい最近殺したところである。

 目を付けられるならば、そのときにとっくに付けられているはずであった。

 今更そんな脅しに屈する意味など皆無である。


 ランベールの放った突きが、ニドヴァールの胸部を貫き、壁に串刺しにした。

 ニドヴァールの身体が宙に浮き、だらんと手足が垂れる。大剣が引き抜かれると、ニドヴァールは床に倒れた。


 ランベールはニドヴァールの死に顔を見下ろした後、首を振って溜め息を吐いた。


「……ハズレだな」


 ランベールは単独で『笛吹き悪魔』の調査を進めていた。

 『笛吹き悪魔』が近く都市バライラへと襲撃を仕掛けるつもりならば、既に潜伏していると考えられる。

 先手を打って潰すことはできないかと、情報収集をし、胡散臭い魔術師の溜まり場となっているところを探っていたのである。


 ランベールは大剣を鞘へと戻し、『闇夜の時計塔』の拠点を後にした。

 その後も貧民街を歩いていると、汚い継ぎ接ぎの布を纏った乞食が目についた。

 貧民街には珍しくない風貌であったが、殺気を一瞬感じたのである。

 ランベールが足を止めると、乞食は起き上がり、ランベールとは逆方向に駆け出した。


 その走りを見て、ランベールは確信を持った。

 乞食の変装をしているのは、戦神ロビンフッドである。

 正体を隠して都市バライラを歩いていたところをランベールと遭遇し、誤魔化しきれないと悟って一気に逃げることにしたのだ。


 ランベールも素早くロビンフッドの後を追う。


「悪いな、もらうぜ」


 ロビンフッドは馬を連れて歩いていた男を蹴り飛ばして身軽に馬に乗り、足で腹の側部を蹴って駆けさせる。

 居合わせた人達は、巻き込まれまいと慌てて道を開ける。


(どうにか逃げ切れたな。まだ俺は、死ぬわけにはいかないんでね……。しかし、街道で馬を走らせてちゃあ、悪目立ちするな。とっとと適当な場所で降りて……)


 馬を減速させたその時、背後から悲鳴と歓声が上がる。

 馬蹄の如く大きな足音が耳へと入る。

 加えて殺気を感じとったロビンフッドは、まさかと思いながら振り返った。


 ロビンフッドが振り返る。

 目線の先には、大鎧の男が、馬に劣らぬ速度で自分へと向かって来るのが見えた。


「……悪い冗談だろ」


 ロビンフッドは馬の速度を上げながら変装用の布を脱ぎ捨て、その中に隠していた弓を手に構えて半身だけ振り返る。

 そして追ってくるランベールへと矢を撃った。

 それをランベールは、迷いなく叩き斬って落とす。

 まったく減速は見られなかった。


 ロビンフッドの顔が青くなった。

 さすがにあり得ない。出鱈目すぎる。


(クソッ……愛馬のセラフなら、逃げ切れるのに!)


 貧民街の通りを抜けても、ランベールに減速の様子はない。

 まるで疲労を感じさせない走りである。

 ここからは人通りが更に増える。


 どうにもならないと踏んだロビンフッドは、馬の背を蹴って飛び上がり、宙でくるりと回ってから着地した。

 狭い道に入り込んで逃げようと考えたのである。

 すぐさま、近くにあった大きな建物脇へと駆けこもうとし、ぴたりと足を止めた。


「…………?」


 ランベールは、そのロビンフッドの様子を訝しんだ。

 足を止めれば、それだけ自分に追いつかれる可能性は増す。

 正体が露呈するリスクを踏まえた上で全力疾走を即断し、迷いなく通りがかりの馬の強奪を行うほど行動力のあるロビンフッドが、なぜここに来て唐突に足を止めたのか。


 ロビンフッドの目前の建物の扉が、内側から蹴破られる。

 中からは、殺気だった様子の冒険者達が溢れる様に這い出て来た。


 冒険者達は白目を剥いており、口からは涎を垂れ流している。

 そして彼らは共通して動きがやや固く、妙な癖があるようだった。

 その様子からは、圧倒的に生気が欠けていた。


(あの様子……動きの精度の悪さ、大規模型の死操術か!?)


 街中で大型死操術を扱うような真似をする人間は、そういない。

 『笛吹き悪魔』が動き出したのだと、ランベールは察した。


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