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元将軍のアンデッドナイト 作者:猫子

第一章 蘇った英雄

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第二十五話 地下迷宮の主⑪

「どうして、『魔金の竜』が私達を……」

 フィオナは両腕を失い血塗れで呆然とするタイタンを睨みながら、そう口にした。
 タイタンは既に意識がないのか、何も考えられない状態なのか、返事はなかった。

「単に、攻略と被ったってだけじゃねぇのか。ついでに、恨みも晴らしとこうってところだろ。……ランベールのおっさんのことをもうちょっと知ってたら、絶対来なかったろうに」

 ロイドがそう推測を話した。
 ランベールもロイドの考えと概ね同じではあったが、それでも腑に落ちない部分はあった。
 ついでに弱小ギルドにちょっかいを掛けるにしては、少々力を入れすぎている気もする。
 タイタンの言っていた通り、ランベールのことを聞いて興味を持ったということも考えられるが……。

「お前達と『魔金の竜』の間に、あのクレイドル以外の因縁は何かなかったのか?」

「い、いえ、特に心当たりは……」

「そうか、ならいいのだが」

 ランベールはそう返しながらも、後で都市に戻ってからギルドマスターのジェルマンを問い詰める必要があると考えていた。

(思えば……妙に、この都市から移転することを焦っていた。『魔金の竜』がここまで直接的な行動に出るのは予想外だっただろうが、身の危機は感じていたのだろう)

 ジェルマンの言動を振り返ってみれば、気になる点も多い。
 どういった事情にせよ、ここまで巻き込まれたのならば、すべて吐いてもらうのが通りというものである。

 ランベール達が話をしている様子を、淡々と観察している男がいた。
 クレイドルである。ランベールの体当たりによって全身の骨を軋まされ、特に肩と武器を砕かれはしたものの、この場にいる『魔金の竜』の面子の中では一番軽傷であった。
 タイタンは両腕を失い放心状態であり、他の三人は身体を切断されて明らかに絶命している。

 だが、クレイドルだけはまだ精神的にも肉体的にも生きていた。
 元よりクレイドルは、執念深さとしつこさは『魔金の竜』随一の男と称された人物である。
 本人は嫌がっていたが。

(行ける……隙を見て駆け抜ければ、逃げられる……。いや、転がっている適当な奴の武器を拾って、あの女を人質にとってやるか? 駄目だ、焦るな……ここは確実に脱して、後で奴らを全員皆殺しにしてやる。鎧男は、毒でも盛ってやればいい)

 クレイドルは浅い水面に半身を埋めて動きと呼吸を抑えながら、必死にランベールを警戒していた。
 他の三人はともかく、ランベールからは一瞬たりとも警戒を外すわけにはいかなかった。
 『魔金の竜』の冒険者四人を相手取って、あっさりと無傷で全員斬り伏せたのだ。
 明らかに人外の強さであると痛感していた。

(フィオナ、ロイド、リリーを逃がしたら、あっちで寝ている奴の頭も刎ねておくか)

 なお、ランベールはアンデッドであるため生者を嗅ぎ分けることに優れており、クレイドル如きの死んだ振りなどあっさりと見破っていた。
 クレイドルの性質の悪さも前に対面したときに重々承知していたため、生かしておけばロクなことをしでかさないということもわかっている。
 向こうから殺しに来た相手を意味もなく見過ごすほどランベールは甘くなかった。 

「……なんでしょう? この、熟しすぎた果物のような匂いは?」

 不意にフィオナが顔を顰めた。
 ロイドも眉間に皺を寄せ、リリーと顔を見合わせる。

 三人共同じ匂いを嗅いでいた。
 熟れた果実……というよりは、蠅のたかる腐った果実のような、甘ったるい悪臭を。
 しかし残念ながら、今のランベールには嗅覚と味覚がなかった。

 だがその代わり、ランベールの眼孔に溜まったマナは、部屋内に広がりつつある気味の悪いマナの流れを感知、また視認していた。
 ランベールには、色の着いた紫に近いピンクのマナが空間に充満していくのが見えている。
 それは、奥の壁から漏れ出していた。

「お前達、早くここを出ろ」

「……ランベールさん?」

 フィオナ達は困惑していた。
 戻れば、また『魔金の竜』の面子と遭遇する恐れがある。
 それならば例え恐ろしい魔物が出ようと、ランベールの傍にいた方が安全である。

 フィオナ達が迷っているのを見たランベールは、瘴気を漏らしながら怒鳴る。

「早くここを出ろ!」

 フィオナはびくりと身体を震わせる。
 リリーがその手を握り、ロイドと共に大部屋の出口へと走った。

(……今だ! 隙あり!)

 クレイドルが起き上がって跳び、壁側で真っ二つになっている『魔金の竜』の冒険者の剣を手に握った。
 それから出口へとランベールを大回りに避けながら駆け抜けようとしたとき――すぐ後ろの壁に、大穴が空いた。

「……ん?」

 そこから顔を覗かせて出てきたのは、三ヘイン(約三メートル)はある巨大なツギハギだらけのクマを模したぬいぐるみである。
 ツギハギにはきついピンクに濃い青など、悪目立ちする色合いが多い。
 悪趣味な巨大なぬいぐるみは、見かけの柔らかさに拘らず、壁を殴り壊すだけの力があるようだった。
 空いた穴を広げてこじ開け、こちらの大部屋へと侵入してくる。

「な、な、な……!」

 ぬいぐるみは甘ったるい悪臭と共に、強烈な存在感を伴って大部屋へと姿を現した。
 大部屋を脱しようとしていた三人も、通路に入ってすぐのところであまりのことに足を止めて呆然としていた。

 ぬいぐるみは手にした大きな木の棒を振るい、クレイドルへと叩きつけた。
 素早い動きではあるが、クレイドルとて一流の冒険者。寸前のところで木の棒を回避した。
 木の棒の一撃は大部屋全体を揺るがし、クレイドルの足を取った。

「ひっ!」

 クレイドルはその場に転んだが、居座るのはまずいと判断して即座にその場から跳んだ。
 すぐ後ろを木の棒が殴りつける。

「ク、クソ!」

 クレイドルは起き上がりながら、ぬいぐるみの足へと剣を刺した。
 剣は表面で刺さり、すぐに止まった。ぬいぐるみの足から正体不明の液体が流れたものの、ぬいぐるみの様子に代わりはない。
 ゆっくりと木の棒を振り上げる。

「ま、待ってくれ! 僕は……!」

 ぬいぐるみはお前はもう飽いたとでもいうように、先ほどよりも速い木の棒の五連打を放った。
 大部屋が大きく揺れ、水飛沫が連続して上がる。
 クレイドルは一瞬の内に潰れた肉塊となり、原型さえわからなくなった。

「な、なんだよ、あの出鱈目な化け物……意味わかんねぇ……」

 ロイドは振り絞るように、辛うじてそれだけ口にした。

「ただの、幻覚魔術……。本当は、別の姿をしてるみたい」

 魔術師であるリリーには、ぬいぐるみが仮の姿であることに気が付いていた。

「そうだ。あの幻覚を解くことは容易い……が、そのときは、この世の地獄を目にすることになるぞ。俺は、あれを倒して崩れた壁の奥へ行く。安全は一切保証できん」

「…………はい」

 ようやく気を取り戻したフィオナがランベールに頷き、それからロイドとリリーへと目配せを行った。
 最後にランベールへと向き直る。

「……死なないでくださいね」

 ランベールはそれには答えず、ぬいぐるみと対峙した。
 フィオナ達の足音が遠ざかるのを聞きながら、しばし感傷に浸っていた。

(死なないでくださいね‥‥…か。殿下もよく声を掛けてくださったものだな)

『必ず生きて戻ってくるのだぞ、ランベール』

 脳裏にふと、オーレリアの心配そうな顔が過った。

(最期の戦争の前も、そうであったのだがな)

「オオオオオオオオオオオオオオオオン!」

 ぬいぐるみが、おぞましい雄たけびを上げながらランベールへと直進してくる。

(危険度は……推定で巨鬼トロル級の最上位といったところか)

 魔物の危険度は五段階評価で分けられており、小鬼ゴブリン級、中鬼オーク級、大鬼オーガ級、巨鬼トロル級、ドラゴン級の順に並ぶ。
 巨鬼トロル級の上位ともなれば国が兵を上げて葬ろうとするレベルであり、ドラゴン級に至っては伝説にのみ名を残す魔物ばかりである。
 ランベールとて、巨鬼トロル級上位の魔物を単体で討伐することになった経験はない。

「誰も帰ってこないわけだな。こんな番人がいたのでは」

 ランベールも地面を蹴り、向かってくるぬいぐるみを正面から迎え討つ。
 ぬいぐるみが振り下ろした木の棒へと大剣の側面を当て、力の向きを操って受け流して上手く地面へと落とす。
 その衝撃を利用して跳び上がりながらぬいぐるみの横を抜けて、腹部を力いっぱい斬りつけた。

(やはり、ただの木の棒ではないな。あれも幻覚か)

 間合いを取ってからランベールは地面に足を付けてくるりと回り、ぬいぐるみへと大剣の先を向ける。
 ぬいぐるみは斬られた部位からだらだらと体液を流しながらも、平然と振り返った。

「悪趣味な遊びはやめて、そろそろ正体を現してもらうぞ」

 ランベールは全身に力を込め、アンデッドの瘴気をだだ漏れにした。
 ぐにゃりとぬいぐるみの周囲の空間が歪み、ぬいぐるみが形を変えていく。
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