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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第五章 暗黒街ドレッダの魔女
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第二十五話 裏闘技場④

 あっという間に、四十のアンデッドは肉片の山へと変わっていた。

 ランベールは動かなくなった異形の死体に囲まれながら、ゆっくりと大剣を降ろした。


 殺戮ショーを見せつけられるはずだった暗黒都市の重鎮達は、目前で起こった光景が信じられず呆然としていた。

 誰かが拍手を行う。

 連鎖するように、次々に拍手が起こっていった。


「貴様らの言う地獄は、これで終わりでいいのか?」


 ランベールはマゴットへと目を向ける。

 マゴットはびくりと肩を震わせ、ドマの方へと振り返った。

 裏闘技場で、闘士達がアンデッドに勝利する想定などしていないのだ。


 ドマは首のないアンデッドの従者へ向けて、指を伸ばして手を振っていた。

 それは彼女がアンデッドを操る指揮であった。

 アンデッドはドマへとお辞儀をし、そそくさと別の場所へと駆けていく。


「ド、ドマ様……」


 ドマとアンデッドとのやり取りが終わったのを目にして、マゴットは彼女へと声を掛ける。


「最終幕の宣言をしなさい。わからない? 暗黒街の方々にも、ドマのアンデッドを見に来ていただいておるの。恥を掻いたままでは終われないでしょう?」


「そ、それはいったい……? 最終幕……とは? このステージは、第二幕まででは……」


「鈍いわね。ここには、闘技場用のアンデッドしかいないと思っているの? ドマをあまり苛立たせないでちょうだい」


 ドマの言葉に、マゴットが顔を青くして震え上がった。


「な、なりません、アレを動かしてしまえば……ここがどうなるか……! 今動かせば、暗黒街自体が滅茶苦茶になってしまいます! よりによって、八賢者の目があるところでそれは、『笛吹き悪魔』への離反と取られかねませんぞ!」


「ごちゃごちゃと……少し、煩くってよ」


 ドマが指を手繰った。

 マゴットの近くにいた二人の首なしアンデッドが動き出す。

 片方がマゴットの頭部を押さえ、もう片方がマゴットの身体を押さえた。


「ドマ様!? な、何を……」


 マゴットの首が捩じられる。

 顔が後ろを向いた。首の折れる音がする。

 マゴットの身体が力を失う。

 二人のアンデッドは、マゴットを支えてドマへと歩いていく。


 ドマはマゴットの死体へと手を翳す。

 屍が一人でに震えだし、かと思えば奇怪な金切り声を放った。


「そ、ソれ、デハ、最終幕ヲ始めマす……! お楽しみくだサい! 命の保証は、保証ハァ、いたしませんんんんんン……!」


 マゴットが身体を痙攣させながら、逆に向いた顔のままそう宣言する。

 そして、その場に崩れ落ちるように倒れた。


「フフ、やはり部下は忠実なアンデッドに限りますわね」


 ドマが余裕を取り戻した様に高笑いする。

 ドマの横に立っていた『血霧の騎士』が彼女を睨みつける。


「……今の言葉は、どういつもりだ? まさか、王都を崩すためのアンデッドを使うつもりではあるまいな?」


 ドマがごきりと首を曲げ、『血霧の騎士』へと顔を向ける。


「ドマのような人種は、誇り高くて傲慢なのよ。支援はありがたいけれども、ドマはドマのやりたいようにやらせてもらうと、いつもそう言っているはずでしょう?」


「貴様……!」


「ドマを斬っても、いいことなんて何もなくってよ。安心しなさい。ほんの少し動かして、戻すだけよ。あの子達は細かい配慮はできないけれど、どうせ、貴方は死なないでしょう? 他の方達は知らないけれどね」


 ドマは顔の前に垂らした布越しに、暗黒街の重鎮達を眺める。


 ランベールは、そのドマ達の様子を舞台から観察していた。

 ドマの悪趣味な演劇に延々と付き合っていれば切りがない。

 何か隙を見て行動を起こせないかとは考えていたが、『血霧の騎士』はドマと言い争いながらもランベールを常に注視していた。

 客席に配置されている首のないアンデッド達も、どうやら第二幕の異形のアンデッド兵よりも力が強く、動きが速い。

 思うような好機が訪れないでいた。


 そのとき、ずしん、ずしんと、大きな足音が裏闘技場に響き渡った。

 ランベールもこの足音には危機感を抱いていた。

 明らかに、第二幕とは次元が違う。


「お遊びの見世物は終わりにしましょう……全力でお相手してあげますわ、ランベール」


 ドマの宣言と同時に、今までアンデッドの現れていた大きな扉が壊れ、周囲の壁諸共崩れ落ちた。


 現れたのは、三ヘイン(約三メートル)にも及ぶ肉人形の巨人である。

 筋肉繊維と継ぎ接ぎ跡を表に出した醜悪な巨人は、ランベールにも見覚えがあった。


 八国統一戦争の中であっても製造が禁止された、生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)である。

 ランベールは現代に蘇ってから、ドーミリオネの研究施設に乗り込んだ際に対峙した記憶があった。


 巨大な口からは色の濃い粘液が垂れ流され、その口内には三列にも及ぶ夥しい数の歯が並ぶ。

 大きな目玉が脈打ちながらギョロギョロと蠢く。

 十本の指のある、大きな腕が前へと突き出される。


 裏闘技場が悲鳴と絶叫に包まれる。

 ランベールは警戒気味に大剣を構える。

 生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)の圧倒的な質量の優位と耐久性は、身に染みて理解していた。

 それに、この戦いではそれが一体ではないのだ。


 崩れた壁の残骸を押しのけ、二体目、三体目の生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)が裏闘技場へと姿を現した。


 ドーミリオネでさえ生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)の量産はできていなかった。

 それは研究開発のために、生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)は夥しい数の死体を必要とするからだ。

 地下迷宮に隠れて冒険者を集めるドーミリオネには、十分な数の研究素材を集めることが難しかったのだ。


 だが、この人が消えても誰も怪しまない暗黒街において、『笛吹き悪魔』の後ろ盾を得て裏の支配者となっているドマが好き放題に死体を集めれば、生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)の素材集めが容易であることは想像に難くなかった。


 数多くの禁忌に堕ちた魔術師と対峙してきたランベールには、死操術に対するある程度の知識があった。

 この裏闘技場はアンデッドだらけだが、ここで見た死体の全て足しても、生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)一体の犠牲者の数の半分にも満たないだろう。


「貴様は、どれだけの人間を殺した!」


 ランベールは生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)を睨みながら大声を上げる。


「戦争時代の大英雄から、殺した数を讃えられるのは光栄ですわ!」


 ドマが大声で笑う。

 皮肉ではなく、彼女は罵声を称賛と捉えていた。

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