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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
最終章 王都ヘイレスクの決戦
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第十一話 悪夢の襲撃②

 二百年前、ローラウル王国は魔術が異様に発達しており、兵の士気も高かった。

 しかし国土は小さく、また八国統一戦争において不運が続き、結果として最も早く滅ぶこととなった国である。


 レギオス王国とローラウル王国は、ランベールの時代にはただ一度小さな戦いになったのみであった。

 その一度きりの戦いで、ランベールはジーク・カーネイジと顔を合わせていた。


 その際のジークはまだ若い青年であった。

 ジークはまずレギオス王国軍との戦いになる前に、辺境にある農村を回って襲撃した。


 通常、戦力のいない農村を襲う行為は、敵国であっても人理に背く行為であると忌避される。

 派手に行えば複数の国から非難の的となりかねず、自軍の士気をも削ぎかねない行為である。

 現地で兵糧を補給するために戦略的に農村を襲う場合もあったが、規模を抑え、目立たないように行うことが常であった。


 だが、ジークは違った。

 好んで敵国の農村を回り、現地でアンデッドを造り出したのだ。

 ランベールはジークと戦ったときのことを今でも鮮明に覚えていた。


 ジークは一体のアンデッドに二つの脳を用いることで、鮮明な自我を残したままに、身体の自由が一切利かないアンデッドを造り出した唯一の死操術師であった。

 ジークの造り出したアンデッドは、悲鳴を上げ、泣き叫びながら生者を襲い、その肉を喰らうのだ。


 ランベールはこのアンデッドを敵兵の戦意を削ぎ、精神を病ませるためのものだと考えていた。

 しかし、ランベールがジークと対面した際、ジークはこう言った。


『ニャハハハハ、純粋だなあ。それは上を納得させるための建前だよ。ボクが造ってみたかっただけさ。楽しかったけれど、まあ相手への被害は労力には見合わないね。わかっていたけど』



 ――ランベールは当時を思い出しながら、ジークの声の方を睨んで彼の姿を捜した。

 そして、見つけた。

 十体のアンデッドを周囲に配置している、フリルのついた可愛らしい、真っ赤なドレスを纏った童女がいた。

 姿形は違えど、悪辣な笑い顔に変わりはなかった。


 元々、長生きした魔術師の外見など当てにならない。

 好きに自分の身体を弄り、不老を得て人の領域から外れたものばかりだからだ。


 連中にとって己の身体など、捏ねて形を作る粘土のようなものに過ぎない。

 重要なのは自分の目的とこれまで築いてきた己の叡智であり、己の精神性さえさして重要ではない。

 人格も、身体に引きずられてどんどんと歪んでいくものだからだ。


 既に王国兵達の大半が『笛吹き悪魔』と戦うために観衆の群れへと向かい、交戦を始めていた。 


 ランベールは、王国兵達ではジークには敵わないとわかっていた。

 他の兵や魔術師の相手はできても、ジークは格が違う。


 ランベールの見立てでは、今回の『笛吹き悪魔』の戦力は、テトムブルクで戦った『死の天使』の魔術師達に比べて大きく劣る。

 その多くは、質よりも数頼みの戦力であった。

 危険な魔術師も潜んではいるが、少数である。


 だが、ジークはそれらの戦力とは一線を画す。

 八国統一戦争時代においても、危険な魔術師としてマークされていた男である。

 あれから二百年、故郷の国を失ってなお生きながらえ、人の理から外れて完全な化け物となった彼は、当時よりも更に危険な存在になっていると考えるべきであった。


 剣士が一対一の戦いに優れているのに対し、魔術師の強みは個による大量殺戮である。

 ジークに観衆達の中に居座らせ、おまけに王国兵をぶつけるのは、無為に人を殺すようなものであった。


「よりによって、奴がまだ生きていたとは……!」


 ランベールがジークへと目を向けたとき、『血霧の騎士』が再び斬りかかってきた。

 ランベールは彼の大剣を、大剣で受け止める。


「どうしたランベール、我との決着がまだついておらんぞ? 余所見など、寂しいではないか」


「……貴様の相手は長引く」


 通常、敵対している剣の達人同士が何度も殺し合うことはない。

 だが、ランベールと『血霧の騎士』はこれで三度目の戦いであった。


 ただでさえ『血霧の騎士』はタフな上に、死傷を受けようが、生き埋めになろうが、次に会ったときには五体満足で復活しているのだ。

 故に、互いが互いの剣を読み始めており、両者とも一撃を通すのが難しくなっていた。


 ランベールにとって、早急に倒さねばならない相手であった。

 被害が拡大する前に、一刻も早くジークを処分しなければならない。

 それに、どうせ『血霧の騎士』は復活するのだ。


 だが、『血霧の騎士』はやや守りに入って戦っていた。

 以前、ドマの地下闘技場で戦ったときと同じである。

 戦いを引き延ばし、少しでもランベールを拘束する算段なのだ。


 大剣の打ち合いの中で、ランベールは黒鎧を蹴り上げた。

 黒い金属塊の巨体が浮いた。

 ランベールは黒鎧の足が地面から離れた瞬間を狙い、刃の一閃を放った。

 だが、黒鎧は縦に構えた大剣を引いて構え、自身を守っていた。


 ランベールの剛力に弾かれた黒鎧が、やや離れたところで着地する。


「見事な一撃であったぞ、ランベール。我でなければ、魔金オルガンの重量の乗った、貴様の正面からの大振りを宙で受けるなど、まず不可能であっただろう。今の一撃に耐えられる金属もまた、この大陸に多くは存在しない」


 黒鎧の大剣の刃には罅が入っていたが、鎧の黒魔鋼(ダルライト)が生き物のように刃に絡みつき、罅に入り込んで補強を行っていた。

 黒魔鋼(ダルライト)は所有者のマナを喰らい、武器や防具の形状を維持する力を持っている。

 黒鎧を倒すには泥試合を繰り広げるしかないのだ。

 それも、彼を殺すには至らない。


 ランベールは周囲へ目を走らせて状況を確認する。

 王族は王国兵が付き添い、避難を行っていた。


 観衆に紛れていた『笛吹き悪魔』の者達も王国兵が討伐に当たっている。

 危険視しているジークがまだまともに動いていないが、とりあえずは王国兵達に分があるように窺えた。


「武の神よ、微力ながら助太刀いたそう!」


 ランベールの横に、剣聖エスニアが立った。

 ランベールは少し考え、首を振った。


「……エスニアよ、部下を連れ、あの男を止めてくれ。恐ろしい魔術師だ。無理に殺そうとするな。とにかく、俺がこいつを片付けるまで気を引いてくれ」


 ランベールは大剣を構え、ジークを刃の先に捉えた。


「あの、男……?」


 エスニアは怪訝に眉を顰める。

 ジークの姿形は幼い少女のものであったからだ。


「紛らわしい言い方をしたな。酷なことを頼むが、奴を引き付けてくれ。放置していては、何人殺されるかわかったものではない」


「承知した。必ずや、私が奴を討ち取り……」


「奴はそもそも、お前達が相手取るべき敵ではない。俺達が後世に残してしまった、負の遺産だ。時間を稼いでくれ、奴は俺が始末する」


「…………言葉の意味はわからぬが、心に留めさせていただく」


 エスニアはそう言って頭を下げ、周囲の部下達を連れてジークの許へと駆けていった。

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