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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
最終章 王都ヘイレスクの決戦

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第十八話 無貌の悪意⑤

 ランベールはジークと向かい合いながら、距離を詰めてくる操り人形へと目を向けていた。


 ランベールの剣技をあっさりと捌き、反撃まで悠々と熟せる者など、八国統一戦争時代にもそういなかった。

 本人の宣言通り、ジークはランベールの死んだ後も、己の技術を昇華し続けてきたようであった。


 厄介なのはジーク本体の無数の腕による戦闘能力だけではない。

 確かにジーク本体も底が知れないが、多彩な攻撃手段を内蔵した操り人形に、一瞬の隙を許せば身体を乗っ取られかねない羽虫も危険であった。


 仮にジークのみに集中できれば、ランベールも遅れを取らない自信はあった。

 いくら身体を強化して大層な武器を手に入れようと、魔術師の本分は近接戦ではない。


 リーチと手数を兼ね揃えたジークの異形の身体は強大ではあるが、純粋な白兵戦が長引けば、魔術師としての限界が見えるはずだと、ランベールはそう考えていた。

 だが、ジークの武器は異形の身体だけではない。


「せっかくアンデッドを遅らせてボクと正面からぶつかれるチャンスを作ってあげたのに、今ので終わりだなんてがっかりだなぁ。ここからは本気で仕掛けるけど、ちゃんと粘ってくれよ、ランベール」


 ジークの口から、また五体の羽虫が追加で放たれた。

 それと同時に、距離を詰めてきていた操り人形の一体が大きく口を開けた。

 喉の奥から、極太の肉の触手が放たれる。


 ランベールは叩き斬ろうと大剣を構えたが、しかしすぐに下ろして前に跳んで回避に出た。

 肉触手は、大剣の刃に対して高い耐性を有していた。

 ランベールとて大振りでなければ、切断することはできない。

 だが、ランベールの周囲を飛ぶ羽虫が、その隙を許してくれるかは怪しかった。


 肉触手は地面を這う様に削り、ランベールの後を追ってくる。

 逃げるために前に出たところで、ジークと対面することになった。

 ジークも距離を保ちながら戦うのではなく、ここからは積極的に攻撃に出てくるつもりのようであった。


 ランベールはジークを回り込むように肉触手から逃れ、彼へと側面から刺突を放った。

 斜めに交差した腕に刃を弾かれる。

 別の腕が二本、ランベールへと伸びてきた。


 ランベールは大剣を引きながら手首を返し、迫りくるジークの腕の片方を弾いた。

 だが、片方は複数の関節を利用して軌道を逸らし、刃から逃れた。

 そのままランベールへと迫っていく。


「どうしたんだいランベール、少し焦ったかな? さすがの四魔将も、ボクみたいな相手はやりにくいかな?」


「生憎だが、貴様の様な化け物は見飽いた」


 ランベールは大剣を片手持ちに切り替え、迫ってきた腕の手首を掴んで止めた。

 そのまま身体を捻り、ジークの腕を力強く引いた。


「あうっ!」


 ジークの身体が、地面から離れる。

 ジークは最も長い腕を使って攻撃に出たため、今の距離で即座にランベールに届かせられる腕が残っていなかった。


「そ、そうか、フフフフ、無警戒だったなあ。お前は、このくらいならばボクが回避できると踏んで、わざと片方の腕だけボクに避けさせたんだな。伸びてきた一本の腕を、確実に掴んでボクの身体の自由を奪うために! ニャハ、ニャハハハハハハハハハハ! 最高だよぉ! やっぱりお前だけは、ボクに並ぶ資格がある!」


 ジークが歓喜の叫び声を上げる。

 ランベールはそのまま半周ほどジークを振り回し、空へと放り投げた。


 空中であれば、動きが大きく制限される。

 落下時を叩いてジークの身体に損傷を与える狙いであった。


「ニャハハハハハハ! 確かにそれなら、ボクに一撃入れられるかもしれないねぇ! あの『魔銀ミスリルの巨人』が来るまでもう時間もないし、ボクをここで殺してしまいたいよねぇ? でも、易々とそれをボクがさせると思うのかな!」


 ランベールの近くまできていた操り人形が膨張し、破裂した。

 辺りに血と内臓、肉片が舞って視界を潰した。

 その瞬間を狙い、ランベールの視界端にいた羽虫が迫ってくる。

 同時に、三発の肉の触手が放たれた。


 ランベールは大剣を握る手に力を込めた。

 操り人形の数だけジークの手数が増えるのは、本当に厄介なことであった。

 攻めるべきタイミングで万全に攻めることができない。

 だが、今更ジークから離れて操り人形の数を減らしている猶予はない上に、ジークの性格上そうなればランベールを追いかけてくるのは目に見えていた。


 ランベールは潰れた視界を、有り合わせの情報と戦闘勘を用いて補完しながら動いた。

 シュッと、離れたところから風を切る音がした。

 ランベールはそこへ跳んで大剣の一閃を放った。


 刃に、硬いものを打ち砕く手応えがあった。

 ジークの腕である。


「ニャハッ、そんな、どうして見えてるんだよ!」


 宙からジークの声が聞こえる。


 空に投げ出されたジークが、長い腕を用いて着地の隙を誤魔化そうとすることはわかっていた。

 ランベールの戦闘勘でジークの選ぶ場所に当たりをつけ、風切り音で答え合わせを行ったのだ。


 とはいえこのまま下で待てば、結局他の腕で着地の隙を潰されることはわかっていた。

 ランベールは地面を蹴り、宙へ軽く跳んだ。

 その足の下に、すばやく肉の触手が入り込んだ。

 ランベールは続けて肉の触手を蹴り、更に自身を高くへと跳ばした。


 視界が潰れているのがお互い様である以上、ジークの狙いも安易で大雑把なものになる。

 外法でいくら身体を強化しようとも、魔術師では剣士に決して及ばないものがあると、ランベールはそう考えていた。

 そしてそれを、魔術師の人間は理解できない。

 極限に研ぎ澄まされた戦闘勘である。


 死地で読み合いを続け、生身で夥しい数の死闘を乗り越えてきた剣士にのみそれは宿る。

 武人というより研究者肌であり、改造した半不死身の身体を用いて戦う魔術師では、その境地に到達することはできない。

 視界が潰れた中での読み合いは、ランベールに遥かに分があった。


 ランベールは大剣を振り上げた状態で、落下するジークの目前へと躍り出ていた。


「ニャハハハハ! まさか、まさか、そこまでやってくれるなんて! いい! だからお前は最高だよ、ランベールゥ!」


 ジークが興奮気味に叫ぶ。


「死ぬがいい、外道!」


 ランベールが大剣を振り下ろす。

 頭部を守ろうと伸びたジークの腕が、刃の前に切断された。

 間に合ったのは、その一本だけであった。

 ジークの頭に、刃がめり込んだ。

【新作】「終わる世界の夢見人」を投稿しました!

こちらさくっと五万文字程度での完結を予定しています。

こちらもよろしければ、読んでいただけると幸いです。(2020/02/21)

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