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元将軍のアンデッドナイト 作者:猫子

第一章 蘇った英雄

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第三話 アンデッドナイト③

 鎧骸骨こと、レギオス王国の元将軍ランベールは、己の構えている剣の刃を見て唖然とした。
 剣には、鎧を着込んだ骸骨が映っていたからである。
 眼窩の奥には赤い炎が灯り、怪しげな光を放っていた。

 ランベールはアンデッドにされたものの、自我ははっきりとしていた。
 これは彼の意志と未練の強さが、マニガの想定を遥かに超えていたためである。
 マニガもまさか、自分が目を付けた骸骨が八国統一戦争時に非業の死を遂げた大英雄だとは、思いもしなかったのだ。

「な……なんという……なんという……」

 声は不思議と生前のままであった。
 眼窩の奥、頭蓋の中央にあるマナの塊より、直接発されているのだ。

「やはり、俺は死んで……レ、レギオス王国は……」

 そう考えたとき、ランベールの頭にグリフとの一戦のことが過った。
 そしてそのまま、主君であるオーレリアの美しい顔が脳裏に浮かび、彼女に裏切られたことを連鎖的に思い出した。

「……いや、裏切られたのではない。王として……必要なことだったのだ」

 そうは口にしてみたものの、彼女への恨みは完全には取り払えてはいなかった。
 オーレリアも自分のことを親友であると、そう考えてくれているとずっと信じていたのだ。
 ランベールは国のためというよりも、オーレリアのために剣を振るっているという意識が強かった。

 彼女のために命を差し出すことを惜しいと考えたことはなかった。
 ただ彼女の意志で不穏分子であると判断され、殺されたということは、ランベールにとって何よりも悲しかった。

(未練により、魔物となって蘇ってしまったというのか。我ながら、何と女々しいことか……)

 ランベールは自らを恥じた。

 頭蓋の奥に、マナの集まりを感じる。
 その二カ所が、現在のランベールの力の源となっているのだ。
 ランベールはそのことを本能的に察し、これを突いて自刎しようかと考えたが、思い留まった。

(戦争が……レギオス王国がどうなったのかを、知りたい……)

 ランベールは鎧兜が転がっているのを拾い上げ、頭に被った。
 人前に出ても、鎧兜を被っている限りはランベールがアンデッドだとはわからないはずだ。

 裏切られ、殺された身ではあるものの、祖国に戦争を制してほしい、主君をウォーリミア大陸西部の統一王にしたいという思いには変化はなかった。

(それにしても……奴らはなんだったのか)

 ふと、後ろに転がっている死体へと目を向ける。

 血の沼のなかに崩れ落ちる、少年の下半身。
 先ほどランベールが横に切断した、ネクロマンサーのマニガである。

 マニガは八歳にして名門家の白魔術を極め、禁忌とされている死操術へと手を染めた天才魔術師である。
 現在は十四歳だったが、『笛吹き悪魔』の一員として既に名を広く知らしめていた。
 遊び半分でアンデッドの大群を村に嗾けて潰し、新たなアンデッドの山を作ることなど、彼にとっては日常茶飯事である。

 『笛吹き悪魔』の中でも上位クラスの危険度として、賞金首として扱われていた。
 討伐危険度は魔物基準の五段階評価で下から四つ目、巨鬼トロル級である。
 討伐するには、二十人以上の一流の戦士が必要とされていた。

 もっとも巨鬼トロル級と設定されているのは、マニガのネクロマンサーとしての能力を重く見てのことであった。
 今回は準備がなかった上に不意打ちで片が付いてしまったため、あまり関係のない話である。

(レギオス王国を滅ぼすと言っていたような気がするな。ならば、マキュラス王国の者か? どの間眠っていたのかわからなかったが、どうやら、まだ戦争は終わっていないらしい。グリフめ、俺が助太刀に入ったらどんな顔をするか……)

 遠くに転がっている憐れなマニガの上半身を見て、ランベールは溜め息を洩らした。

(それにしてもマキュラス王国の奴め、惨いことをする。こんな、明らかにまともに訓練も積んでいない子供を、戦地の中心であるオーグラン渓谷へ送り込むとはな。よほど人材が足りないと見える。ならば早急に降伏してしまえばいいものの……)

 ランベールは、マニガが斬られる直前に浮かべていた恐怖の顔を思い返し、戦闘の素人だと思い込んでいた。
 実際には、いつも遠巻きに手を下していたため、殺される覚悟がまるでなかっただけである。
 そんなことを知らないランベールは、この少年が村を幾つも潰したネクロマンサーだとは思いもしない。

 純粋な魔術の腕だけを見れば、マニガよりもブルイグの方が実力は高く、戦闘経験も豊富である。
 しかし彼は、マニガよりも一つ下の大鬼オーガ級として扱われていた。
 それでも人を喰らう不死身の悪鬼と称されるほどタフな怪物と人間が並ぶのは、かなりの異例のことである。

 ブルイグの卓越した魔術の腕は、並の魔術師では比にもならない。
 魔術発動時間とスパンを大幅に押さえた独自の連続魔術は、通常の人間に凌ぎきれるものではない。
 ブルイグが自身への反動を顧みずに魔術を連打すれば、何人であろうが近づくことさえ難しい。
 ブルイグの操る土に搦め取られて身動きを封じられ、その後に確実に命を奪われることであろう。
 土のある場所はすべてブルイグの領域である。
 『土蜘蛛のブルイグ』と恐れられるが所以である。
 人間との一対一ならば負けようがないと、ブルイグはそう考えていた。
 まさか土の拘束を強引に振りほどかれ、正面から頭蓋ごと真っ二つにされるなど思いもしないことであった。

 これもランベールにとっては知らないことであり、同時にどうでもよいことであった。

(発動は多少速いが、威力はまるでなかったな。それに早いとはいえ、自我がはっきりしていれば十分に避けられたであろう速度だった。歳で衰えていたところを、無理に連れてこられたのか……)

 ランベールの生きた戦乱の時代は、実力こそがすべてであった。
 誰もが死に物狂いで剣と魔術を極め、己のすべてを懸けて日々戦っていた。
 その極限状態の中で成長できない者はすぐに死んでいく。
 ランベールは、そんな時代の戦士達の頂点に立っていた男である。
 平和な国の少し横道に逸れた連中程度、まさしく赤子と老爺同然であった。

(子供と老人を使うとは、なんという非道な。自国だけではなく敵国の民のためにも、この戦争を早く終わらせなければならない……)

 ランベールは見当違いの正義感を抱き、崖底を駆けた。
 走りながら、オーレリアの顔を思い浮かべていた。

 整った美しい金髪に、強い意志の籠った碧い瞳。
 柔らかそうなきめ細かい肌に、形のいい気の強そうな眉。
 ランベールの前だけで時折見せる、いつもと少し違う、女性的な笑み。

 ランベールは胸の奥に痛みを覚えた気がして、胸を押さえる。
 しかし金属製の鎧を跨いだ先は、ただ骨の入った空洞である。
 目元を押さえ、涙さえ流れてこないことに気が付いて、一人で寂しく笑った。
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