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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第五章 暗黒街ドレッダの魔女
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第十九話 闘技場③

 ランベールは闘技場に闘士として入り込んだ。

 さすが暗黒街というべきか、運営側より闘士自体がただの使い捨ての駒としてしか見られていないためか、闘技場についてロクな説明もなければ、ランベールに対する下調べも何もなかった。

 ただ一言闘士になりたいといえば中に通され、太い鉄格子で通路から隔たれた、牢獄の様な控室へと入れられた。


 基本的に外に出ることは許されず、一日に二度食事が運ばれてくる仕組みになっているらしかった。

 闘士としてここへ好んで来る者が少なく、逃げようとすることが度々あるのだろう。

 一応試合が終われば外に出ることができると聞かされたが、事前の胡散臭い噂から鑑みるに、それも怪しかった。

 入ったが最後、試合以外は監禁され、死ぬまで殺し合いをさせられる可能性も高い。


 牢獄の様、というよりはそのものであるのかもしれなかった。

 本来、大きな組織より恨みを買い、暗黒街でさえまともに歩けなくなった剣士が最後に辿り着く場であるという話だった。

 暗黒街に本物の牢獄はない。

 だが、ヘタを踏んだ人間は闘技場へと送られて自由を奪われ、成功者の一瞬の道楽として最期を迎えるのだ。


 闘技場に入ってから半日が経ったところで、黒い礼服姿のガリガリに痩せ細った男が部屋へと入って来た。

 護衛のためか、剣を持った兵士が四名彼についている。


 男は薄ら笑いを浮かべ、ランベールの姿を頭から足先までまじまじと確認する。

 隈のある、陰湿そうな目が特徴的だった。


「自らここに来た奇人というのはお前のことか。歓迎しようじゃないか、ランベール。ようこそ、私の楽園へ。不義の剣王を名乗る不遜者よ」


「……お前がここの支配者、マゴットか」


「如何にも。私はこうして、闘士達の様子を見て、事前に質を計っておくのだよ。不合格なら、この場で斬り殺してしまうこともある。フフ、立派な鎧じゃないかい、ランベール」


 マゴットが手を叩く。

 四人の剣士の内、一人が前に出た。


「軽く遊んでやりなさい。雑魚だと思えば、そのまま殺してもよい。人手は足りていないが、観客達の目が肥えているのでね。つまらないショーを出したくはない。外の世界ならいざ知らず、彼らはただの死に様を見ることには慣れているからね」


 ランベールは素早く大剣を抜いて一閃した。

 一太刀で掛かっていった剣士の剣がへし折れ、上半身が宙を舞う。

 辺りは血に染まった。


 三人の剣士は、何が起こったのかもわからずその場に硬直していた。

 マゴットも呆然と口を開けていたが、落ち着かない素振りで自身の髭へと手を触れた。


「……雑魚だと思えばそのまま殺してもよいは、お前に言ったわけではないのだがね、ランベール」


「そうだったか」


 ランベールは静かに大剣を背負い直す。


「何をしてくれた貴様!」


 三人の剣士が顔を真っ青にして剣を構えた。


「待ちたまえ」


 マゴットが手を上げて彼らを制した。


「君達じゃどうにもならんよ、止めておきなさい。……私でも彼は、少しばかりてこずるかもしれない」


「マ、マゴット様でも、ですか?」


 残った剣士達が驚く。


「それに……寛容に歓迎しようじゃないか。私は強い者は嫌いじゃあない。観客達は、良質なショーを求めている。『黒鬼の剣豪』ことバルトルトがここの王になってから長い。スターもいいが、観客はそろそろ番狂わせを望んでいる。彼ならば、やってくれるかもしれないね。期待しているよ、ランベール。仲良くやっていこうじゃあないか」


 マゴットが薄ら笑いを浮かべながら部下の死体を一瞥する。


「……聞きたいことがある。ここに、銀髪の娘は来なかったか? この都市には場違いな格好の娘だ。名を、シャルルという」


 シャルルは闘技場について、何らかの情報を知っているようだった。

 暗黒街の支配者、『首無し魔女』と繋がりがあることを確信していたようだった。

 彼女がここへ足を運び、調査に乗り出していた可能性は高い。

 ランベール同様、闘士として入り込んでいてもおかしくはない。


 ランベールの言葉に、マゴットが顎に手を当てる。


「ふむ……これほどの良駒がなぜここへと考えていたが、まさか、あの娘を探しに来たのか?」


「…………」


 ランベールは黙った。

 マゴットはシャルルを知っている。

 やはり、ここに来ていたのだ。 


 しかし、下手にランベールの立場を明かせば拙いことになるかもしれない。

 情報が惜しかったためこの機に尋ねておくしかなかったが、マゴットに情報を与えたことは不利に働くかもしれなかった。


「フフフ……安心するといい。別に、お前があの娘と知り合いだったとして、それで私が何かをしたりはせんよ。ランベール、お前が私の思う通りに働いてくれれば、彼女と会える機会が訪れるかもしれない」


「どういう意味だ?」


 マゴットはわざとらしく肩を竦めた。


「それは後のお楽しみだよ。頑張ってくれ。お前の勇姿を期待している」


 マゴットはそれだけ言うと身体を翻した。


「さあ、戻るとしようか。次のショーが楽しみになってきた。彼を華々しく使うには、トーナメント制がいいかもしれないな」


 マゴットの後を、三人の部下達がついていく。

 部下達は途中、ランベールに斬られた同胞へとちらりと目を向け、その後にランベールと目が合い、控室から逃げるように急ぎ足で立ち去っていった。


 ランベールは遠ざかるマゴットの背をちらりと睨む。

 ここで斬り殺してしまうという選択肢もあった。


 だが、マゴットは『首無し魔女』ではないだろう。

 今は情報が少なすぎる。魔女についても、この闘技場についても、シャルルについてもまだ決定的な情報を得られていない。

 ここは動くべきではないと判断したのだ。

【新作】『不死者の弟子』の投稿を開始しました!

 こちらの作品もぜひよろしくお願いします。(2019/7/19)

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