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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第二章 都市バライラの英雄譚
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第六話 ユニコーンの角③

 タルミャはクラウンに再び斬り掛かろうと両刃ナイフを構えるが、その背後に立っているロビンフッドが弓を構えたため、咄嗟に距離を取った。

 通常ならば、あり得ない判断であった。

 タルミャは『踊る剣』の中では最速を誇っており、正面から放たれた矢など躱しきる自身があった。

 それでも、彼女の本能が、あの間合いは危険だと告げていた。

 ロビンフッドがただ弓を構えただけで、その周辺が死地へと一変したような感覚を覚えたのだ。


 ロビンフッドは弓を構えたままタルミャから目を放し、呆然とするクラウンの横へと馬を並ばせ、声を張り上げる。


「お前は外側から回り込め! お前とお前は、リーダー格の男を押さえろ! 残りは二手に分かれて、奥にいる非戦闘員を付け狙いながら相手の陣形を崩し、孤立した雑魚から片づけていけ! 俺が弓で援護して分散させる! いいか? ここに来て手を抜くんじゃないぞ! 死ぬ気で掛かれ!」


 ロビンフッドの言葉で、四十人からたったの八人にまで減っていた『殺戮曲馬団』の覆面男達が士気を盛り返した。

 今までとは全く違った勢いで『踊る剣』へと剣を向ける。


 的確な指示だった。

 『踊る剣』を崩すには、メンバー全体に隙ができないようカバーに当たっているファンドを足止めするしかない。

 ファンドを押さえれば、次は非戦闘員の感知魔術師のレッグを狙い、陣形の崩壊を誘う。

 『踊る剣』がレッグを見捨てるのならばそれも良し。動揺と士気の低下、不信感を招くことができる。

 残ったメンバーを各個撃破するのは不可能なことではない。

 統率の取れていなかった彼らの動きが一変した。


 戦局が見えていたところで、個々が動いても仕方ない。

 全体に正確に伝えなければ、また全員が従わなければ意味がない。

 その一番大事な役割を、ぽっと出の男があっさりと、いとも容易く熟してしまった。


 無理に感知魔術師のレッグを庇おうとした剣士へと向けて、覆面男の一人が背へと斧を投げ付けた。

 斧は剣士の背に深く埋まり、背骨を砕く。

 それに動揺した一人が、覆面男の挟み撃ちに遭い、腹に刃が掠めて膝を突く。

 その首が容赦なく撥ねられた。


「見事だ! よくやった! 後はたったの六人! 非戦闘員を抜けば五人だ! 勝利は目前だ! 士気を落とすな! だが、焦りすぎるな! そこのお前、もう少し間合いを取れ! 一時とはいえこの俺の下についたのならば、犬死は許さぬぞ!」


 ロビンフッドが叫ぶ。

 手柄を称えられた覆面男達はより士気を上げ、『踊る剣』へと襲い掛かっていく。

 四十対十で善戦を敷いていた『踊る剣』だったが、相手の数をほぼ同数まで減らしたここに来て、一気に戦局が厳しくなった。

 ロビンフッドは矢を引いたまま声を張り上げるばかりで、ボトムを仕留めて以来はただの一矢も放っていない。


「お、オメー……何なんだ……?」


 クラウンがロビンフッドへと声を掛ける。

 自分が頭を張っていたときは四十対十で苦戦していた相手を、八対十になってから盛り返されたのだ。

 それも、信頼も何もないはずの、通りがかりの男が、である。


 ロビンフッドはニッと笑う。男のクラウンでさえ一瞬心を奪われたような気になる、眩しい笑顔であった。

 クラウンは首を振って我に返る。


「部下があんなに頑張ってるんだ。そろそろ出て行ったらどうだ? あいつらじゃ、あのリーダー格の男は落としきれないぜ」


 クラウンは一度は逃げようとした身である。

 急に現れた若造に従う気にもなれず、かといって今離れるという気にもなれず、ただこの場に立っていたのだ。

 ロビンフッドの言葉を聞き、逡巡した後にごくりと唾を呑む。

 このままいけば、自身の目的は遂行できる。言うがままになるのは本意ではなかったが、どちらが得かは明らかであった。

 ナイフを構え、一直線に駆けだした。


 そのとき、戦場を挟んだロビンフッドの対面側に、一人の鎧の大男が現れた。


「これは何の騒ぎだ? 恰好からは、野盗かそれに類する連中に見えるのだが」


 ロビンフッドは目を細めて、鎧の男を睨む。

 ただ者ではないことは声色からわかった。

 強者は、それ相応の風格を伴っているものである。


「第三者、か……。お前達っ! 他への攻撃は牽制に留め、まずはあの男を優先して仕留めろ! 道化よ、お前の身軽さで確実に背後を取れ!」


 ロビンフッドの指示に従い、半数である四人の覆面が鎧の男を囲む様に散る。

 クラウンは木の枝へと飛んで、大回りして鎧の男の後へと回り込もうと試みる。


 四人の覆面は鎧の男の間合い外に立ち、各々の武器で牽制しながら、鎧の男の隙を突こうとする。

 次の瞬間、二つの血柱が上がった。

 確かに間合いの外側にいたはずだった。

 だが、鎧の男は大きく踏み込み、前方の二人の首を叩き斬ったのだ。

 あまりにも速い動きであったため、大剣の間合いが伸びたかのように錯覚するほどであった。


 鎧の男の左右に立っていた二人の覆面は、何が起こったのかわからず、武器を持つ手を震わせながら背後へと下がった。


「随分と毛色が違うように見えるが、お前がボスでいいのか?」


 鎧の男――ランベールは、左右と後ろを取られているにも関わらず、そんなことはどうでもいいというふうに、目線の遥か先にいるロビンフッドを睨みつけた。

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