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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
最終章 王都ヘイレスクの決戦
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第二十七話 魔銀の巨人②

 ランベールは王都の街壁の上に立ち、向かってくる『魔銀(ミスリル)の巨人』へと目を向ける。


 『魔銀(ミスリル)の巨人』はすぐに王都へと到達する。

 ここで止められなければ、街壁を崩して一気に王都へと入り込んでくるはずだ。

 そうなれば、あっという間に王都は『笛吹き悪魔』の手に落ちる。


 街壁の下には、王都内で集めた王国兵と魔術師達が隊列を成していた。


 『魔銀(ミスリル)の巨人』は街壁の倍以上の全高を有していた。

 ランベールの立っている場所で、せいぜい『魔銀(ミスリル)の巨人』の腰程度の高さであった。

 近づけば近づくほど、『魔銀(ミスリル)の巨人』の桁外れな規模を実感させられていくこととなる。


 『魔銀(ミスリル)の巨人』は、細かい模様の入った鎧を纏っている造形になっている。

 頭部は角ばった兜となっており、頭の上は王冠のようになっており、外側に縁があって平たい。

 そこに何者かが立っている影が見えた。

 『魔銀(ミスリル)の巨人』を動かしている人物がいるのだ。


 だが、あんな遥か上の高さに、何かの攻撃が届くわけもなかった。

 仮にランベールに並ぶ弓の達人がいたとしても、王冠の縁を超えて上に立つ人物を狙うことなどできやしないだろう。


 戦いは一瞬で決着がつくはずであった。

 元より、生身の兵が魔銀(ミスリル)相手に長時間持つはずがない。

 長く戦えば、王国兵達が壊滅させられ、そこで終わりだ。

 まともに戦うという選択肢などありはしない。


 全戦力を同時にぶつけて隙を作り、その間に策を通す。

 それが全てであった。


「ラ、ランベール様とやらよ、勝算はあるのでしょうか? とても可能な策だとは思えませんが……」


 ランベールの傍らに立つ、魔術師の男が訪ねる。

 兵士達は全て街壁の下に並んでいた。

 街壁の上に配置されているのは、ランベールと魔術師達のみである。


「必ず勝つ。敗れれば、この国は終わりだ。奴らにレギオス王国を明け渡しなど、しない」


 『魔銀(ミスリル)の巨人』がどんどんと接近してくる。

 兵士や魔術師達が動揺の声を上げ始める。

 とても人間がどうにかできる規模の相手には思えなかったためだ。

 こんな相手に斬りかかるなど、とても正気ではない。

 燃える屋敷に飛び込む虫けらのようなものだ。


「まだだ、まだ引き付けよ!」


 ランベールは声を上げ、動き始めた兵士達を制する。

 ランベールの策では、街壁に充分に引き付けてから一斉に動く必要があった。


 丁度、恐怖で足が竦んでいた者達が、ランベールの叫び声に闘志を再び取り戻す。


 更に『魔銀(ミスリル)の巨人』が接近してくる。

 ついに壁のすぐ近くまで来た。

 『魔銀(ミスリル)の巨人』が、五十ヘイン(約五十メートル)にも及ぶ、巨大な腕を振り上げた。

 その腕の先には、本体同様に魔銀(ミスリル)製の巨大な剣が握られている。


 街壁を破壊しようとしているのだ。

 あんなものが振るわれては一溜まりもない。

 こんな巨大な魔銀(ミスリル)塊の前では、王都の立派な街壁も、砂の砦のようなものである。


 遥か頭上、魔銀(ミスリル)塊の兜の上に立つ男と、ランベールは目が合った。

 ランベールは大剣を抜き、その先端を男へと向けた。


「今だ! 手筈通りに動け!」


 馬に乗った百近い兵達が、一斉に『魔銀(ミスリル)の巨人』の巨大な足へと向かっていく。

 馬に体当たりさせ、自身は飛び降りて大振りした刃を打ち付けていく。

 街壁や地面に並ぶ魔術師から放たれた、無数の火の球が『魔銀(ミスリル)の巨人』の腰へと向かっていく。


 一瞬、『魔銀(ミスリル)の巨人』の巨体が止まった。

 だが、それはただ一瞬で終わった。

 再び動き出した『魔銀(ミスリル)の巨人』の巨剣が、ランベールの立つ街壁へと容赦なく振るわれる。

 決死の攻撃の波も、『魔銀(ミスリル)の巨人』にとっては虫に集られた程度のことでしかない。


 ただ一振り、そのただ一振りで、街壁が容易く破壊された。

 街壁を叩き潰した巨剣はそのまま止まることを知らず、地面を叩いた。

 周囲一帯が振動する。

 大きな地割れが発生した。

 衝撃を受けた壁が次々に倒壊していく。


「ランベール様っ!」

「や、やはり、無謀だったのだ!」


 人々が口々に悲鳴を上げる。


「早く次の手を打て! 続けろ!」


 ランベールの声が響いた。

 ランベールは、『魔銀(ミスリル)の巨人』の腕の上を駆けていた。

 それに気が付いた『魔銀(ミスリル)の巨人』が、腕を振り回して彼を叩き落とそうとする。


 『魔銀(ミスリル)の巨人』を囲むように、大きな魔法陣が五つ並んだ。

 『魔銀(ミスリル)の巨人』ががくんと揺れ、その巨体が再び静止した。


 魔法陣は、ゴーレムに干渉して操作を妨害するためのものであった。

 兵達の体当たりと魔法の連打で動きを止め、その間に準備していたこの魔法陣を起動する作戦であったのだ。


「や、やった! 止まったぞ!」

「成功したんだ!」


 兵や魔術師達が声を上げる。


 本来、成功し得ないはずの策であった。

 強大な『魔銀(ミスリル)の巨人』を前に気圧されず、逃げずに立ち向かい、その一撃を至近距離で目にした上で諦めずに作戦を続けるなど、不可能なのだ。


 それを可能にしたのは、間違いなくランベールの存在であった。

 彼が将に立ち、必ず勝利すると言ってのけたからこそ、皆命を捨てる覚悟と希望を持って、『魔銀(ミスリル)の巨人』へと立ち向かうことができたのだ。

 彼が『魔銀(ミスリル)の巨人』の一撃を前に生き延び、立ち向かう姿勢を見せたからこそ、皆折れずに戦い続けることができたのだ。


 だが、これで終わりではない。

 魔法による操作妨害など、『魔銀(ミスリル)の巨人』を前に長く持つはずがなかった。

 数十人の魔術師が行っているとはいえ、『魔銀(ミスリル)の巨人』はただのゴーレムではないのだ。


 数秒の内に『魔銀(ミスリル)の巨人』の全身が激しく震え出した。

 操作妨害に抵抗しているのだ。

 すぐに再び動き出すことは明らかであった。


「無駄なことを……」


 『魔銀(ミスリル)の巨人』の頭部に立つ男が呟く。

 だが、男はすぐに、恐ろしいことに気が付いた。

 操作妨害によって停止している間に、ランベールは『魔銀(ミスリル)の巨人』の腕を伝い、その巨大な身体を昇っていた。


「まさか、この余を直接叩こうというつもりか!? ランベール・ドラクロワ……どこまでも、恐ろしい男よ!」


 最高位精霊に匹敵する無敵の『魔銀(ミスリル)の巨人』であっても、操っているのは人間に過ぎない。

 一斉攻撃によって『魔銀(ミスリル)の巨人』に隙を作り、その間に操作妨害の魔法を完成させる。

 その間に『魔銀(ミスリル)の巨人』を操作している連中の許まで辿り着くこと。

 それがランベールの策であった。

 そのために、わざわざ街壁の上に立っていたのだ。

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