表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
最終章 王都ヘイレスクの決戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

234/256

第十六話 無貌の悪意③

 操り人形の集団と交戦中のランベールへと、ジークが腕を前足のように地へと着け、這いながら向かってくる。

 ふざけた動きではあるものの、常人よりも遥かに速い。


 一流の魔術師ほど常識は通用しない。

 八国統一戦争で多くの魔術師を相手にして、ランベールが得た真理であった。

 ジークが何を仕掛けてくるのが想像もつかなかった。


 ジークは二本の長い腕で地面を弾き、人の群れを飛び越えてランベールへと飛び掛かってきた。

 ランベールは彼を警戒し、大剣を宙へと向ける。


 そのとき、ランベールの左右に立つ二人の操り人形が口を大きく開いた。

 顎が外れ、頬が裂けて血が流れる。

 人の頭ほどの大きさに肥大化させられた巨大な舌が、ランベールを挟み撃ちにして射出された。


 ランベールは右の舌を大剣で斬り飛ばし、続けて左の舌を狙った。

 だが、左の舌の肉塊に大剣が半分ほどめり込んだところで、刃が止まった。

 そのまま舌が蠢き、大剣に絡み始める。


「ニャハハハハハ! お前に合わせた、対重量剣仕様だよ! 頑強さは勿論、切断に強く、衝撃を分散させる。片方斬れたのはお見事だけど、お前ならそのくらいやってくれると信じていたよ」


 大剣の封じられたランベールへと、ジークが飛び掛かってくる。


「舐めてくれるなよ」


 ランベールは、肉塊に絡め取られた刃を強引に振り回した。

 肉の鞭伝いに操り人形が宙を舞い、ジークを左側から打ち抜いた。


 だが、その間際に、ジークの左側から赤いドレスを突き破り、新たに三本の腕が生えてきて操り人形を受け流した。

 三本の腕は、各々に不均一な数の関節を持っていた。


 ランベールは大剣を地面へと振るい、刃に纏わりつく肉塊を叩き切った。


 ジークがふわりと、ランベールの目前に着地する。


「ニャハハハハ! そうだよ、それでこそ、さすがランベールだね。それくらいはやってもらわなくちゃ」


「……離れて戦う手段があるにも拘わらず、自ら剣士の間合い近くまで飛び込んでくるとは」


「あんなのだけで、お前を倒せるとは思っていないからさ。アンデッドはボクの武器であり、手足だよ。一方的に減らされる前に、こっちから仕掛けて潰さないとね」


 ジークがぺろりと舌舐めずりをした。


「それに、お人形ごっこだけで終わらせちゃうなんて、退屈じゃないか。ボク達の仲だろう? お前はボクが、直接地獄を見せてあげるよぉ」


 ランベールはジークが言い終わる前に、大剣を構えて彼へと直進した。

 周囲の操り人形達が、ランベールを囲むように動き出す。


「せっかちだなぁ、フフフ、そんなにボクが恋しかったのかな?」


 ジークが口を開けた。

 口の中から羽虫が五体飛び立った。

 沼のような色をした、三つの目玉を持つ奇怪な姿の虫であった。


「こんなので簡単に終わってくれないでおくれよ? お前を信用しているから、ボクはこれを使うんだ。もしもお前が対応できないと思っていたら、ボクはこんなつまらない手を使ったりしないで、ちゃんと手を抜いてあげていただろうからさ」


 これまで凶悪な魔術師を何人も相手にしてきたランベールには、この虫の正体におおよその見当がついていた。

 恐らく、意思を残したままジークの操り人形にするための疑似生命体(ホムンクルス)である。


「それが、操り人形の元凶か……」


「そう、ボクの生み出した羽虫が肉を喰い破って脳を犯し、その肉体をボクの手足として改造するわけだよ」


 ジークがぺらぺらと得意気に語る。

 隠すことでもないと、そう考えているようであった。

 自分の技術によほどの自信があるらしく、ブラフの余地さえなさそうであった。

 思い上がった魔術師によく見られる傾向であったが、ジークは特にそれが極端であった。


「もっとも、これは特別製だよ。アンデッドの頭蓋に巣食って、マナを好きに搔き乱すことができる。要するに、ボクが、お前のために用意しておいてやったんだよ! 嬉しいかな?」


 羽虫達はランベールの方へ飛んできていたようだが、無論すぐに見失うことになった。

 操り人形の集団が動き回っているこの場で、五体の羽虫を追い続けるなど不可能であった。


「ああ、これが間に合っていれば、弱小だったローラウル王国も、もうちょっと戦えたと思うんだけどなぁ。いつだって、どいつもこいつも、ボクを過小評価して、蔑ろにするんだ。今回だって、お前が暴れて『笛吹き悪魔』の数を減らしてくれないと、ボクは厄介者扱いされて、地下牢に閉じ込められたままだったくらいだよ。だから、本当にボクはお前に感謝してるんだよ、ランベール」


 ジークはいくつもの腕で童女の顔を押さえ、そう口にした。

 悲劇の主人公振ってはいたが、その原因が彼の悪辣さにあることは容易に想像がついた。

 手段を選ばない禁魔術組織の『笛吹き悪魔』であっても、ジークの存在だけは許容できなかったらしい。


 ランベールは操り人形達を斬り伏せながら動き、ジークをついに刃の間合いへと捉えた。

 ジークは薄ら笑いを浮かべながら、ただ棒立ちでランベールを眺めている。


 ジークがあの奇妙な複数の腕で防御に出ることはわかっていた。

 他の防御手段があるにせよ、ジークが簡単に致命打を受けてくれるとは思えない。

 ランベールは最速で攻撃できる刺突を選択した。

 多くの魔術師にとっても弱点となるジークの頭部を狙い、刃を突き出した。


「にーくばーくだーん!」


 ランベールの背後の操り人形が急激に膨張し、臓器や肉片を周囲へ撒き散らした。


 その衝撃は、魔金(オルガン)の塊であるランベールを吹き飛ばすことができるほどのものではなかった。

 しかし、ランベールはジークへの攻撃を中断し、地面を蹴ってその場から大きく離れた。


 そして身を翻しながら大剣の刃を宙に振るった。

 刃が、ジークの羽虫を潰した。

 羽と、緑の体液が舞った。


 操り人形の肉体を破裂させてランベールの隙を作り、その間に羽虫を嗾けるのがジークの目的だったのだ。

 ランベールも視界を潰され、音を掻き消された中で、小さな羽虫に対応できる自信はなかった。


「さすがボクのランベールだよ。ちゃんと退いてくれなかったらどうしようかと、実はちょっとだけ心配していたんだ。だけど、不要だったね」


 ジークが心底嬉しそうにそう口にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

同作者の他小説、及びコミカライズ作品もよろしくお願いいたします!
コミカライズは各WEB漫画配信サイトにて、最初の数話と最新話は無料公開されております!
i203225

i203225

i203225

i203225

i203225
― 新着の感想 ―
[一言] 八国統一戦争を経験してるからか蟲壺よりヤバいなジーク…バルティアといい、ドーミリオネといい、八国統一戦争経験者たちは頭一つ抜けてるな。シャルローペもそこそこ善戦してたし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ