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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第五章 暗黒街ドレッダの魔女
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第三十話 首なし魔女ドマ④

「はぁっ!」


 ランベールは大剣を振るい、首のない生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)の胸部を大きく抉った。

 ついに首のない生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)は力尽きたらしく、その場に伏して動かなくなった。


 ドマも『血霧の騎士』もおらず、暗黒街の重鎮達も待機に徹している。

 ドマの駒であった首なしアンデッドもじわじわと数を減らしており、ついに闘技場に残っているのは動かなくなったただの屍のみとなっていた。

 他の戦力さえなければ、首がなくて弱点の突きにくい生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)も、大技の連打で強引に打ち倒すことができる。


 ランベールは大剣を鞘へと戻し、背後のシャルルを振り返った。


「では、行くぞ」


 シャルルはごくりと唾を呑み込んでから、覚悟を決めたように大きく頷いた。

 闘技場のアンデッドが片付けば、ランベールと共にドマを追うことになっていたのだ。


 ランベールは通路を駆ける。

 シャルルはその後をついて走っていた。


「ランベールは、あの……『首なし魔女』を護衛していた、鎧の男を知っているの?」


 シャルルが不安そうに尋ねてきた。

 ランベールは足を止めずに駆けながら、彼女の表情を尻目に確認する。


「ああ、『笛吹き悪魔』を調査しているときに、別領地で接触した。奴……『血霧の騎士』は、『笛吹き悪魔』の幹部、八賢者の一角だ」


 シャルルは『笛吹き悪魔』と聞いて、小さく俯いた。


「シャルル、お前は……暗黒街ドレッダに、『笛吹き悪魔』が絡んでいたことを、知っていたのか?」


 シャルルは目を瞑って逡巡する様子を見せた後、小さく頷いた。


 恐らくシャルルは、ドマの傍らにいた『血霧の騎士』が『笛吹き悪魔』の幹部であるということを知っていたか、或いは察していたのだ。

 今ランベールに聞いたのも、そんな『血霧の騎士』と面識があったことに驚いていたのだろう。


 だが、それはおかしいのだ。

 『土蜘蛛』の頭領であるアラクネは『首なし魔女ドマ』と接触していた形跡があったが、自らの部下達にはドマの存在は伏せているようであった。

 ドマの情報は本来、暗黒街ドレッダの重鎮と濃い繋がりでもなければ辿り着けないようなものなのだ。

 特にドマが『笛吹き悪魔』と繋がっていることなど、極秘中の極秘であろう。


 シャルルの養父であるパーシリス伯爵も、暗黒街ドレッダの実態をまともに把握できていないようであった。

 一般人と比べて多少剣の腕が立つ程度のシャルルが、ちょっと嗅ぎ回ったからといって辿り着けるはずがない。


 ランベールは、暗黒街の情報屋の話を思い出していた。


『あの女……この都市について、異様に詳しいんだ。武装組織の力関係なんかも、俺よりずっと詳しかった。剽軽な態度をしていたが、不気味で仕方なかったよ』


 彼はシャルルについて、そう語っていた。

 何のためかはわからないが、シャルルに暗黒街の情報を流した人間がいたとしか考えられなかった。


 ランベールは、シャルルが元来暗黒街側の人間である、という可能性も考えていた。

 だが、シャルルは腹芸ができない。

 ランベールにも何度も暗黒街の情報を零していたし、情報屋にも不審な人物として覚えられている。

 今も、シャルルは間接的に、暗黒街に『笛吹き悪魔』の陰があったと知っていたことを吐露したようなものだ。

 とても本性を隠してスパイをやっているとは、思えなかった。


「何か、俺に隠し事をしていないか」


「そ、そんなことは……」


 シャルルが返答に詰まる。

 

「……悪いが、少し後で聞きたいことがある。それは覚悟しておいてくれ」


 シャルルは口をきゅっと結んで辛そうな表情を浮かべながらも、無言で小さく頷いた。

 隠し事をしていると白状したも同然であった。


「追いついて来たか、ランベール」


 通路の先に、黒魔鋼ダルライトの鎧を纏った男が立ち塞がっていた。

 『血霧の騎士』の息は荒い。

 兜の口許は喀血で真っ赤になっていた。


 逃走を始めた時点で彼は重症であり、そう速くは逃げられないはずであった。

 ランベールとしても、シャルルを連れていてもすぐに追いつける算段であった。


 だが、ドマは更に奥にいるらしく、姿が見えない。


「そんな状態で俺と戦えると、本気で考えているのか? 一瞬で終わらせてもらおう」


「やってみせるがいい、ランベール。だが、身を案じてもらう必要はない。我は元々、欠損や重傷を受けた後を前提とした剣技を修めている。このくらいの方が、かえって動きやすいというものだ」


 ランベールは『血霧の騎士』へと斬り掛かった。

 『血霧の騎士』は相変わらずの徹底した防戦であった。

 ランベールの大剣が、少しずつ黒魔鋼ダルライトの鎧を砕いていく。


「……何を企んでいる?」


 結局この戦い方を取るのであれば、『血霧の騎士』がわざわざ闘技場からこの通路へ逃げ込んだ意味がない。


「無論、正面より貴様を斬る方法だ!」


 ランベールが攻めに傾倒している隙を突くように、これまで下がってばかりであった『血霧の騎士』が大きく前に出た。

 だが、ランベールの大剣が彼の片腕を斬った。

 手に構えていた大剣を握りしめたまま、彼の腕は床へと転がった。


「……勝負がついたと、思ったか?」


 黒魔鋼ダルライトの鎧が変形していく。

 なくなった腕の代わりになるように、腕の先に金属の槍が形成された。

 元々黒魔鋼ダルライトは、マナさえあれば好きだけ形状を変化させられる金属である。

 マナの消耗は激しくとも、即座に剣の代わりを用意することも不可能ではないのだ。

 『血霧の騎士』が槍と化した腕をランベールへと放つ。

 ランベールはその槍を回避し、黒魔鋼ダルライトの鎧ごと『血霧の騎士』の身体を深く斬った。


 ついに『血霧の騎士』が膝を突いた。

 今の一撃で臓器を潰されたのだ。さすがに黒魔鋼ダルライトで応急処置を行うこともできない。


「だが、まだだ!」


 その言葉と共に、黒魔鋼ダルライトの鎧が溶けだし、金属製の触手がランベールへと伸びて纏わりついた。

 それと同時に、天井から不穏な音が響き始めた。

 直後、天井に罅が入り、その裂け目がどんどん大きくなっていく。


 顔を上げれば、無数のアンデッドの腕のようなものが、罅を押し広げているのが見える。

 アンデッドを用いた、通路の天井を崩して侵入者を殺すためのトラップであった。


 不死身の『血霧の騎士』がランベールの足止めを行い、自身諸共瓦礫に埋めることが彼らの作戦であったのだ。


 ランベールは黒魔鋼ダルライトの触手を籠手で弾き、大剣で叩き斬った。

 そして前に出て、瀕死の『血霧の騎士』の頭を兜ごと刎ねた。

 ランベールは転がる兜を睨む。

 動きは一時的には停止したが、この程度で彼が死なないことは既に分かっている。


「ラ、ランベール! これ、まずいんじゃ……!」


 シャルルが天井を睨み、慌てふためく。


「いや……むしろ、安心した」


「あ、安心……?」


「『血霧の騎士』が不要に通路に逃げ込んだ時点で、ここに何かがあるとは踏んでいたが……この程度のものだったとは。他にロクな策を取れる余裕がなかったのだろうがな」


「こ、この程度って……アタシもランベールも、このままじゃ生き埋めに……!」


 ランベールはひょいとシャルルを担ぎ、前へと全力疾走した。


「ランベール! さすがにこんなの、無謀すぎ……!」


 ランベールは大剣を片手で盾のように構えると、床を蹴って最高速度で駆け始めた。

 落ちて来る瓦礫は、大剣や鎧で尽く弾いた。

 途中、シャルルは言葉を失っていた。


「後ろの方が近かったが……ドマを逃がすことになるからな。前へ向かうぞ」

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