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元将軍のアンデッドナイト 作者:猫子

第二章 都市バライラの英雄譚

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第四話 ユニコーンの角①

 ランベール達とは少し離れたところで、都市バライラの一流冒険者ギルド『踊る剣』の十人の冒険者が『迷い人の大森林』を馬で駆けていた。
 『踊る剣』は真っ当なギルドであり、バライラの領主であるモンド伯爵や住民達からの信頼も厚い。

 彼らが森を訪れた理由は首のないアンデッド、『悪夢の大馬』ではない。
 この『迷い人の大森林』で、ユニコーンという額に一角を持つ美しい白馬の魔物を発見したという報告が、最近されていた。

 ユニコーンの角は穢れを払う魔力があり、呪いを跳ね返す強力な霊薬の材料として重宝されている。
 とはいえユニコーンは警戒心が強く、その数も多くない。
 ユニコーン自体も非常に獰猛な魔物であり、そのため角の希少価値は非常に高い。
 常に求める人間がいるため、どこかに余っているものでもない。

 そのため病に伏したモンド伯爵の遠縁に当たる貴族家の令嬢が、遠くの地から都市バライラを訪れていた。
 本来ならば使いの者に取りに行かせるところだが、事態は急を要するということで本人が直接都市バライラへと連れてこられている。

 都市バライラは冒険者ギルドの発達した都市であるため、大抵の用事は冒険者を使えば賄える。
 モンド伯爵自身も冒険者ギルドの発展に力を注いでいたため、私兵は最低限の戦力しか持っていなかった。
 そのため高額で各ギルドに依頼を出してはいるのだが、そこにきて『悪夢の大馬』騒動であり参加したがる冒険者ギルドがあまりおらず、ユニコーンの角の用意がすっかりと遅れていた。
 ギルド『踊る剣』も、どうにか上層メンバーの都合を合わせて、ようやくユニコーンの討伐に出る準備が整ったのだ。

「レッグ、周囲から反応はあるか?」

 一番大きな馬に跨る、頬に剣傷のある、赤い短髪の大男が声を張り上げて叫んだ。
 彼の名はファンド。此度のユニコーン討伐におけるリーダーをギルドマスターから任命されていた。

「ファンドさん……今のところ、大きな魔物の気配はありません……。予想通り『悪夢の大馬』を恐れてか、他の冒険者も皆無の様です。あっ! 今、五百ヘイン(約五百メートル)の間に、中型魔物を発見しました。それから……続けて、気配偽装魔法の痕跡あり。ノイズの可能性が高いですが、一応気をつけておいてください」

 それに応えるのは、ファンドの斜め後ろに馬を並走させている、背の低い少年レッグである。
 前髪が長く、目をほとんど覆い隠してしまっている。
 彼は馬を操りながらも、逆の手でずっと杖を構え、目を瞑っていたが、ファンドから声を掛けられて目を開き、そう報告した。

 レッグは十二歳にして感知魔法の天賦の才を発揮し、この冒険者の都、都市バライラでも指折りの感知型魔術師となっていた。
 彼はその才覚のため、父親に八歳の頃から危険な狩りへの付き添いを強いられていたため、この歳にしてそれなりの経験も持っていた。

 『踊る剣』がユニコーン討伐を買って出たのも、レッグの能力を期待している面が大きい。
 レッグの魔法ならば『悪夢の大馬』を避けられる上、ユニコーンの探索も可能である。
 おまけにレッグの魔法の中には方角を確認するものもあり、『迷いの大森林』に万が一にも囚われずにすむ。

「アタシら狙って来るような度胸ある奴いたら、とっくに角の回収に向かってるわよ。アンタはビビりすぎんのよ」

 女冒険者タルミャが笑う。
 金の長い髪に、あまりに華奢な細身の身体。
 おまけに動きづらいと防具や鎧を嫌う彼女は、一見して冒険者にあまりに不向きであるが、その実『踊る剣』の総勢三十人のメンバーの中で、四番目に入る実力者である。
 身軽さを活かした素早い特注の両刃のナイフ捌きは一流冒険者の中でも上位に入る。
 ただ何分露出度の高い服を好むため、腕や胸元、足に目立つ擦り傷や切り傷を負っていたが、それも彼女の野性的な魅力に一役買っていた。

 レッグの感知に基づいて中型の魔物を追い、ついに『踊る剣』の一派はユニコーンを見つける。
 ユニコーンは水を飲んでいたが、横目で彼らの姿を捕らえ、顔を上げて息を荒げた。
 額から伸びた角は、ユニコーンの頭部よりも長い。ユニコーンの中では、かなり角が大きい部類だ。

「ありゃあ、大物だな……突かれたらまず助からんだろう。囲んで矢を射ろ! レッグは退っていろ、俺とタルミャ、メルクが距離を詰めて斬り掛かる!」

 ファンドが的確に指示を出し、隊をばらけさせてユニコーンを囲んで逃がさないようにし、じりじりと距離を詰める。
 矢は、硬いユニコーンの皮にはあまり深くは刺さらない。だが確実にダメージを与えていた。
 やがて一本の矢がユニコーンの目に当たる。ユニコーンが激怒し、包囲の薄い部分へと頭を下げて角を突き出して駆け、突破しようとする。
 その瞬間、タルミャが乗っていた馬を蹴って跳びあがり、宙で回転しながらユニコーンの首元を斬りつけた。

「はい、ここぉっ!」

 素早い三連撃がユニコーンの首を斬った。
 ユニコーンが血の流れる真っ赤な目でタルミャを睨み、後ろ足で蹴り飛ばそうとする。
 その隙に横から接近していたファンドが、大斧でユニコーンの首を豪快にぶっ叩いた。
 ユニコーンの首に大斧が突き刺さる。
 ユニコーンは非常に皮が硬く、分厚いため、切断には至らない。だが、首の骨をへし折ることに成功した。
 ユニコーンがその場に倒れる。

「思ったより脆いじゃん。ユニコーン、もっとしぶといって聞いてたけど、こんなに慎重に行う必要、なかったんじゃない?」

「一応前出たんですけど、私の出番はなかったみたいですね」

 抜いた剣をそのまま仕舞いながら、トルクが苦笑いをする。

「俺が強すぎたな、ハッハ。ま、所詮は中型魔物だ。人員増やしたのは道中の警戒がメインだしな。あんまりレッグに依存し過ぎてっと、こいつになんかあったとき絶滅しちまうぞ? な、レッグよ。しっかし、これでまた俺達は名を上げちまうな!」

 ファンドが馬を降りてレッグの髪をワシワシと撫でながら、冗談めかしたふうに言う。
 普段ならすぐに顔を顰めて振り解くレッグだが、今日はされるがままにされていた。

「どうしたレッグ?」

「……ノイズじゃ、なかったみたいです。急速に近づいてきて、今は、すぐそこまで」

「なにィ?」

 ファンドはそれを聞いて、素早くレッグの言いたいことを察した。
 ファンドは聞き流したようで、心にはしっかりと留めていた。
 気配を消して潜伏している者が隠れている、ということを。
 レッグが感知で拾ったのは、正しく気配偽装魔法の痕跡であったのだ。

 キラッと、森に奇妙な光が走る。

「全員、屈め!」

 ファンドは叫びながら斧を前に突き出す。
 飛来してきた針を、ファンドの斧が弾いた。
 他の面子もファンドの声に反応して咄嗟に地面に伏せ、針を回避した。

「オイオイ、オイオイオーイ。お前ら、反応よすぎんだろ。少なくとも半分はヤレると思ってたのによ」

 森の闇から、一人の男が現れる。
 顔は白化粧をしており、その上から赤色で模様を付けている。
 白と紫の縦縞の服で身を包んでおり、如何にも胡散臭い風貌の男であった。
 白化粧の上からわざとらしいぱっちりとした目が書かれているが、目を開くと上がった瞼に隠れ、残忍な三白眼が姿を見せる。

「お前は……『殺戮曲馬団』の、サブギルドマスター、クラウン!」

 ファンドが忌々し気に睨む。

 『殺戮曲馬団』とは裏ギルドの一つであり、決まった拠点を持たず、移動しながら依頼を受けて行動していた。
 構成員の多くは正統ギルド崩れやチンピラではあるが、ギルドの上層部が独特の闘術を仕込んでいるため、侮って掛かることはできない。
 おまけに『殺戮曲馬団』はとにかく人数が多い。
 規律を守らず表を追放された冒険者や、職にあぶれたチンピラは多い。
 それらを都市を渡ってかき集めているので、当然といえば当然である。
 元々がただのゴロツキなので、死のうがいくらでも替えの利く人間だ。
 その数、総勢で百名以上にもなるとされていた。 

 膨大な人数のメンバーを指揮するため『殺戮曲馬団』には三人のサブマスターがおり、それぞれが半ば独立して行動を行っている。

 クラウンというのは男の『殺戮曲馬団』での名であり、他のサブマスターよりも表に出て動き回ることが多いため、広く悪名を知られていた。
 だが独特なメイクを落とせばすっかり群衆に紛れてしまうため、クラウンの正体を知る者はいない。
 『殺戮曲馬団』の幹部は皆、メイクと奇抜な言動で正体を隠して行動する。

「そうか……俺らをつければ、『悪魔の大馬』を避けて、ユニコーンにも楽にたどり着けると思ったんだな」

「噂通り、せこい奴らみたいね。不意打ちが失敗したんだから、とっとと消えたらどう?」

 ファンドとタルニャの声を聞いて、クラウンがわざとらしく長い足を曲げ、耳を澄ませるように手を当てる。

「あ? なんだって? 的外れ過ぎて、ちゃんちゃらおかしいって奴だ! 一つは俺達はそんなせこい奴らじゃないってことで、もう一つは、オメーらは全員、ここで死ぬってことだが?」

 言うなり大きく手を叩き、周囲へと呼び掛ける。

「出てきていいぜ、オメーら! どうせ今のでバレてんだ。おら、仕事だ仕事! 男は殺せ、女は犯して殺せ! ガキは使い道あるからとっとけよ、趣味なら掘ってもいいぜ」

 クラウンが甲高い裏声で耳障りな笑いを上げる。
 森奥から、顔の描かれた頭巾を頭部に纏った男達が姿を現す。
 彼らの異様な雰囲気のためか、彼らが跨っている馬も、ファンド達にはどことなく不気味なものに見えていた。
 武器は針や弓、剣、棍棒と、各々バラバラのものを手にしており、統一感はない。

「な、なんだと……?」

 ファンドが驚いたのは、その数である。
 クラウンの部下は四十人であった。この場にいる『踊る剣』の四倍である。
 大手のギルドでもまず動かせる数ではない。それができるのが『殺戮曲馬団』の最大の強みであった。

 ファンドは慌てて周囲を見回す。
 綺麗に囲まれており、逃げ場はない。

「驚いただろう? まずは俺が追跡して、残りの奴には距離を開かせて俺を追わせてたんだよ。んで、オメーらが手こずってる間に包囲したって寸法よ。さて、『殺戮曲馬団』の曲芸を、観衆にお披露目してやろうじゃねぇか! 今日の演目は、逆さ首吊り体験コーナーだ」

 クラウンが舌を突き出して叫ぶ。
 覆面軍団が一斉に襲い掛かっていった。 
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