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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第五章 暗黒街ドレッダの魔女
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第十八話 闘技場②

 情報収集の片手間に成り行きで暗黒街ドレッダに巣を張る『土蜘蛛』の組織を壊滅させたランベールは、そこで得た手掛かりを元に暗黒街の闘技場について調べていた。


 闘技場については特に情報が秘匿されているわけではなかった。

 元々暗黒街の一角を占める程に巨大な建造物であり、隠す意図があって造られたものでもなさそうであった。


 エリクから観客として入れるのはこの街で成功している者ばかりだと聞いていた通り、多額の入場料を必要とするようだった。

 しかし、闘士の死亡率が高いらしく、闘士として入り込むことは難しくないようであった。


「なるほど……表向き闘技場を仕切っている、マゴットという男に会いにいけばいいのだな?」


 ランベールは暗黒街の露店で情報屋を自称している男を捕まえ、彼へとこの街の内情について尋ねていた。


「ああ、そうだ。だが、お勧めはしない。負けた闘士の大半は対戦相手に殺されて死んじまう。日に何度も殺し合いをやらされることだってザラだ。たとえ、直前の試合で瀕死だったとしてもな。闘技場の形式は、マゴットの気分一つで変わる」


 情報屋はわざとらしく悲惨な顔を浮かべた後、下品にケラケラと笑った。


「どの道、戦い慣れしてる奴しか生き残れないよ。そして戦える奴だって、あんなところに行くくらいなら、滅びかけの組織にでも所属した方がマシさ」


「腕には自信がある」


 ランベールが言うと、情報屋が呆れた様に頭を押さえ、「ああ、それは心強い」と白々しく口にする。


「……よっぽど大金が必要とかなら別だがね。闘士として勝ち続ければ、お前が生涯真面目に働いたって届かない額が、あっという間に手に入る。後は、この街でヤバイ奴の恨みを買って闘技場へ逃げ込んでくる奴だっている。闘士として入れば、外の奴らは手出しできないってんでな。逆にヘマをして、組織から闘技場送りを命じられる奴もいるよ」


「外の組織は手出しできないのか?」


「ああ、マゴット自体、かなり危険な男だ。昔は大貴族に仕えていた一流の魔術師だったらしいが、殺人癖があって表の世界にいられなくなったって話だ。闘技場自体、この都市の複数の主要組織が協力して成立させてるものでな。闘士に如何なる背景があっても、どこの組織もノータッチが暗黙の了解になってる。賭博対象でもあるから、闘技場の信用を落とすようなことがあれば大問題になる」


「……複数の主要組織が協力して成立させている、か。そうか、こういう場所もあったか、盲点であった」


 ランベールは、暗黒街ドレッダの支配者である人物を捜していた。

 しかし、どこで探っても、暗黒街は複数の武装組織が牽制し合っているだけで、明確なトップは存在しないという話だった。


 だが、ここにあったのだ。

 暗黒街の主要組織が争いを控え、一点に集う場所が。


 この闘技場の形態であれば、複数の主要組織の幹部が集まったとしても全く不自然にはならない。

 闘技場の裏に複数の組織の首魁を集めて、指示を出してこの暗黒街を牛耳っている人物、『首無し魔女』がいるのかもしれない。


「もう一つ、確認しておきたいことがある。銀髪の、男勝りの女を知らないか? この街では浮いている、派手で綺麗な格好をしているはずだ」


 ランベールは金貨をひと握り、古ぼけた机の上へと置いた。

 情報屋は満足気に頷く。


「……銀髪の、綺麗な格好? シャルルって女か?」


「ほう、さすが。知っていたか」


「……ちょっとばかり有名な奇人というのもあるが、実は、俺のところにも来たことがある。妙な女だったよ。華奢だが、その辺りのゴロツキじゃ敵わないくらい剣術に長けている。行儀がよすぎるから、実戦は少ないはずだが」


 シャルルは、伯爵家に代々仕えている剣士の家系であるトロイニアより、剣術指南を受けているという話であった。

 しかし、彼女がそこまで情報屋が恐れる程腕が立つのだとは知らなかった。


「あの女……この都市について、異様に詳しいんだ。武装組織の力関係なんかも、俺よりずっと詳しかった。剽軽な態度をしていたが、不気味で仕方なかったよ」


「ほう……?」


 シャルルは何度か伯爵邸を抜け出して暗黒街へ調査に来ているようだったが、それだけで暗黒街に在住している情報屋よりも内情に詳しいというのは妙な話であった。


 義理の父であるパーシリス伯爵より何か聞いていたのかもしれないと考えたが、しかしすぐにその考えを打ち消した。

 パーシリス伯爵は暗黒街の調査を半ば放棄しているのだ。

 彼がシャルルに暗黒街についての知識を与えることができたとは思えない。


「……シャルルは調査中に、暗黒街の重鎮と接触することに成功していたのか?」


 ランベールの脳裏に、銀髪の利発そうな少女の顔が浮かんだ。

 確かに剣術をまともに教わったこともないゴロツキ相手であれば、シャルルがトロイニアより教わった剣技を用いて圧倒することもできなくはないのかもしれない。

 だが、彼女がそこまで調査能力に長けているともとてもではないが思えなかった。


「……それより、俺は彼女を捜している。行き先はわからないか?」


「残念ながら、そっちについてはわからない。俺も会ったのは随分と前だからな」


「そうか……」


 しかし、シャルルの向かった先については見当がついていた。

 シャルルは闘技場に魔女がいるかもしれないと、そう口にしていた。

 彼女も闘技場に向かった可能性は高い。


「他に何か聞きたいことは……」


「いや、充分だ。後は俺が、直接闘技場に探りに行く」


「……闘士として、か? だから急いで大金が欲しいか、余程どこぞの組織から恨みを買って匿ってもらいたいのでもない限り、あんなところは行くものじゃない」


「恨み、か。そういえば買ったところだったな」


 ランベールはぽつりと呟く。


「……おいおい、何をやらかした? 俺を巻き込まないでくれよ」


「『土蜘蛛』を滅ぼして来たところでな、残党に恨みを買う恐れがある。丁度良かったのかもしれない」


「……おい、冗談でもそんなことは口にするもんじゃねえ。『土蜘蛛』は大規模組織だ、どこに構成員がいるのか、わかったもんじゃない。聞かれたら、大事になる。あいつらは、舐められたら終わりだからな」


 情報屋がぶるりと身体を震わせる。

 どうやら、まだ情報屋の元に『土蜘蛛』の話は入っていないようだった。


(参考にしていいのか、こいつは?)


 ランベールは情報屋の情報の遅さに不信感を抱いていた。

 確かに時間こそさほど経っていないが、大事であったはずだ。

 どこかしらの伝手から情報を得ていて然るべきではなかろうか。


 ……しかし、実はランベールによる『土蜘蛛』襲撃については、起こった事件があまりに非現実的過ぎて情報の伝達が遅れており、暗黒街の中に浸透していないという背景があった。


「では、この辺りで俺は行かせてもらう。情報、感謝する」


 ランベールは血に汚れた赤い袋を取り出し、机の上へと置いた。

 反動で中から金貨が飛び散った。


 情報屋が目の色を変え、椅子を倒して立ち上がった。

 袋の大きさからして、相場の十倍以上の額が詰まっていた。


「な、なんだ、これは?」


「今回のために俺が用意しておいた謝礼だ。余ったようだが、これ以上持ち歩くのも面倒なのでな」


「お、おい……この血、新しいじゃないか。一体、どこから持ってきたんだ?」


 金貨は『土蜘蛛』の拠点である『蜘蛛の巣』に隠されていたものである。

 エリクが目敏く発見したので、ランベールも情報屋に当たるために適当に掻き集めておいたのだ。


「拾っただけだ。出所がわからないと不安か? ここで暮らしている割には、小さいことを気にする」


 ランベールはそれだけ言い、彼に背を向けて去っていく。

 目指す先は、暗黒街の闘技場であった。

【他作品情報】

「転生したらドラゴンの卵だった」の第十巻が本日発売となっております!(2019/7/16)

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