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元将軍のアンデッドナイト 作者:猫子

第二章 都市バライラの英雄譚

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第十三話 領主モンド伯爵⑤

「『踊る剣』の方々が、表の方に来ていると……な、何があったんですか!?」

 門前へと息を切らしながら現れたのは、モンド伯爵家の使用人の少女、ミグルドであった。
 その際に彼女の見た光景は、大鎧の男に向かって土下座する門番二人と、恐怖に表情を歪めて気を失っている私兵団長グラスコの姿であった。

 ミグルドは、私兵団長グラスコが真っ先に門へと向かったと知り、ひと悶着起こすつもりなのではないかと慌てて後を追いかけてきたのである。
 グラスコは血の気が多く、また自分の領分を侵しかねない冒険者を酷く嫌っていた。
 特に今は、『踊る剣』のギルドが、私兵団が熟せなかったユニコーンの角の回収を遂げてしまい、特に苛立っていたところであった。

 しかしまさか、それがこんな結果になっていようとは、思いもしなかった。

 大鎧の男……ランベールは、唖然とするミグルドへと兜を向け、大きく頷いた。

「すまないが、喧嘩をした」

「え、ええ……?」

 ミグルドは困惑気味に、気を失っているグラスコへと目線を落とす。

 私兵団長、グラスコ。
 貴族の長男であったが乱暴者で頭も悪く、自領の民を相手に派手に暴行を加えたことも何度もあったため領民からの評判も悪く、そういった理由から家督を弟に奪われて家を出され、モンド伯爵の私兵となっていた。
 建前ではモンド伯爵に腕を買われて剣士として人に尽くす道を選んだということになっているが、家の看板にこれ以上泥を塗る前に他領へ飛ばされたというのが実情である。

 おまけに狡猾で外見に似合わず慎重派であり、勝てない勝負は絶対にしない性質である。
 親の方針で幼少から剣術を仕込まれており、体格も大きく力もあるため、剣士としても、それなりの腕前は持っている。
 そんなグラスコが、こうもあっさりと伸びているというのは、普段のグラスコを知っているミグルドにはなかなか受け入れられない出来事であった。

 グラスコから何か仕掛けたのは間違いないとミグルドも思ったのだが、さすがに独断でお咎めなしともいかない。
 かといって、ランベールを取り押さえようにも、その役目を担っているはずの門番が、震えたまま頭を上げられないでいた。

「ミグルドよ、これは何の騒ぎか」

 そこへ、低い貫禄のある声が響く。
 恰幅のいい初老の男である。
 顔には深く皺が刻まれているが、歳による衰えを感じさせない強い表情をしていた。

「モ、モンド様……その、グラスコ様が……」

 名を呼ばれ、初老の男――モンド伯爵は、地に寝転がるグラスコへと歩み寄り、溜め息を吐いて首を振った。

「儂の部下が迷惑を掛けたらしいな」

 モンド伯爵も、他の部下からグラスコが口端を吊り上げて意気揚々と門前へと駆けて行ったという話を聞いて事態を察知し、グラスコは自分以外の誰が何を言っても聞かないだろうと考えて出てきたのである。

 モンド伯爵は顔を上げてグラスコから視線を外し、ランベールへと目を向ける。

「なるほど、貴殿が噂の鎧の男か」

 ユノスはモンド伯爵がランベールに近づくのを見て、ランベールの斜め前へと自然に移動し、地に膝を突いて頭を下げた。

「……いえ、これはただの喧嘩です。私もこの場に居合わせておきながら、止められずに申し訳ございません
。彼を連れて来たのはこの私です。罰は私が謹んでお受けしましょう」

 それからちらりと、ユノスは念押しする様にランベールを見た。

「……顔を上げよ。そういうことにしてもらえると、儂も助かる。手荒い歓迎となってしまったようですまない。恥ずかしいところをお見せしてしまったらしい」

 ユノスが自ら罰を乞うたのは、モンド伯爵が無暗に人を罰する人柄ではないと前々から知ってのことである。
 場を丸く収めるには、相手方の肩を持つのが一番である。
 ランベールはユノスに泥を被せられた形になったが、ランベール本人は気にしてはいなかった。
 元々グラスコの決闘を受けた時点で、『踊る剣』の身代わりになって厄介ごとを引き受けるつもりであった。

 モンド伯爵へと連れられて、庭園を抜けて館の食堂へと向かう。
 廊下を移動する際に、ファンドが小声でユノスへと耳打ちした。

「ユノス様よ……あんな奴の肩を持ってやることはなかったんじゃないか?」

 あんな奴、とは当然グラスコの事である。
 ファンドを筆頭に、『踊る剣』の面子は、グラスコの一方的な物言いや子供染みた挑発に大分気分を悪くしていた。
 ランベールに顔面を叩かれて気を失ったため溜飲は下がったが、グラスコのためにランベールが泥を被り、自分達の頭目であるユノスが頭を下げることになったのには納得がいかなかった。

 ユノスは軽く微笑むだけで、ファンドには何も答えなかった。
 ファンドはそのユノスの笑みに引っ掛かりを覚え、顎の手を当てて視線を床へと下げて、歩みを遅らせる。
 顔を上げたときには、ユノスはファンドよりも少し前に出ていた。
 ファンドはユノスの頭部を眺めながら考える。

(ユノス様……随分と、機嫌がいい?)

 ファンドの予想は当たっていた。
 ユノスはグラスコに絡まれたときにはさすがに困惑していたが、騒動が落ち着いてからは、むしろ機嫌をよくしていた。

(いずれは蹴落とす相手だ。無能ならば、その方がいい。ただの馬鹿共だと思っていたが、この様子を見るに大馬鹿だったらしい)

 ユノスが機嫌をよくしたのは、私兵団長であるグラスコが無能であることを実感できたためである。
 ユノスの目的は、『踊る剣』を冒険者の都バライラ一の冒険者ギルドにし、私兵団を押し退けて領主であるモンド伯爵からの信用を得て、最終的には領の政治に口出しのできる立場にまで登り詰めることであった。
 『踊る剣』も、ユノスにとってはモンド伯爵に取り入るための手段でしかない。

 領主の私兵が役立たずだったからといって、苛立ちを覚えるようなことは決してない。
 むしろ彼からしてみれば、喜ぶべきことであった。

「此度のユニコーン討伐、ご苦労であった。儂の姪のクリスはここ数日死の淵を彷徨っておったが……ユニコーンの角を用いた霊薬によって、無事に安定しておる。今は絶対安静ではあるが……体調が整えば、ぜひロビンフッドを相手取った鎧の剣士と会いたいと言っておった」

 移動中、モンド伯爵が口を開いた。
 付き添って歩いていた使用人の少女ミグルドは、眉根を寄せてランベールを見上げ、ごくりと唾を呑んだ。
 ランベールがちらりとミグルドを見たので、彼女は慌てて目を逸らした。
 ミグルドは、今も鎧の大男が兜の隙間から自分の様子を窺っているのではないかと思うと、まるで十の魔物に囲まれたかのように背筋がぞくりとし、身体が重くなったように感じた。

(……クリス様にこの方を合わせたら、この威圧感に気圧されて病状が悪化するのでは……?)
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