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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第一章 蘇った英雄
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第三十三話 オーボック伯爵②

 ランベール一行は崩れる通路を進み、アインザス地下迷宮の出口へと向かっていた。

 フィオナ、ロイド、リリーの三人はビクビクしながら歩いていたが、修羅場に慣れっこのランベールは堂々と歩き、落ちてきた瓦礫は大剣を鞘ごと振るって跳ね除け、彼女ら三人を守っていた。


「あまり気を抜いてぼうっとするな」


 ランベールは自身の倍近い質量を持った大瓦礫を肩で受け止め、恐怖で腰を抜かして座り込んでいたリリーへと声を掛ける。

 危険な落下物が多々存在するこの通路で頭上の警戒を怠っていたリリーの気を引き締めようと思っての言葉であった。


「……」


 ただ、リリーとてぼうっとしていたわけではない。

 唸りを上げながら豪速で落下して来る瓦礫を前に冷静に対処しろという方が無茶なのだが、ランベールは些か常識がズレていた。


 彼らの歩む地下一階層は、更に下の階層と比べれば崩壊がまだ緩やかであり、ランベールのフォローもあって安全に脱出することに成功した。


「よ、ようやく外の光が見えてきましたね……」


 フィオナは地上へと続く階段を上りながら、疲れ果てたようにそう口にする。

 低級魔物を狩るだけの簡単な依頼であったはずなのに都市アインザスの最大ギルドにつけ回された上、ランベールに連れ回されて前人未到の最下層まで進まされ、挙げ句の果てには崩れる迷宮の中を走り続けることになったのだから、肉体的にも精神的にも限界を迎えていることは無理もなかった。


 もっとも『魔金の竜』を単体で壊滅に追い込み、凶悪な魔物を片っ端から斬り伏せ、二百年間地下深くに居着いていた怪人ドーミリオネを処分したランベールは、悠々と肩で風を切りながら歩いていた。

 それはきっと、マナが尽きるまで動き続けることのできるアンデッドの身体を持っているから、というだけではなかった。


 崩壊の音を聞きつけてか、迷宮の出入り口周辺にはちょっとした人だかりが出来ていた。

 フィオナ達が躊躇っている中、ランベールは階段を上り切って衆目に身体を晒し、そのままギルド『精霊の黄昏』の場所へと向かって歩き始めた。

 そのあまりに堂々とした姿に周囲の者もしばし動けずにいたが、一人の男が思い出したように首を振り、ランベールへと駆け寄ってきた。


「お、おいアンタ、迷宮の中では何が……」


「悪いが、今は先を急いでいる」


 ランベールは首元を微かに動かして鎧の下から男へと視線を向けるが、足を止めることはなかった。

 男はランベールの態度に気圧され、その場に立ったままぽかんとしていた。


「お、おい、ランベールのおっさん!」


「なんだ?」


 ランベールはロイドから声を掛けられて応じたものの、振り返る素振りを見せない。

 仕方なくロイドが駆け足でランベールの横へと並び、再び声を掛ける。


「い、いや、なんか説明くらいっつうか……俺達も、何がなんだかわかんねぇままだし……。それにその、あまりに動じなさ過ぎっつうか……」


「命令を受けて動いているのだから、予想外のことが起きればその対処と、主への報告が最優先であろう。今の俺は、雇われの身であるからな。お前達もそうだろう?」


「い、いや、でも……」


 ロイドは頭の中でまだ考えが整理できていなかった。

 ランベールの答えに何も返せずに黙り込んだ。


「も、もう少し、落ち着くまで待ってもらえませんか? ここには、知人の安否を心配して見に来た方もおられるようですし……」


 フィオナから声を掛けられ、ランベールはぴたりと足を止めて振り返った。


 ランベールから不興を買ってしまったかと思ったフィオナはびくりと肩を震わせた。

 他の者が声を掛けても足を止めなかったランベールが即座に行動で反応を示したため、ランベールが怒っていると捉えてしまうことは無理もなかった。


 フィオナはなぜ地下迷宮が崩壊したのか、なぜ『魔金の竜』から狙われていたのか、状況はまったく掴めていなかった。

 しかし、ランベールにまた命を助けられたということは勿論理解している。

 そんな身で、出過ぎたことを口にしてしまったかと考えたのだ。


 ただ、ランベール自身はまったく別のことを考えていた。


『ランベールよ。少し、疲れてしまったようだ。お前が勤勉なのは嬉しいのだが……今日はもう少し、ここにいてはもらえぬか?』


 フィオナと瓜二つのかつての主君、オーレリアとのことである。

 オーレリア自身の判断が裏目となり、停戦協定を結んだ国からの痛烈な裏切りによって大量の死者が出たときのことであった。

 オーレリアの見通しが甘かったというよりも、敵参謀の悪辣さが八国統一戦争時代においても秀でていたことの方が原因ではあったが、それでも被害の数を思えば、彼女が気に病まないわけはなかった。


 フィオナの声を聞いたとき、そのときのオーレリアの顔が頭を過ぎったのである。


「あ、あの……」


「……それもそうだな。ただ、俺はジェルマンへとすぐに確認したいこともある。一度ここで別行動を取るとしよう」


「え? は、はい!」


「……なぁ、俺のときと全然対応が違くねーか?」


 ロイドがぽつりと不平を漏らす。

 ランベールはやや顔を逸らして、聞こえない振りをした。


「なな、なぜ、貴様らだけが、無事で……!」


 アインザス地下迷宮に入る冒険者の管理を行っていた役人が、ランベールを睨みながら呟いた。

 ランベールが睨むと、はっと口に手を当ててたじろいだ。


(入ったときから様子がおかしかったが……やはり、オーボック伯爵とやらから指示を受けていたようだな)


 ランベールは役人の戸惑う様子を見て、そう結論付けた。

 オーボック伯爵は村の盗賊騒動のときからランベールが追っていた相手である。

 向こうから仕掛けてくるのならば、むしろ好都合といった心積もりであった。


 ランベールが軽く瘴気を当てると、役人はその場にひっくり返り、両手を地につけた。


「ひっ……!」


 不意に強烈な殺気を感じて歯の根が合わなくなった役人には、自分がランベールに気圧されたのだとしか思えなかった。


「伯爵に伝えておけ、近い内に顔を合わせることになるだろう、とな」


「な、なな……!」


 ランベールは呆然とする役人を尻目に、フィオナ達を置いて『精霊の黄昏』のギルドへと向かって駆け出した。

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